不倫日記

不倫日記

2008.05.02
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 大人になっても、それは記憶として残ってるし、時々、夢でも見る。だんだん薄れていくけれど、強烈な部分だけは、断片的な記憶となり、恐ろしい部分だけが誇張されて残る。
 夢っちゅうもんを、寝たら見るもんと認識したのも、小さい子供の時やった。寝たら何でもできる。コントロールはでけへんから、怖い目にあうかもわからんけど、幼心にこの状態……お父ちゃんがずっといなくて、腹を空かせたまま帰ってこないこともある恐怖から逃げ出したくて編み出した方法が夢を見ることやった。
 けど眠くないときはどうしよう?
 それが妄想やった。
 せやから大人になってから、そういう子供の頃を過ごした自分に気づいて、記憶の整理が大変やった。
 妄想と夢は同じくくりでいいと思うから、今の蛇の話は、大人の俺の中では妄想の一つやったと片付けられた。
 けど山姥の話は現実やと思うし、隣のおっちゃんが犬を殺して喰ってた話も……
 いろいろ考えてると、どれが妄想やったか、現実やったかわからんようになったけど、理屈で説明がつかんもんは、やっぱり妄想にしてしまった。
 妄想癖は小学生になっても、中学生になっても変わらんかった。字を習うようになってから本も読むようになったし、妄想を紙に漫画で書いたり、文章で書いたりして遊んでた。

 寝てて夢を見んことはなかった。今でもそうや。
 一時間くらいの睡眠でも必ず夢は見るし、夢を見ん人の睡眠がどんなに気持ちいいもんかうらやましかった。それが熟睡っていうんやろ。
 ん?
 かつき。
 寝てるんか?」
「おきてるよパパ」
 ぼくはこたつのなかで、ふるえてた。
 パパのいってることはほとんどいみのわからないことだったけど、なんとなくすごくこわいはなしだとおもって、おめめをあけていたらこわいから、つむってきいてたんだ。
 パパはぼくがねてるとおもってたみたい。
「怖いんか?」
「こわいよー」

「やだ、やだ、もっとおはなしして」
 おはなしをやめたら、またパパとはなればなれになるようなきがする。こわいはなしでもいいから、パパのおはなしがききたい。
「ほんまに怖い話でええんか、変わった子やな」
「パパ、パパ?」
「ん?」

「パパもわんわんたべたことあるの?」
「犬か……。
 子供の頃はそうと思わんかったけど、大人になって記憶を辿ったら、確かに犬の肉は食わされたような気がする。
 肉っちゅうても、その頃は変な肉ばかり食わされてたから、どれがそうかわからん。少なくとも今で言う、カルビとかロースなんかは無かったな。一番、食わされてたんが、焼き鳥かホルモンやろな。ホルモンも子供はあれ食ったらあかん。これ食ったらあかん、って言われて、なんかセンマイとかいうやつを酢味噌かけて食わされとった。
 当然、一杯飲み屋みたいなところや。
 鯨もその時は、貴重な肉やった。ベーコンの刺身、コロ、鯨の大和煮っていう缶詰。
 お父ちゃんは鯨の塊の肉を買ってきて、塩漬けにして、冬の寒いときに干して保存食みたいにするんや。それを電熱線がぐるぐる巻いた迷路みたいになってるコンロで焼くんや。
 塩鯨って呼んどって、寒くなったら必ずお父ちゃんは作ってた。
 今で言う、カルビとかロースなんかは、大人になってからしか食うたおぼえあらへん。酒のあてみたいな、貧乏人の食うもんばっかりや。
 せやけど、一回だけ、なんかしらんけど肉がずっと続いた日があったな。
 まあ、それも煮込みって言うか、どて焼きみたいなやつや。どて焼きってゆうたら、大阪では有名やけどな、すじ肉みたいなやつを甘辛い味噌で煮込んだやつや。
 西成や新世界では、そういう食いもん屋がいっぱいある。
 上等な肉やないけど、何日続いたんかはわからん。妙に肉を食わしてくれる日が続いてな。お父ちゃんも一緒になって食ってたのが印象的やった。
 今、考えると、あれが犬やったんかと思う。
 冷蔵庫もなければ冷凍庫もないからな。
 どういう風に保存してたんかはわからんけど、どっちにしてもはよ食わなあかんかったんやろ、焼いた肉も食わされたし、臓物の煮込みみたいなんもあった。
 その時はあまり感じんかったけど、今になって思うと、臭かったような気がする。
 臭い肉なんかあたりまえやったからな。妙にその頃はお父ちゃんがアパートにいてくれたような気がしたけど……
 今、急に思いついたけど、その肉ばかり食わされた時分な……なんとなく生まれてからすぐのような気がしてん。
 いや、そんなもん生まれてからすぐは肉なんか食われへん。
 俺は今のかつきみたいに、母乳飲んで、離乳食食べてとかいう順序辿っていったとは思われへん。なんでも食わされとったやろ。
 最初に、生まれたときの事、パパは覚えてるってゆうたやろ。赤くて血の臭いがして、何か、肉や内臓を掻き分けて出てきた記憶。
 それを生まれたと思ってるんやけど、まあ、小さい頃から空想癖がついてるから、どれが現実で空想かわからへん。
 けど、血の臭いから出てきた記憶は、いやに生々しくて、ずっと俺はあれが生まれたときなんやと思って生きてきた。
 ほんで、生まれてすぐに肉を食べたような気がするんや。
 なんでやろ。
 ところどころの記憶が、いろいろ飛んでるのはなんとなくわかってたんや。
 パパな、左足の甲に、火傷のあとがあるねん。
 これはな、なんかようわからんけど、夏に公園で花火をしててん。夏はおとうちゃんの露天もみんな雨さえ降らんかったら夜遅くまで露天商やってるねん。四角公園の周りやな。お好み焼きやもいっぱい飲み屋も、みんな電気ついとった。
 どういう集まりなんか今では覚えてへんけど、記憶があるのは子供も大人も集まって、花火をしとった。
 小さな公園やけど、中も周りも人はいっぱいや。
 みんな知ってるもん同士やけど、そう深くは知らん仲間や。
 誰かが何かやってたら人が自然と集まってくる。他の子供達は学校かなんかで顔見知りなんやろうけど、俺は保育園もどこにも行ってへんから友達がおらへんかった。
 俺は滑り台の下くらいで、線香花火かなんかわからんけど花火を持っとった。
 それがもう終り間際の頃、火の玉が足の甲に落ちたんやな。
 裸足てわけやなかったんやろうけど、多分、サンダルみたいなん履いてたんや。記憶にあるのは玉が落ちる瞬間と。
 泣きじゃくって、大人に抱えられてる場面。
 それだけや。
 けっこう大きな痕が残ってるから、小さな線香花火やないような気がするんやけど、今となっては何やったか思い出されへん。
 病院とか連れてってもらったんかな。
 金もないし、保険証もないし、行ってないんかもしらん。行ってたら、今、こんな目玉焼きみたいな痕にはなってへんやろ。
 ほうったらかしや。
 ほんま原始人みたいな生活やな。
 どうも、その瞬間の記憶は、生まれる前のような気がするんや。
 そんなことあるわけないけどな。
 血や肉を掻き分けて出てきた記憶よりも前にいつも置かれてることがいくつかあるんや。
 もしかして前世の記憶?とも思ったけど、それやったら、明治とかもっと前やろ。ちゃんと火傷の痕も残ってるし。
 ほんま、記憶ってあいまいなもんやな。
 そういえば、俺もかつきみたいに、怖い話を聞くんが好きで、よう、大人にせがんどった。
 その公園に、ちょっと学のあるおっちゃんがおって。みんなからは「ナカコウジ」って呼ばれとった。
 苗字が「中」で名前が「浩二」なんか、苗字だけで「中小路」なんか、それともあだ名なんかようわからん。
 そもそも西成におるもんなんかみんな正式な名前あるんかもわからん。とにかくナカコウジさんは、夜になったら公園におった。
 冬はそんなことせえへんけど、夏は露天の手伝いばかりしててもおもしろくないし、俺もいろいろぶらぶらしとった。
 どんな顔かも覚えてへんけど、帽子をかぶってたことしかわからへん。けど、今考えたら、西成におった大人はみんな帽子かぶってたか、鉢巻してたような気がするなあ。ファッションなんか、実用的なんかようわからへんけど、外に出るときはみんな帽子かぶってたような気がする。俺も野球帽をかぶってたよ。おとうちゃんが巨人ファンやったから巨人の帽子や。大阪やけど、その頃は長島や王のいる、巨人は大阪でも人気やった。
 とにかくそのナカコウジさんは、話好きやった。
 昔話やな。
 今は絵本になってるけど、桃太郎とか金太郎とか、童話でいえば赤ずきんとか三匹のコブタとか、考えてみたら昔話みたいなもんは全部、ナカコウジさんから聞いて覚えたような気がするんや。





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Last updated  2008.05.02 12:58:21
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