Rewrite of the World ♪

Rewrite of the World ♪

AIR  -空の舞台ー 


「待ってよ~まだ着替えてないんだから~」

ざざ~ん  ざざ~ ・・  
容赦なく照りつける太陽と。どこまでも続く青い海といつまでも寄せては返す波。  

「早く~!!」  
「だから待ってよぉ・・うん?」  

ぶぅぅぅぅぅ~ん・・

「もう!・・て・・どうしたの?」   

ぶぅぅぅぅん・ぶぅぅぅぅぅぅぅぉぉん・・  

「何の音・・?」  

ぐぉぉぉぉぉぉん・・どっがらがっしゃぁぁん!!! きゅる・・きゅるきゅる・・  

「・・・・・・・」 2人の少年少女は無言でその音の先を見つめる。

「・・たあああ!やってもうたわ。このオンボロバイク、たかだか速度50キロオーバーで曲がりきれないとは根性無しや~!!」 

女性が悪態つきながらバイクから出てきたのを見ると、2人はその場を立ち去った(関わりたくないと思ったかもしれない)

「ぺっぺっ! 砂まみれやないか!・・・ふぅ・・」  
道路のカーブを曲がりきれなくて砂浜に突っ込んで、砂をかぶったままのライダー服姿の女性はその場にため息をつきながら座り込んだ。  

「しかし・・・」  
そして青い海とそこから吹く海風を受けながらつぶやいた。

「また・・この日が来たんやな~・・」

「ふぅ・・しかし暑っいな~」 
結局、エンジンがおかしくなったバイクを手で転がしながら海沿いの道を歩く。

「帰ってきて早々これかいな・・呪われてるんちゃうか・・このバイクと町」  
とりあえず自分の事は棚に上げて不機嫌な顔で歩いていく。
だが・・ 

「おや?神尾さんお久しぶり♪」  
「帰ってこられたんですね~」  
「ぴっこり♪}

歩いてるから会える人(一部生物) に挨拶できる。それにこの海を見ながらゆっくり散歩できるのも良いと思う。

「いい天気やな~」  

ぴゅぅ~ 

突然強く吹いてきた海風に髪が散らばり思わず足を止めた。目をわずかに細めながら海と同じくらい青い空を見つめる。

ーただ・・もうひとりのわたしがそこにいる・・そんな気がしてー   

この空に思いをはせていた少女と同じ気分になってきたのはちょっぴり嬉しい。

「さてと、さっさと行くか」  
そんな事を思った自分にちょっと照れくさくなって道を急ぐのだった。


とりあえずバイクを転がしながら店で必要なものを買い揃える。もっとも一番大切な買い物はここに来る前に寄った大きな街のファンシーショップで済ませている。
そうして目的地の近くまでは来たがここからは石段。
バイクを置いて歩いていかなければならない。  

「ほんまに・・ぜ・・ぜぇ・・酒を控えた方が良いかも・・はぁ・・はぁ」 
どうせ数時間後には覚えていないセリフをつぶやきながら石段の上の神社に辿り着いた。

「うん?」  
目的地はこの神社の脇の道をさらに登っていった、この街で一番空に近い場所だが、神社でお祈りをしている知った顔を見つけた。  

「あら?神尾さん。お久しぶり。」 
それは近所でお世話になっているおばさんだった。 

「お久しぶり。お参りですか?」  
「ええ。ちょっと。神尾さんも?」  
「いえ・・わたしは・・」  
「あ!・・今日でしたよね・・ごめんなさい気がつかなくて・・」  
神社の脇の道を見上げながら申し訳なさ気に言う。

「いえいえ。気にせんといてください」  
微笑みながら挨拶をして別れようとしたとき。  

「そういえば・・この町では見かけない若い男性が花束を持って向かいましたけど・・誰なんでしょう?」  

「え!?」 
そのセリフを聞くと一瞬驚きのあまり固まり・・そして疲れも忘れ目的地へ向かって走り出した。 

「ちょっ・・神尾さん!・・後で私も行きますから~」 
そんな声を背に、青く繁った道を駆け上がっていく。

「まさか・・ハァハァ・・あいつが・・ハァハァ・・帰ってきたんじゃ・・」 

ーだったら何で引き取ったりしたんだよ!- 
-それでもあんたが母親なんだよ!-  

あいつの言ったセリフが今でも心に残る。しかし・・  

「もし・・ハァハァ 本当に帰ってきたらとりあえずひっぱたいたる! ハァ・・ハァ・・あの娘をほったらかしてどこへ行ってたんや!・・と。それから言いたいことも・・・ハァ・ふう・・」

どんどんと空に登っていく感覚。そしてまぶしい光とともに視界が突然開ける。 そしてそこには一人の男の姿があった。


「あ・・!!」

逆光で一瞬目をつぶってしまったが、そこには間違いなく若い男性が居た。それも晴子が良く知っている男性が。
「うん?晴子じゃないか。」
ちょうど小さな墓標に手を合わせ終わって振り返って、ちょっと驚いた声で話しかけた

「け・・敬介かい・・」
橘 敬介。今、この墓標で眠っている女の子の父親の姿があった・・。


・・何とはなくお互い無言で、その小さな墓標に手を合わせ、そして一呼吸おいて晴子はその男性・・・敬介に話かけた。

「・・こっちに来るなら連絡しい。」
「はは・・。一応連絡しようとはしたんだけどね。キミは家にどうせ居ないだろうから。・・だけど今日僕がここに来るのは当然だしわかってただろう。・・・一応この子の父親なんだからね・」

敬介はちょっと遠い目で墓標を見た後、すぐにいつもの・・・昔見せたみたいな・・・ひょうひょうとした表情をつくり
「で、キミはどうしたんだい?そんなに急いでで駆けつけて。・・もしかして僕に早く会いたかったとか?」

「アホな事ぬかせ!・・てっきり若い男性が来てるって聞いたから・・アイツが来てるかと思ってな・・」
「アイツ?キミの恋人かい?」
「うんなわけあるかい!!この子の!・・観鈴の友達や・・」
「友達!?・・か」
ちょっと驚いたような顔で、そしてふと嬉しそうな顔をした。そして晴子もまた遠い目をした。


ー観鈴ー  
今は遠く空の向こうに行ってしまった少女。
生まれてから一人として友達もできず、親しい人もできず・・空に想いをはせた少女。
ずっと孤独だったあの子に、最後の夏に起こった出来事。観鈴が一人ではなくなったこと。幸せだった事。つらかった事。ゴールした事。
あの事を思い出すとまだ悲しいけれど・・・それでもあたしは前へ進んでいる。あの娘はゴールしたけどあたしはまだゴールしては居ない。あの娘の待つゴールはまだ先だから。


「そういや敬介。ありがとな。」  

観鈴の墓参り・・・今日はあの娘の命日・・・の帰り道に敬介に話しかけた。
「うん?何が?」
「観鈴の墓の事や。・・本当ならばあんた・・橘の家の墓に入れなければならないのに・・ここにあの子眠らせるって承諾してくれて・・」

あたしと観鈴は血のつながりは無い。本当なら橘の家に観鈴を返さなければならない。
だが、どうしてもこの子はここで眠らせてあげたかった。そんな我儘に、橘の親族から当たり前の事だが猛反対があったらしい。
でも結局、父親である敬介が賛成してくれて、解決したのだった。

「ああ、その事か。・・別にキミの言うとおりにしようとしたんじゃない。あの子の・・観鈴の願いどおりにしようとしただけさ。・・一応僕も父親だ。観鈴がどう願ったかは聞かなくてもわかるつもりだ」
「そか・・」
「・・まあ、でもここは良い場所だ。海は目の前だし」  

ここは神社のさらに登った丘の頂上。見渡すと海が眼前に見える。あの子がずっと行きたがっていた場所。

「それだけやない。・・あの子がずっと想いをはせていた・・空に一番近い場所や・・・」

一番この町で高い場所。そしてもしアイツが帰ってきてもすぐに会いに行ける場所・・たぶんそれがあの子の望み・・。

「本当に良いところだねここは・・・僕もこの街に引っ越そうかな?」
「はあ!?」
唐突に言った言葉に問い返した。

「そういや晴子は好きな人居ないのかい?」  
相変わらず本気なんだか冗談なのかわからない表情で言う。

「結局僕は妻を選んだけれど、本当に好きなのはキミだったのかもしれない。」   

ふとしたデジャヴュ・・それはあの日本人に言われた時・・・・ではなく、アイツと酒を飲んでた時あたしが言ったセリフ・・。

「逃した魚は人魚やで~」  
そしてあの時と同じように私は切り替えす。そしてちょっと照れながら

「アホ。シラフで恥ずかしいセリフ言わせるなや。・・じゃあな。あたしはもう行くわ」
最後に墓の前に、ファンシーショップで買った恐竜のぬいぐるみを供えて、立ち去ろうとする。

「・・まあ、まんざら冗談ではないんだけどね・・」  
敬介は頭をかきながら、そのぬいぐるみをなでながら言う。

「アホ。・・・・・・・・・・あたしは姉貴じゃない。姉貴の代わりはできんのや・・」
そうつぶやきながら坂を下りていった。

「・・確かにキミは僕の妻ではない。だけど、観鈴にとっては母親だった。本物の・・いやそれ以上の母親だったんだ。・・だから改めて礼を言うよ。ありがとう・・晴子」
その去っていく晴子の背中に声をかけたのだった・・。


「えぇえええええええええええええ!!!!!!!」
ウチが発言した途端に部屋は大騒ぎとなった。  

「・・・まあ予想はしてたけどな・・」

話は墓参りの帰り道に時間は遡る。



「神尾さん!」
家への帰り道、声をかけられた。ふと気づくとここは霧島医院の玄関前の道路。声をかけたのはそこの先生だった。

「ああ先生お久しぶりです。相変わらずお元気そうで」  
「そちらもお元気そうですね。・・そういえば今日は・・」   
「ええ・・・その節はどうもお世話に」
「いや・・こちらは何も出来なかった。それが悔しいです」   
あれはきっとどんな名医でもどうにもならなかったのだろう。  

「でも安心しました。今の姿を見て」
「まあ、ふっ切れたわけでは無いんやが・・まあガキどもも居るし何とかやっているんで」   

その事を聞いた先生・・霧島聖はちょっと考え込んだ。 「先生?」

「ああ、すみません。どうです?ちょっとお茶でも飲んでいきませんか?ちょっと神尾さんに相談したい事もあるので」  
そう言われたので医院の中に入っていった。


「人形劇やって??」 
一通り談笑した後、聖の方から やってくれないか?と 提案されたのだった。

「せやけど、なんでそんな話に?」 
唐突な話に切り替えした。

「うむ・・原因は、そこにいる佳乃だ」  
そう隣のソファーで座っていた妹さんを指した。 
「うぅぅぅっっ」  そう言われて涙目になって訴えた。 

「だってしょうがなかったんだよ~」


話を要約すると。毎年この町の神社ではお祭りが開催されるのだが
その中のイベントとして、毎年境内前でいろんな出し物が行なわれるのが恒例になっているのだ。
それを知った佳乃は今年で学園生活最後だし、記念にお友達みんなで何かやりたい! と思いつきエンントリー。
出し物内容も、いろいろ準備の方は完璧♪後は友達に声かけて♪・・

「・・そしたら『忙しくてダメ』と友達が集まらなかったと」  
聖がお茶を ずずっ とすすりながら答えた。  

「でもぉぉ、『親友さん12号』まで声かけたんだよぉ~なのに皆忙しいなんて~」
ちょっとすねながら答えた佳乃に。 

「今の時期、受験勉強という壁があるのだ。最初にそっちの確認をしてなかった佳乃が悪い」 
そう答えた聖にまた佳乃は涙目になった。

「そんで、ウチのガキどもに頼みたいと?」  
そこで話の腰を折って話した。  
「ええ。そちらなら人数いますし・・こういうのはむしろそちらの方が合ってるんじゃないかと」  「ん~」


ーウチのガキども・・といってももちろん本当の子供達ではない。
「あの子」が居なくなった時、相当落ち込んでいた。
そんなある時、ある人が親がいない子供や親が忙しくてほったらかし子供・・暴力を受けた子供などの面倒を見る仕事をする人を募集していた。
それをやってみないか? と声をかけられたのだった。 
最初は寂しさを紛らわすための事だったかもしれない。でも今では、楽しくやっている。あの頃と同じようにー


「まあ、こちらは子供達が良いと言えば問題はないんやが」  

そう聞くと聖と特に佳乃は 「是非お願いします」と答えたのだった。
「でもなんで人形劇?」  

「だってセリフ覚えなくても良いし、もし往人くんが今年の夏に戻ってくれば教えてくれるでしょ?」  
「いや・・国崎くんのアレは人形劇関係ないと思うが・・・というかヤツは帰ってくるのか?」  
知った名前が出てきて驚いたが

「で! とりあえず劇の内容なんですがどのようなものなん?」 
聞いてみた。  

すると下から本のようなものを突き出して  

「・・じゃじゃんっ」  
と女の子が目の前に・

「・・ってうぉい!」  
いきなり現れた少女にイスからずり落ちそうになりながら  
「いきなり誰や!?あんたは」    

「あ、紹介するね~。私の『親友さん1号』で、今回の劇のシナリオと人形を作ってくれた遠野美凪さん♪」 
と佳乃が紹介してくれた。  

「えっへん♪」

1号ってところが自慢なのか、シナリオ&人形制作が自慢なのかわからないがとりあえず美凪は胸をはった。  

「はぁ・・でどっから出てきたんやあんた・・?」 
とそう聞くと 
「???」美凪は首をちょっと傾げ 
「・・朝から、霧島さんの家に人形劇の事で打ち合わせに来て、お客さん(晴子)来たから、あっちのテーブルの下に隠れていました・・」

・・・とりあえずつっこむとこいっぱいやったが、最大の疑問を聞いてみた。  

「どうしてテーブルの下に隠れてて、今出て来たん?」  
当然過ぎる疑問を投げかけられ 

首をかしげながら 「・・え~と・・・・・びっくりしたでしょ?」  
「それだけかい!!!!!!」 

それを見ていた霧島姉妹は
「おおつっこみに年季が入っていますね」  
「遠野さんにつっこめるなんてさすがだよ~」
と変な感心していたが

「と・・とりあえず台本なんやなこれは?」 
気を取り直してちょっと顔を引きつりつつ受け取ると 
そこには『翼人伝説』と書かれてあった。

「オリジナル?」  
聞いた事の無いタイトルに聞き返してみると 
「・・この町の神社に古くから伝わる伝承を元に作ってみました。
ですからオリジナルという訳では無いんですけど・・。私の家には翼を生やした少女の絵があって、ずっと興味があってちょっと前の夏その伝承についてしらべていたのでそれを元にお話を作りました」

ー翼を生やした少女ー  その言葉にちょっと思考が停止し黙り込んでしまったが  

「・・・・わっ」  
「??」  
「びっくり?」  
「・・いやそれはもうええから・・」  そんなやりとりをしていたが・・。

「ウチのガキ達がやるかはわからんが、ちょっと参考までにこの台本借りてってもええか?」  
そう聞くと 「優しく扱ってくだいね♪」 
と恥ずかしそうな訳のわからないノリで渡されたのだった・・。


で、次の日その事皆に伝えたらこうなったというわけだ。
そしていろんな意見が交わせれたが結局のところ・・

「・・でやるって事で良いんだなあんたら~?」   
「おおおおぉ!」
このガッツポーズで決まりだった。

「・・というわけで実際の配役を決めようと思うんやが・・」

そんなこんなで配役を決める事になる。子供達と一言で言っても、年齢もバラバラ。ちっちゃい子もいるし、配役も限りがある。
それに一年に一度のお祭りだ。頼まれたんだし良い劇にしたいと思う。

裏方やら、いろんな配役も決定して残りは3役・・
「で、結局主役級の3人の配役がまだ決まってないんやが・・・」   
さすがにやりたがってた子も主役クラスの役はさすがに立候補する子が居なかった。

これにはどうすれば良いか迷っていると・・
「じゃあさ~晴子がやれば良いんだよ! そのうちの一役をさ♪」  
このグループのガキ大将的な子(拓海)が発言した。

「あたしが!アホ!・・・ムリやムリやムリや!」  
自分が劇に出るなんてとんでもない。即座に反対しようと思ったが、  

「ええ~ 自分だけ何もしないなんてズルイよ~」   
「自分から話持ってきたのに~」 
とか調子に乗ってあちらこちらから声が飛んできた。

そんな声に反論することもできなく  
「うううう・・しゃあない・・ウチがやるわ・・」  
あきらめの境地になって了解した。  
その瞬間子供達からは歓声が起こったが

「・・・まあそれは仕方ないんやが・・拓海?」   
「何??」  
「『晴子』って呼び捨てにすなっていつも言ってるやろ!!!」  
「ひぇえ」
とりあえず。拓海にはチョップを食らわしておいたが。

「・・て事で残りは主役とヒロインの二人やが・・・ほとんどの子は配役とか決まったわけやし・・・う~ん・・」  

「そういや、あいつらはどこに居る?」 
そう、皆に聞いてみると
「あいつら?・・・ああ、だったらいつものように海岸で遊んでるんじゃない?」  
そう答えが返ってきた。  

そうするとまた拓海が  
「だったらさ~ あいつらで良いんじゃない?ちょうど二人なんだし。こういう時に居ないあいつらが悪いんだしさ~」  
良い考えとばかりに拓海が提案した。
「そういうのは嫌いやな~拓海」   

「ごめんなさい」 
そう叱るととしゅんとなってしまった。 
「・・ま、ウチもあいつらが配役にはぴったりと思ってんやけどな~」  
そうフォローを入れると 

「でしょ!」 
「調子の言いやつやなあんたは」 
ちょっと苦笑いをした。

「まあ、その事は後で二人に聞いてみるから良いとして、今日はこのくらいで良いやろ」  
「じゃあ、みんなこれから頼むで~」  
と声をかけると  
「おおおお!」  
皆がガッツポーズで答えた。


それから海岸に二人を探しに行った。
「もう夕方やのにまだあいつらは居るんか・・・」  
そうつぶやいた。


ーあいつら・・あの二人は、子供達の中でもやや浮いてる存在だ。
とにかく他の子供達・・というか他人に関わろうとしない。ケンカをしたり、仲が悪わけではない。
必要な時はちゃんと話したりもする。でもそれ以上のことは何もない。
・・まるであの子のように・・。 
だが、二人ではいつも一緒に居る。男の子は女の子を守るように。女の子は男の子を慕うように。
本当の兄妹のよう・・いやそれ以上に見える。
いつも手をつないで・・皆が集まる時があっても、こうやって海岸に二人だけで遊んでいるのだ・・-


「・・ま、少なくとも一人で居るわけではないから良いんやけどな・・」  
そう、またつぶやいていると、夕方で赤く染まる海岸で遊んでいる二つの影に声をかけた  

「お~い」  
二つの影は同時にこっちを振り向くのだった。


それから短い期間であったが、ウチらは準備や稽古をがんばった。
そう・・あいつらも役をやる事に了解してくれたんのだった。

あの日、その話をきりだしたら意外にもすんなりOKしてくれたのだった。
二人でやる事が条件だったが、それはこっちも望むところ。女の子はとくにはしゃいでいた。

そういえば、あの霧島さんの妹さんも来てくれた。

「わたしも手伝うよ~」 
 と毎日のように手伝いに来てくれた。
もちろん一人だけでなく 

「・・ちっす」  「脚本家&美術さんです・・・えへん」
あの遠野さんも来てくれて、いろいろアドバイスをくれる。

おまけで白い物体も応援にきてたが・・  
「ぴこっ?」  
あれは何だ・・?

ともかく皆が協力してやる事は楽しい。  
「ああっっカット~ぉ!  ・・そこは人形を空中に浮かせるんだよ~」  
「んなまねできるかよ~」  
「ええ~ 往人くんなら可能だよぉ~」  
「誰だよ~それ~??」  
「魔法使いさんだよ~ねえ遠野さん??」  
「・・変態誘拐魔さん・・」  
「ぴこ」 
「はあ~??」

あの子たちも普段とは違って、二人きりではなく皆の中で楽しげにやっている。それだけでも良かったと思う。  
「おおい~晴子~出番だぞ~」  
「だから呼び捨てにするなと言ってるやろぉ!!」  
そんなこんなで月日は過ぎていくのであった・・。

そして明日はいよいよお祭りの日。 
「ふう~ いよいよ明日やな・・」 
やれやれとため息を一つ。そして少し気になってTVをつける。そこには明日の雨の確率が0%とでていた。
「まあ、この星空だしこの時期はいつも晴れることが多いし~・・・雨だった年はあの時だけや・・・」
「おっと。明日は本番や。気合入れんとな~」 
いろんな事考える前にそばにある今回の劇の台本を取った。 

『翼人伝説』 

この台本をもらってから何十回と繰り返して読んだ。自分が劇に出るから・・というだけではない。
何度読んでも内容がずっと心に残るのだ。
「・・・この地方に残る伝説か・・」  

-翼の生えた少女。その旅の物語。家族のような仲間達との楽しい旅。そして愛する人との悲しい別れ。呪いー  

こんな感じで話は終わる。  
「・・というか伝説を忠実に再現したといってたけど・・ハッピーエンドじゃないんやな~・」
そうつぶやく。

いや・・わかっている。そんな事が問題なのではない。
その内容があの子の夢といっしょである事・・それが気になって何度もくりかえして読んでいるのだ  
「・・何か関係があるのやろか・・いや・・考えすぎやな・・」  
そうつぶやいて台本を放り投げると  
「それより明日や!  いい劇にしてみせるで~!」  

こうしてその夜は更けていくのだった・・。

ーそしてお祭り当日ー

「やっぱり良い天気やったな~」

空を見上げれば、雲ひとつ無い空。さっきまで青空が広がっていあが今は西から赤く染め上がっている。
まだ時間が早いためか階段を上がっていく人はまばらだ
早くも店をやっている屋台もありいいにおいが漂っている。

「・・にしても」  

ちょっとため息をついた。ちなみに準備はOKだ。
昼に皆で集まったけれど、小道具や人形類は完璧に仕上がっている。「えっへん」
とりあえず体調を崩している子供も居ない。準備は問題ないのだが・・  

「・・・勢いでやる言ってしもうたけど・・ウチが人前で演技なんてな~・・・」  
当日になった今更ながらこんな事を思う自分に少し苦笑する。

「・・まあウジウジ考えてもしゃあないし  出たとこ勝負でがんばらな!」 
無意味に自分に気合を入れてみたところへ・・

「お~い晴子~。いよいよだね~・・・・ってあれ? 元気無さそうだけど」   
「・・・あんたが来たから元気が無くなったンや・・」  
背中からかけられた声に嫌そうに振り返る。

「ていうか敬介!あんたに来てと言った覚えは無い! 何で来たんや!?」  
「せっかくの晴子の晴れ舞台じゃないか~。来るのは当然だよ」  
そう言われてさっきまでの気合もどこにやら。

「別に恥ずかしがる事無いだろ?  
晴子の演技なんて子供の頃学芸会とかで見たことあるんだし。
・・てか今日は笑われたからって出演者やお客さんを蹴ったりするなよ?」   

「するか!!」

そんなこんなで子供の頃を振り返りつつ話していると  
「じゃあ僕はそろそろ行くよ。本当は劇を観ていきたいんだけど仕事があるから」
「ああ、はよ行け。そして戻ってくるな」  

「おいおいひどいな~・・まあ、がんばって」   
「ああ・・・またな」  
それを聞くと敬介は手を振りつつ去っていくのだった。


祭りが始まると神社はあっというまに人であふれる。騒がしい声、威勢の良いかけ声。
りんご飴などのお馴染みの屋台もあれば、地元特産な屋台まである。
ふと前をみると子供が母親に物をねだっている。
困った顔した母親もねだっている子供もすぐに笑顔になる。
そんなお祭りの雰囲気。

「・・とはいっても、お祭りなんか十何年ぶりやしな~」 

そうあの子と来たのが最後。でも結局2回目は・・・ 

「っと。お祭りにこんなのは似合わんわな~。さてウチは劇の準備に戻るか~」  
そう言うと、結局買ってもらって喜んでる子を尻目に、恐竜の子(ひよこ)を売ってるてきやの前を通り過ぎるのだった。

「・・て事で・・・なんやこれは・・・・」  
そう呆然とつぶやいた横で 「うわ~たくさん集まっているよ~」  
と楽しそうに佳乃が答えた。

お祭りも終盤にさしかかり、あと30分ほどで催し物が始まる。舞台(境内)の前にはというと・・  
「・・・なんで、こんな劇にたくさんの人が来るんや?」  

そう。予想に反して多くの人がつめかけているのであった。

「う~んと・・私も人形劇宣伝部隊1号として2号(ポテト)とがんばったよ~♪ あとお姉ちゃんも頑張ってたし」  
「・・この姉妹は・・」  

佳乃も結局お手伝いだけでなくナレーションとして参加してくれる事になっていた
それで姉の方もはりきったのだろう。  

「・・まあ仕方が無いか」  
お客さんが居るに越した事は無い。  

「・・・予想以上に入りましたね」  
それを聞いた美凪も近寄ってくる。 
「でも・・開演までまだ30分あります。こんなに早く集まるのは予想外です。間が持ちません」
そんな心配をしていると  

「よ~し!心配しないで遠野さん。前座1号の私と2号のポテトで間をつないでくるよ~行くよ~ポテト♪」  
「ぴっこり♪」 

賛成する暇も無くお客さんの前に出て行ってしまった。 

「・・前に出たがるヤツらやな・・」  
「・・・芸人さん?」


「さあ素晴らしい人形劇の開演まであと少し♪  それまでこの前座ショー『ポテトの大道芸』におつきあいください」  
「ぴこぴこっ♪」 

ざわざわっ 

「ではポテトお手」  
「ぴこ♪」  

「おまわり」  
「ぴっこ♪」  

「喜びの踊り!」
「ぴっこり~ぴこぴこ♪」

ざわざわざわざわっ  

「・・・素晴らしい芸です」  
舞台脇から見てた美凪は感動していたが   

「・・いや、子供は喜んでるけど大人はドン引きやで・・」  
それでも最後には何とか盛り上がりつつ前座は終了。ぬいぐるみショーだったって事になっていたが  

「てか、本当にヤツの生態調べんといかんな・・」  
と心に決めた晴子だった。

それでも、そのショーを見て演じる子供達も緊張がほぐれたのかいい表情になっていた。
主役の二人も女の子はちょっと緊張していたが、男の子がずっと手を握っていた事もあって落ち着いてるようだった。

そして開演まであとわずか。 
「ただいまより、子供達による人形劇が開演します♪」 
いよいよ開演放送が入ると、 

「よし!開演まであと少しや! みんな気合いれて成功させるでぇ~」  
「ガッツです・・おー」  

晴子と監督である美凪を中心に子供達はかけ声をかけたのだった。

ー劇は翼を持つ少女がその守り手となる若者と出会うところから始まる。そしてその女官との出会い。そして暗転から脱出ー

「・・ふう~今のところ何とかなっているな~」  
人形劇であるからセリフもカンペがあるから覚える必要もあまりない。
とはいえ人前で演技するという事には変わりない。
自分の役も御付の女官という事で、準主役級でセリフもたくさんあるが、
それ以上に主役のセリフは多い。
大人である自分が苦労している中、二人は演技をこなしている。
「・・やっぱりあのふたりははまり役やな~」  
と演技と同じく二人を見守っている晴子だった。

ーそして場面は3人の奇妙ではあるが楽しい旅の始まり。だんだんと家族のような繋がりを持っていく3人ー

「家族・・か・・」  
演じているうちに、思い出すのはあの子との思い出。

ー目的地に辿り着く一行。 そして最愛の人との出会い。そして別れ・・悲しむ暇も無く危機ー

最初のうちはざわざわしていた観客も、今は声一つない。
みんな真剣にこの舞台に見入っている。周りには人形が動く時の音ととセリフだけが響く。

ーついには3人にも別れの時が訪れる。少女は空に消え、若者もこの世から去ってしまう。残されたのは女官のみー

クライマックスにしたがって観客席からすすり泣く声も聞こえてくる。  
「・・ていうかウチも泣きそうなんやけどな・・」  
いろんな事がオーバーラップして泣きそうになってる自分をこらえながら演技を続ける。

ー「そして、空にいるといわれる少女を探し続けるのです。いつまでもいつまでも・・・」-

最後のナレーター(佳乃)のセリフが終わる。 
「・・これで終わりやな・・」  
役に入りつつも無事終わってほっとしているところへ

ー「そして、それから1000年目の夏」ー

「うん!?」  
台本ではそんなセリフは無かったはず。  
「・・これで終わりやったはずだが??」  
記憶を辿ったけれど思い当たらない。どうしたら良いかあせっていると・・

ー「ある海に近いちっぽけな町で一人の青年がバスから降り立つ・
・・どこまでも青空が夏がどこまでも続く町で若者は出会うのです。
空にいる少女と。そして1000年もの悲しみの物語に終わりを告げることとなります」
「そして少女は家族を手に入れました。そしてその若者と幸せに暮らしました。
いつまでもいつまでも・・・・・-

そうナレーションが締めくくると観客席からは拍手がまきおこりました。それはいつまでも鳴り止まなかったのです

「ふ・・やれやれといったところやな・・」  

そう晴子は境内の階段に座ってつぶやいた。すでに劇・・というかお祭り自体がとっくに終わり静けさを取り戻した神社。
「・・・まあ、最後はいろいろあったが・・・無事終わったし、あんなに客も感動してたし良かったんやろな・・」  

いつまでも鳴り止まない拍手の前に照れながら挨拶して、子供達に感謝をした後、
監督でもあり脚本を書いてくれた美凪に最後のシーンについて聞いてみた。


「付け加えて無いやって??」  
「・・ええ。台本は元からあれですよ?」  
てっきり美凪が急遽ラストを付け加えたのだと思ってた晴子は拍子抜けした。 

「いや・・ウチが昨日見たときは台本は・・」  それを美凪はさえぎって 
「・・あんなにお客さんが喜んでたんだからオールOK」 
そしてにっこり微笑んだ。

「・・まあええわ・・あのラストの方がハッピーエンドぽいし。
・・・でも凄いな~遠野さんは。人形の裁縫だけでなくあんな脚本まで。才能あるんやな~」  
「えへん」  ちょっとだけ胸をそらした後  

「でも・・」  ちょっと空を見上げて

「伝承を調べてたのは本当ですし、シナリオを考えたのは私です。・・でも、劇にできるほど伝承のお話も残っていなかったから・・。
でもいろんな伝承を教えてもらったんです・・夢の中で」   

「夢???」  驚いた晴子に微笑みながら  

「はい・・夢の中です。いろいろと教えてもらいました大昔のお話を。・・懐かしい・・・本当に久しぶりに会えた女の子から・・」

そう空を見上げて悲しげな顔をしていたが  
「じゃん。・・・これを差し上げます」  

そう唐突に晴子の前に紙切れを差し出し  
「『いろいろがんばったで賞』です。それでは・・」  

「お米券?」  呆然とする晴子に挨拶して去っていくのであった。


ざあ~  涼しい風が吹き通る。  

「・・あの子は見てくれてたんかな・・・」   
そう感慨にふけって満点の星空を見上げて・・

カー カー  ばっさばさ。  カー  カー  ばっさばさ。  カーカーばっさ・・   

「って黒っ!  ムードぶち壊しや!」  

上を見上げたら星空でなく木々に止まっているカラスの大群が目に入ってしまった。

「ていうか何でこんな夜中にカラスの大群が・・・ってもしかしてお前『そら』か!?」  
目の前でこっちを見つめているカラスに声をかけてみる。


ー『そら』・・あの子が拾ってきたカラスの子供・・そしてあの子とずっといてくれた友達
・・そしてあの子が居なくなってから空へと旅立っていたー


「・・そんなわけないか。というかカラスの区別なんてウチにはできへんしな・」  
ため息をつき  「でも」
「あんたがあの『そら』だったらウチは嬉しい。劇を見に来てくれたんやしな・・それにこんなに仲間も出来たってことやしな・・」  
ぐるっと木々に止まっているカラスを見渡して話しかけた  

「・・ってウチ 何カラスに話しかけてるんや!」  とりあえ自分につっこんで.
「ありがとな・・」   

そうつぶやくと一斉にカラスの群れは空へと帰っていくのだった。
「・・なんやったやろ今のはホンマに・・・」  
そう思ってカラス達が居た樹の根本に何か落ちているのを見つけた。 
「うん?」 晴子が近寄ってみると  

「!!・・なんでこれがここに・・」  
そこには晴子が買ってあの子のお墓に供えた恐竜のぬいぐるみが置いてあった・・。

「敬介が持ってくるわけはないし、あのカラスども・・・が持ってきたら不気味やな・・そんなわけないか・・じゃあどうし・・」  

そうつぶやいた晴子の目から涙がこぼれた。
そう。そんな事はどうでも良かった。あの子が多分見ていてくれたんだと思うとこらえきれずに叫んだ   



「みすずぅぅっ!!!」



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

ざざ~ん  ざざ~ ・・  

容赦なく照りつける太陽と。どこまでも続く青い海といつまでも寄せては返す波。  
海からの風を受けつつ、先日の祭りの事を振り返る。  

「あれは夢やったんかな・・やっぱし」  
あの後、われに返って樹の下を見ると人形は消えていた。後で確認したら、人形も元の場所にあったという不思議な話。

・・・ふと、もう一度空を見上げてみる。どこまでもつづく青空を


ーにはは♪ すっごい楽しかったよお母さん♪ー   -晴子にしては良かったなー


そんな声が聞こえた気がした。今度は幻聴なんかじゃないはず。

「喜んでもらってなによりや」 青空に向かってそう叫ぶと  

「さて・・仕事に行くとしようか!」  バイクにまたがり海を後にするのだった。


ーEND-

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