自動車産業の経営戦略について述べることにしよう。まず戦略とはどういう意味なのか、ということから見ていきたい。戦略とは、企業が市場を切り開いたり他の企業と競争する時には、ある考えをもって、ある方向を目指して活動するものである。このような企業の活動の仕方の大きな枠組みのことを戦略又はストラテジーと呼んでいる。この戦略によって企業の業績は大きく上下し、最悪の場合には倒産ということにもなりかねない。戦略とは単にある方向を目指してつくればいいものではなく、しっかりとその時代の技術の発達水準、産業、経済の状況、政治、そしてある製品が製品のライフサイクルのどの状況にあるのかということを把握する必要があることがわかる。時代の環境をするどく、正しく見ぬいたものだけが、その企業の生命を維持し、又発展させることのできる戦略をつくることができるのだ。以上のことをふまえ、私が選んだ企業は、自動車産業の大御所で、日本の企業の最大手である、豊田自動車の戦略についてみていくとしよう。 トヨタの成功にはトヨタの経営方式を抜きにしては語れない、つまりトヨタの強 さはトヨタの生産システムの導入によるだ。そしてトヨタ生産方式は今日世界中の工場で適用されている。これはトヨタ生産システムが洋の東西を問わず、普遍性を持っている証拠である。 日本が第二次世界大戦に敗れた1945年のころ、日本の生産性はアメリカの八分の一だった。まさか日本人がアメリカ人に比べて体力が八分の一に負けているとは考えられない。日本人は何か大きな無駄をしているに違いないと考えられた。当時のトヨタ社長・豊田 喜一郎氏(1894-1954)は「3年でアメリカに追いつけ」と、社員に向けて叱咤激励した。そこで考え出されたのが「徹底したムダの排除」であった。 u 作りすぎのムダ u 手持ちのムダ u 運搬のムダ u 加工そのもののムダ u 在庫のムダ u 動作のムダ u 不良を作るムダ という7つのムダに分けて考えた。作りすぎのムダは在庫のムダを引き起こし、運搬のムダにつながり在庫を管理する費用や運搬費がかさむだけである。ここで、必要なモノを必要なときに必要な量だけ手に入れる「ジャスト・イン・タイム」という発想がうまれた。また、動作のムダや不良を作るムダは、機械の配置を換えたり、整備を徹底したりすることで回避できる。ここで自働化という不良品が作られたときに機械が自ら停止するシステムが導入されている。また、普通、製造業には、いざというときの蓄えというものがある。何らかの原因で、前工程の生産能力がマヒしたときや、運搬できなくなったときのために、倉庫に部品等を保管しておくのである。しかし倉庫で管理をする費用や、そこから運搬する費用を考えるとばかにならないし、保管している間に不良品が出る恐れもある。加えて、消費者のニーズにすばやく対応することも難しくなる。例えば成熟化した市場に対応しないでいると、企業は大きな損害は避けられない。そこで考え出されたのが、「かんばん」である。後工程が引き取った分だけ前工程が作るというやりかたである。必要なときに必要なモノがある…余剰のムダを省いたものがジャスト・イン・タイムである。それは生産現 場の効率を高めるために、工程間の在庫をなくし、作業のムリ・ムラ・ムダをなくして、必要なものを必要なときに必要な量だけ生産したり運搬したりする仕組みである。それを実現するための前提は、量も種類も平均して生産する「平準化生産」である。それは、一定期間内の生産量を時間の流れに対して一定にする側面と、均等に分散して生産する側面の2つがある。また、「ジャスト・イン・タイム」方式の基本原則のひとつに、後工程が必要なものを必要なときに必要な量だけ前工程から引き取り、前工程は引き取られた分だけ生産する仕組み、すなわち「後工程引き取り」がある。それを実現するための道具のひとつには、「かんばん方式」がある。これにより、「目で見る管理」が生まれた。この手段によって、「つくりすぎのムダ」をなくし、前工程の生産を連鎖的に同期化した結果、限られた設備と人員で効率の高い生産が可能となった。 もう1つの柱として、ニンベンのある自働化とは「機械に人間の知恵を持つことを意味する。自動機械の場合何か異常が起きて不良品が出始めると瞬く間に不良品の山を築いてしまう。そこでトヨタはニンベンのある自働化を強調する。ニンベンのある自働機械、すなわち自動停止装置付の機械を採用する。人手作業による生産ラインでも異常があれば作業者がスイッチポタンを押してラインを止めるようにした。」トヨタ生産方式の一番大事なところは、トラブルなど問題が発生したときラインを止めること。つまりトラブルが見てすぐわかるようにということである。機械の多台持ちを可能にするために、すなわち何らかの異常が生じたら機械がみずからそれを検知して停止する装置を取り付け、作業者の機械監視のロスタイムをなくすそうと「自働化」が進められた。それは、単にものづくりを機械化・自働化するだけではなく、異常や不良が発生したら、ただちに機械の運転を止めて不良品を作り続けることを回避するための仕組みである。そのうえ、「自働化」を行うことにより、多台持ちが可能となったが、機械により能力が異なるため、ある工程では作りすぎるという問題が出た。そこで、工場全体の生産性を高めるために「多工程持ち」にして、生産を平均化した。これにより、従来のロット生産方式から流れ生産方式の再開に大きく踏み出した。「流れ生産」=「工程の流れ化」により生産工程の中に停滞している在庫をなくし、材料が1度生産工程に投入されたら速やかに完成品にできるようになった。流れ生産をスムーズに行うためには、「段取替え時間の短縮」、「多能工化」が必要である。 現在までの生産管理史上、トヨタ生産システムは画期的な生産管理システムとして取り上げられてきた。トヨタ生産システムの基本思想を支える柱として「ジャスト・イン・タイム」と「自働化」があり、あらゆるムダの徹底した排除を目指す生産方式である。それでは、そのような生産方式の問題点はどのような所にあるか調べていこうと思う。まず、 第一に労働密度が高まり、労働強化となることがあげられる。しかし、トヨタ生産システムの目的でもあるムダを省いた生産は、リズミカルで有効な作業を可能にした。それは、職務拡大・職務充実の原則にも合致しており、逆に作業者の「やる気」を高め、最近では人にやさしい工場・工程作りもなされており、作業負荷評価法による工程改善も実施されている。 第二にトヨタ生産システムは、下請企業(協力企業)の犠牲の上に成立している点である。トヨタほど下請企業を真剣に育成し、共存共栄を図ってきた企業も少ない。また、下請企業に頼ることで、様々な部品を必要なときに必要な量だけ運搬することが可能となった。これは、「在庫のムダ」を徹底的に排除した生産方法であったが、下請工場や運搬過程に故やトラブルがあった場合、部品が定刻どおりに供給されず、ラインの全面操業休止を余儀なくされるというところがこの生産方法の弱点でもある。 第三に頻繁なモデルチェンジと、消費者の広告宣伝による扇動という批判である。頻繁なモデルチェンジや部品などの標準化不足は資源のムダ使いを引き起こす恐れがある。また、不必要な消費者の活用による環境汚染も避けなければならない。 第四に販売・サービス・商品企画・開発・技術開発・原価企画などの面についての検討が不十分であることである。トヨタ生産方式はあくまで生産方式であり、総合的な経営システムの一環としてのものである。総合システム構築の努力の中での、有効な生産システム追求でなければならない。トヨタ生産方式もまたその管理技法と時代の変化、環境の変化の中で革新を求め続けられている。その意味では、総資本利益率向上という観点から、トヨタ生産方式を支える技法群を位置づけ、その適用を他の面にまで及ぼすことも検討しなければならない。 このように、優れた生産方式として取り上げられてきたトヨタ生産方式にも、いくつか問題点があるということであった。今まで長所に見えていた点も、長所の裏側は短所でもあるということがわかる。トヨタ生産方式の研究は、広く・深い考察がその本質をつかむために必要とされると思う。だから、新しい時代に適応していくためにも、再度トヨタ生産方式を研究することは重要であると思う。そのためには、上にあげたような問題点や批判を見つめなおし、その是正努力は不可欠である。そして、今までの生産方式を振り返るだけでなく、さらに新たな改革をすすめていくことも重要である。