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横須賀線沿いの道を、海蔵寺に向かった。 今頃は、わたしの大好きな紫苑の花が満開のはずだから。 紫苑は、亡き母が本当に愛した花だった。 今も、母と実家のエントランス沿いに植えた日のことを鮮明に思い出せた。 夕方近くに大きな穴を掘って、一抱えはありそうな株を植えた季節はいつだったのだろう。 さほど寒さも暑さも感じなかったので、きっと晩春のころだったのかもしれない。 「母さんは紫苑がどうして好きなの?」 「なんでかねぇ。楚々としていてそれでいてうんと背が高いけど、でしゃばった感じがしないからかな?」 そんな会話をしたのは、わたしが二十三歳の頃のことだった。 母と植えた紫苑の花は、一体どんな感じに咲くのだろうか、とわたしは本当にそれが開花するまで楽しみで仕方がなかった。 実際に、我が家の庭に初めて咲いた時、母の気持ちが手に取るように伝わってきて、わたしも母に負けずに大好きになっていた。 両親の援助もあって、この頃わたしはいけばなに没頭していた。 そんな折、免状を頂き雅号をつけることになっのであるが、迷わずこの花の名前に決めたのであった。 紫苑の花には、そんな母とのエピソードがあったので、特別に思い入れ深かった。 だからと言うわけでもないけれど、わたしは毎年、海蔵寺の紫苑を愛でることが習慣になっていたのである。 途中の民家では、たわわに実った柿が塀越しに垂れ下がっていたり、足元には雑草の中に、ホトトギスが秋の風情を醸しだしていた。 本当に良い季節である。 生きていて良かった、と感じさせてもらう瞬間でもあった。 「母さん、空を見て」 同行の長女が空を指差した。 そこには真っ青な空があり、たった今描かれたばかりの飛行機雲がどこまでもまっすぐに続いていた。 「本当にさわやかで素敵な季節だね」 二人で顔を見合わせた。 緩やかでやさしい時間が、そこには横たわっていた。
2009年10月12日
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