Rewrite of the World ♪

Rewrite of the World ♪

智代アフターーいつか届く高みにー




じりじりと太陽が照りつける。

今日も暑い日中だった。
残暑ってやつだ。
それでも夕方近いこの時間になれば涼しい。
とはいえ日陰も無い一本道を歩いていればへばってくる。
そうでなくてもあたしは暑いのが嫌いなんだ。

(ていうかこんな遠いなんて聞いてないし) 

誰も近いとも言ってなかったが。でも遠いのはムカツク。

そう思って前方を見てみると色づく大地。
さらに歩くと大きな花畑。
それはいつかの光景。
それは懐かしさとふいに涙がでそうになる光景だ。
感慨に浸っているとふと海の匂いが強くなっているのに気づき波音が聞こえてくる。
とうとう目的地にあたしは辿り着いたのだった。

「ふう~やっと着いたか」 

その場所まで来るとあたしは疲れた体をほぐし、そしてその場所にどかっと座った。
女の子なのに・・と知り合いがいたら咎められそうだ。
といってもそれがアイツならシメるだけが。
先輩だったら・・・・謝ればすむことだ。

「やっ~久しぶり!」 

ま、今は見ているとしてもコイツだけ。とりあえず挨拶してみた。
返事は無い。
その場所はせみの声と海の音を除けば静かだ。

さきほどからポケットの携帯の着メロが鳴り続けていたがそれも速攻で切ってやったから・・・まあ静かだ。そう決めた。

「いや・・本当に久しぶり。特にあんたとこうして正面きって話するなんて特に」 

そしてあたしは語りかける。向かい風に髪をなびかせながら。

「もしかしてあの時以来か」


あたしはあの時の事を思い出していた・・・。


「間違ってるだろっ!!こんなの絶対おかしいっ!!」


あたしは鷹文の制止にも関わらず、あいつに叫んだ。

何を言っているかもわからないようなあいつに。そしてこの現実に。

「こいつがーーーなんでこいつがっー!!」

それでもあたしの衝動は止められない。この絶望感は耐えられない。

「だってこんなのーー うわあああぁああぁーーーー!!!!」

そしてあたしはその部屋を飛び出した。

後ろからは鷹文が追ってきているのがわかっていたが足は止まらなかった。

こんな姿を見られるのも嫌だったしそれ以上にその場所から逃げ出したかった。

そしてあたしは外に出ると街を駆け抜けた。息の続く限り・・


(2)回想



「はあ・・はあ・・」 

疲れて立ち止まって辺りを見回すとそこは坂の下だった。

「学校か・・いつのまにこんなところまで来ちゃったんだろうあたしは・・」  

そこは、鷹文と先輩が通っている・・そしてあいつが通っていた学校。

「は・・は・・何やってんだろあたしは・・」

逃げ出した場所がよりによってここなんて。笑いたいのか泣きたいのかわからない。

これまでの「家族」の原点。そしてその始まり・・。

そして思う。あの人達がもしこの学校で出会わなければ良かったんじゃないかと。
そうすれば今のこんな悲しみも無かったんじゃないかと・・

「あの・・もしかしてあなたも学校に行きづらいんですか?」

そんな事を思っているとふいに声をかけられた。

「あんたには関係ないだろ!!」

そんな思いの途中を中断させられ、怒鳴って振り返ると、そこには大人しそうな少女が居た。

「あ・・すいません。つらそうな表情をしていたからつい・・」

その少女はあたしの剣幕に驚いたのか申し訳無さそうに答えた。制服の校章の色を見ると先輩と同じ色・・それは先輩と同じ学年だ。

・・・だが、雰囲気は先輩よりも大人びて見える気がする・・。

そして見知らぬ、こんな大人しい少女にあたったかのような言動をしたのが恥ずかしい。

「・・ごめん怒鳴って。でも制服あんたと違うだろ?」 

そう答えた。

「そういえば・・ごめんなさい・・。
以前、私も学校に行きづらくなって坂の下で立ち止まってしまった事ありましたから・・」

そう恥ずかしそうに話す少女。

あたしや先輩と違って気の弱そうな少女だ。そんなこともあるのだろう。

とりあえずあたしはここに用はない。そのまま立ち去ろうとした。

「あの・・でも・・つらそうな顔をしてますよ。あたしでよければ相談にのりますけど・・」

そう少女はあたしに尋ねてきた。

あたしは驚いた。

とはいえそもそもこの問題は他人に話してもどうにもならないものだ。

そのまま無言で立ち去るべきだったのかもしれない。

それでも・・その時のあたしは何かにすがりたい気分だった。

何でもいいからすがりたい気分だったんだ。

だからあたしはその少女の問いに

「・・・・・」

うなずいたのだった。


そして近くの公園に移動するとお互いの自己紹介をした。

「あたしは可南子」 

そう簡単に述べた。

少女も名乗る。古河渚と。

「・・・・・・」

その少女・・古河はあたしが話し出すのを隣でじっと待っていた。

「・・そう・・何から話せば良いんだろう・・」

そう言いながらも他人にこんな事情を話している自分にとまどっていた。

だけど何となくわかった気がする。

口調や年齢は違うのだが「相談にのるよ~」そういってあたしたちの仲裁に入っていた少女を思い出していた。そんな無邪気だけど、他人を本気で心配してくれる少女。

だからあたしは話そうと思ったのかもしれない。ある夏の物語を。

すべての始まりを・・


(3)可南子



すべての始まりの日。

あたしは家を飛び出していた。

裏切られたと思った。悔しかった。

愛なんて無いんだと思った。悲しかった。

信じられるものなんて無い・・そう思った。



あたしは街をあてもなく彷徨った。
そして思い出すのは父親の笑顔。
・・そして別れてしまったあの少年・・幸せだった日々・・。
そう思ったら急に少年に会いたくなった。
鷹文に。
別にまたやり直そうと思ったわけでもない。
それはケジメだった。
父親に対しても。
そして確かめたかった。
永遠の愛なんて本当に無いのかを・・


鷹文の家に行ったら彼は居なかった。
最近、姉の彼氏の下に通いつめているという。
疎遠になっている家でいつまでも待つなんてできなかった。

再び街に出たあたし。再びあてもなく彷徨う。
暑さと疲労であたしは構わずその場に座り込んだ。

(もうどうでもいいや・・)

そう思ったあたしのそばにトラックが1台止まっていた。
その車中の若い男がこちらに気がついたみたいだ。

「ねえ、ここらへんの人? 案内してくんない?知り合いのアパートに」

その男に冗談半分に尋ねてみた。男も呆れていた。
我ながら馬鹿な事を言ってると思った。

でもその男がその例の彼氏だとわかった。

「あの人の男見られるとは思わんかった」

それ以上にこんな奇跡にも驚いていたが。

それが・・あいつとの出会いだった。


あいつについてアパートに行ってみると、先輩が居た。
そして先輩の父親の愛人の子だという とも が居た。

そして鷹文も。

当然、鷹文は歓迎しなかった。当たり前だ。鷹文にとってあたしは呪いそのものだから。

「帰れよ」とも言われた。

だけど、結局みんなはあたしが居る事を許してくれた。


そのアパートでの生活は楽しかった。
あの楽しかった日々が戻ってきたようで。
家族が居て。鷹文が居て。
あたしの居場所を見つけたと思った。


ある日、あいつは一人で夜に出かけるようになる。

河原でケンカをするためだ。
とは言っても先輩の身代わりになのだが。

最初事情はわからなかったが、あいつは素人だった。

「負けてんじゃん」 

「彼女に任せておけばいいじゃん。最強っすよ」 

そうあいつに伝えた。

だけどあいつは耳を貸さなかった。

智代はともを守っている。だから連中の相手は俺がするんだ・・と。

手助けする事もできたが、そんなあいつをあたしは傍観していた。
どうせ諦めるだろうと。逃げ出すんだろうと。
あいつの先輩への想いを試していたのかもしれない。

でもあいつは強かった。

あたしが戦い方を教えたからではない。
どんな事があってもあきらめない強さ。
大切な人を守るために。
それだけであいつら全員に勝ってしまったんだ。
そしてあいつらの尊敬まで勝ち取ってしまった。

そしてあたしも・・。



しばらくたって、あいつと2人で話す機会があった。

そこで、あたしの家族の事をあいつに伝える。
母親の再婚に納得いかないこと。
だがそれは象徴だということ。
そして最後にあいつに言う。

「ずっと永遠に続いていく愛なんてない」

「そんなのがなかったらさ・・楽しく生きたもん勝ちじゃん」と


数日後、今度はあいつは何故か鷹文とタイピング勝負をしていた。

当然いつもPCをいじっている鷹文に勝てるわけが無い。
それでも、先日のケンカのように努力で不可能を可能にしてみせた。

そして賭けに負けた鷹文はマラソン大会に参加する事となった。

あの事故以来走る事を拒絶していた鷹文。
恩師から無謀な行動を責められ破門にされすべてを失ったあの時から。
それはあたしからみたらただの罰ゲームだと思った。


ある夜先輩があたしに抱きつきながら 

「私がお前たちを幸せにしてみせる」と。

それであたしは気がついた。

先輩やあいつがやっている事が鷹文だけでなくあたしのためだという事を。


またあいつと2人きりになった時、あたしは今の気持ちを伝えた。

ずっと続いていく愛もある気がすると。
それはあんた達のそばに居て思えるようになったから。
それはあたしの家族も同じじゃないかと・・
あたしは救われた。あの頃を思い出せたから・・
だから「ありがとう」と・・。


そしてマラソン大会の日。

先輩とあいつの応援を背に数年ぶりに鷹文が走った。
現実ではあの事故以来、夢の中でのみ走り続けてきた鷹文。
父が死んでしまった事により、謝罪も報告も辿り着く事がないゴールへ・・

しかし鷹文は現実の世界のコースを走り、ゴールに辿り着く。
そしてうわ言で、許しを請うように父にあの時伝えられなかった言葉をつぶやく。

「今も・・可南子が大好きです」と。

だからあたしはその人に代わって答えた。あたしの想いも含めて。

「許すよ」

「おつかれさま」と。

それがあたしだけが鷹文にしてあげられる大切な役目だったから・・。

(4)とも


あたしと鷹文の問題は解決した。

だから同じ家族であるともの問題を何とかしようとするのは
二人にとって当然の事だろうと思った。

愛していたはずのともを何故母親は捨ててしまったのか
・・というのを皆知りたいと思った。
誰よりもともが好きな先輩は当然だ。

だからあたし達は母親を探すのに協力した
あたし達はともの母親・・三島有子の居る場所をついに見つける。

あたしは同行することにした。
なぜならあたしはその時思っていた。
今度はあたしが助けたかった。
今まで与えてもらった事を今度はともに・・と。


そしてある村に辿り着いた。

それは希望も・・未来もない。
本当に何も無い村とそれを受け入れた人たちが住む村だった。

そんな村で、ともの母親に会い事実を告げられる。
自分が残りわずかな命だという事を。
わずかな時間をこの何も無い静かな村で過ごす決意をした事。
そしてそんな何も無い村にあの子をつれてくるわけには行かない。
だからともを置いていった事・・。


運命は残酷だ。

ともは母親が死んでしまえば本当にひとりぼっちになる。
母親と会えても、再びまた悲しい別れをしなくちゃいけなくなる。

そんな事実に先輩は、二度もともに悲しい目にあわせたくないと
自分が育てると決心した。
だが、あいつは悲しい未来であってもも母親と暮らすべきだと考えた。

以前のあたしだったら迷うことなく先輩の意見に賛成していただろう。
楽しい日常の方がいいじゃんと。
でも、あいつをずっと見てきたあたしはあいつの言う事を信じた。


それからあいつはあたしが考えも無く提案した
『学校をつくる』という事を一人で始めた。
ともがこの村で過ごすため必要な学校を。
そしてこの村に未来と呼ばれるものをつくるために

小さい村とはいえひとりだけで学校をつくるなんて無謀だ。
例え出来たってともが母親と暮らしていける保障もない。
村人だけでなく、先輩も自分の考えから手伝う事を拒否していた

でもあたしは思っていた。
それでもこいつはやりとげてしまうんだろうと。
今までのように。


だがある雨の日、
あいつは学校を作るための材料がある廃棄場で転落して倒れた。
たまたまあいつを探していて倒れているあいつを発見した。
何とか連れて帰って、ようやく気がついたあいつにあたしは叫ぶ

「先輩も鷹文もとももあたしもみんなあんたの事大切に思ってるんだから。
驚かせるなっ!!」

「心配したんだぞ・・ほんとに・・もう・・」

・・今思い出すとやっぱ告白みたいだなこの台詞・・恥ずかしい。


ともあれその出来事があって以来状況は変化した。
他人の事には無関心だった村の人たちが手伝うようになった。

あいつからはそれは可南子のおかげだと言われた。
確かにあたしは、村人達にいつもどおり接した。
あたしは自分がやりたい事をしていただけだからよくわからない。
でもあいつの役に立てた事は嬉しかった。

先輩も結局手伝う事となり学校は完成し、
そのころにはともの母親の説得も成功していた。


そしてともがこの村に来る日が来た。

再会した母親を目の前にしたともにあいつは事実を隠さずに伝えた。
ともが母親と暮らせる時間はわずかなんだと。
それでも、母親と一緒にいたいか?と聞く。
ともは涙を流しながらもその問いにうなずく。

そしてあいつや鷹文あたし、そして智代に別れを告げて、
ともはその先の未来を恐れずに母親のもとに帰っていった・・。

別れはつらかったけど、これがあたし達『家族』が出した答えだったから・・


帰り道あたしは一言あいつに気がつかないようにつぶやく。

「あんたは本当にすごいよ」と。

そして今度はあんた達の番だと思った。

今まで他人の分まで頑張ってきたのだから

その分幸せになるべきだと思った。

ガラじゃないけど・・。



だけど物語は始まってもいなかった・・・


(5)朋也



それから少しの時間

先輩達に穏やかな日常が流れた。

ともは居なくなったが、今から考えればほんのわずかな時間だが
あの二人にとっても幸せな時間が訪れていた。

だが、それも突然に終わりを告げる。

あたし達はともに会いに行く事になった。あの村まで。
・・ともの母親の容態が急変したからだ。
そしてその悲しみの道の途中。

あいつは倒れた・・・・


あいつは長い間、意識不明の重態が続いた。
あたし達はどうしていいかわからなかった。
原因もわからなかった。

結局ともにも会いに行けなった。
一番ともがつらい時に傍に居る事が出来なかった・・

そしてあたし達は思い知らされた。

「こいつがいないと何も始まらないんだもんな・・」

そのことにあたしは苛立ちも覚えていた。


そんな幾日かそんな日が過ぎたある日、あいつはとうとう目覚めた。

だがあいつは大切なものをを失っていた。

それは記憶。思い出。愛。
あいつは自分の中学生以降の全ての記憶を失っていた。
それは先輩とあたし達『家族』の絆が失われた事になる


すぐ回復するという希望も7日後にはふっとんだ。
あいつは、7日後に倒れ、再び目が覚めると今までの記憶を失った。
それを毎週繰り返す。

せっかく先輩との絆を取り戻したとしても
また1週間後には全ての記憶を失う

そんな状態が何ヶ月も繰り返されていく・・

つまりあいつは永遠にあたし達に辿り着けないのだ・・。


そして今日、検査の結果、原因が判明する事となる。

脳血種。

それがこの事態の原因だった。

先輩を守るために
とものために
あいつがあたしたちのためにしてきて傷ついたためだった。

そしてこのままでは元に戻る可能性がほとんど無い事。
そう先輩はあたし達に事情を説明した。

あたしはそんな状況に納得いかなかった。

「おかしいだろ!そんなの!」 

「先輩はなんでそんなに落ち着いているんだよ!」と。

あいつは目覚めた直後でまたすべてを忘れていた。

あれだけ『家族』のために行動していたあいつが
あれだけ先輩の事を愛していたあいつが
あれだけあたしに『家族』の絆を教えてくれたあいつが

それなのに先輩を『その人』、あたしを『あんた』呼ばわりした

くやしくてあいつに悲しさと怒りがこみ上げてきた。

「あたしは可南子だっ!!『あんた』じゃないっ!!」 

「おまえ、一度でもそんなふうにあたしを呼んだことがあったかよ・・」

「先輩はあんたの一番大切な人だろっ!!思い出せよ・・あたし全部見てた」  

「あんたはあたしとか鷹文とかーーともとかっ!!
すげぇがんばってーーわけわかんないくらいがんばってーー
みんなを助けてくれたじゃんかー!!」

「そしたら今度はあんたが幸せになる番だろっ!!
先輩とふたりで幸せになる番だろっ!!」 

「あたしたちの事はどうでもいい。先輩のことくらい思い出せよっ!!」

「ふざけんなあーーーっ!!治れよてめぇーーーーーっ!!」 

「頭打って思い出せないなら
あたしがぶん殴っておもいださせてやるっ!!」

そしてそれを鷹文に止められると居たたまれなくなって


そして・・・


(6)決意



あたしはとても長い物語を話し終えた。

あたし達『家族』のあの夏の物語を・・・

彼女はあたしが話している間、一言も口をはさむ事はなかった。

そしてあたしが話し終えた後も静かに次のあたしの言葉を待っていた。

「・・あたしの話はこれだけだ。
やっぱりあんたにとっては全く関係ない話だったんじゃ・・ってうおいっ!」

彼女の方に顔を向けたら、彼女の顔は涙まみれで凄いことになっていた!!

「すびま゛ぜん・・あまりにも悲しいお話゛で涙がどまりま゛せん・・」

「相談にのってくれるはずのあんたがそれじゃダメだろ・・」

「はい・・申し訳ありません・ずび」

(やっぱりなんでこいつにこんな話しちゃったんだろうな・・) 

ふと今更ながらに思う。でもすべてを話して落ち着いている自分もいる。

(まあ・・聞き手としては良い相手だったんだろうな)

そして空を見上げながらつぶやく。

「先輩は何で落ち着いていられるんだろう・・」

「そういや母親を失ったともだって・・
二人ともどうして耐えていられるんだろう・・」

二人のこれからの事を思うとため息が自然と出た。

「永遠に続いていく愛」

そう涙を拭いた彼女がぽつりと答えた。

「え?」

「あなたも岡崎さんからその事を・・信じる事を教えられたんじゃないですか?」

確かに。あいつがやってきた事を思い出す。

あいつが証明してくれてたじゃないか。

あたしたちのそばで。想いの強さの凄さを。

その家族の一員であるあたしがあいつの事を信じないでどうするんだ。

こんな時あいつがあたしの立場だったらどうしただろうか。

あいつなら記憶を取り戻す方法を探すために行動していたはずだ。

「・・そうだよね・・先輩もとも も・・信じてるんだよね・・永遠の愛を・・」

「はい!」

彼女はにっこりと笑った。

だったらあたしも信じる。

短い間だったけれど『家族』としての絆は誰にも負けない自信があるから。


「・・・可南子ちゃんも岡崎さんの事・・本当に好きなんですね」

「はあ!?」

そんな唐突なセリフに素っ頓狂な声をあげた。

「あいつの事尊敬はしてるけど・・
あいつには先輩が居て、あたしには一応鷹文いるし。
・・そういや、マラソンの時冗談でコクられたり、
ともの村の管理人に間違われたけれど・・」

もし違った出会いだったらわからなかったかも。

・・そんな事は恥ずかしくてとても口に出せないが。

「・・家族の一員としてって聞いたつもりなんですけど」

そういうと彼女はくすくすと笑った。

からかわれた事に気づき、ちょっと憮然とした表情になるあたし・・。


「もう・・大丈夫ですね」

「え?」

「可南子ちゃん、迷いのない顔をしています。
たぶん岡崎さんもそれを願っていると思います・・だからがんばってください」

そろそろ夕飯の支度をしなくちゃいけないので帰らないと・・そう言って彼女は立ち上がった。

「ああ・・つきああってもらって悪かった・・ありがと」

「はい。それでは」

最後ににこっと笑うと、彼女は去っていった。

そして、その背を見送りながらあたしは決意した。

もう迷わない事を。

あいつの代わりをあたしがやってやる。

それがあたしの求めてた強さだと思うから。


それに気づくキッカケををくれた彼女にもう一度礼を言おうとして気づく。

「あいつの名字何で知ってる・・?・・さっきの話で言ったっけ??」

「・・ってそういや『可南子ちゃんも』って・・??」

そんな疑問を抱えつつも、あたしは歩き出す。

先輩達のもとへと・・・

(7)家族


「それからは本当に大変だったんだ」

夕方近くで向かい風が強くなって、目を細めながらさらに語り続ける。

「あたしはバカだから医学的に記憶喪失を治す方法なんてわからなかったし、
そもそも先輩ですらわからないことがあたしにわかるはずがなかった。」

「先輩もあんたの世話をしながら記憶を取り戻すためにいろいろやっていた。
高校の時、親友だったっていう春原ってやつを連れてきたり」



結局春原ってやつとの記憶も戻らなかったが。

だけどあたしはそれを見て自分でやれそうな事を思いついた。

あいつの高校時代の人たちと会えば少しは記憶が戻るんではでは無いかと。

そんな事で記憶が戻る保障なんてない。

でも行動する事が大切だという事をあたしはあいつから学んでいたから。

先輩や春原ってやつの協力も得てあたしは高校時代のあいつの知り合いを探す事を始めた。

当然、あいつの同級生は卒業しこの街に居ない事もあったり、
消息がわからなかったり、それは難しいものだった。

でもそんなのは関係なかった。

あいつだったら当然やりとげていただろう。

あたしは必死だった。


そしてその無謀ともいえる行動は達成する。

ある晴れた春の日、あいつのために大勢の人が集まってくれたのだった。

恩師。クラスメート。寮母さん。後輩。パン屋のおっさん。

元クラスメートっていう髪の長い少女と先輩が会った時は何故か気まずい顔をしていたけど・・・

たくさんの人があいつのために集まってくれた。

あいつの意外なまで広い交友関係にちょっと驚きもしたが。

一番驚いたのはこの前話を聞いてもらっていた渚って人までいる事。

後で聞いたら先輩の友達でもあったらしい。

それであいつとの関係は・・ただ一言「恩人です」とだけ言っていたけど。

それでもやはり・・あいつの記憶は戻らなかった。

たくさんの人が集まる騒ぎの中、最後まであいつは戸惑った顔をして無言だった。

それでもみんな暗い顔を見せずに昔の思い出を聞かせ続けた。

そして最後にみんな「がんばれ」と励ましてくれた。

その帰るみんなを見ながら先輩はあたしに「ありがとう」と言ってくれた。

その後あたしは、いろいろと行動した。

それでもあいつの記憶は戻る気配はなかった。


時は流れ・・あいつが倒れてから3年目の春あたしと鷹文は高校を卒業した。

そして大学に進学するためにあたしたちは上京した。

鷹文はあのマラソン大会以来、将来の夢を見つけていた。

その夢を叶えるためには上京し専門の学校に通う事が近道だった。

だが何よりも家族の事を考える鷹文が、今の先輩達のそばから離れるという考えはなかった。

それで先輩と鷹文はその事でしばらくもめていた。

それでも「あたしたちのために夢をあきらめると言ったら朋也は絶対に怒る」と言う先輩の言葉に鷹文は説得された。

そしてあたしには「鷹文の事をよろしく頼むと」

あんな真剣な顔の先輩は久しぶりに見た。

だから、あたしも鷹文について上京した。

もちろん先輩達の事はずっと気になっていたけれど・・・。


そしてその年のある夏の日先輩からTELがあった。

「はいはい。あ、ねえちゃんどうしたの??」
「ふんふん・・ええええええええええっっっ!!!」

電話をとった鷹文は、珍しくない事だが、奇声をあげた。

「珍しくないってなんだよ!・・てあっごめん。そうなんだ・・えっでも・・・」

あたしに一言文句を返し電話に戻った鷹文はしばらく話した後、電話を置いた。

「・・ねえちゃん・・にいちゃんと結婚したって・・」

あたしに向かって驚きのあまり固まった顔であたしに話した。

「なにいいいぃぃぃ!!」
もちろんあたしも驚いたが。

「じゃあ!!記憶が戻ったの!?」

そのあたしの問いには鷹文は無言で首を振った。

朋也の記憶はまだ戻っていない。やっぱり7日目には失われる。でも、やっと私の想いが届いたんだ・・朋也に。記憶が戻っていないはずなのに。すぐに失われるかもしれないのに。朋也は私にプロポーズしてくれたんだ。愛していると言ってくれたんだ・・と

鷹文は泣いていた。あたしもそれを見て笑いながらも涙を流していた。

あいつが証明してくれたように永遠に続いていく愛はやっぱりある。

ずっと続いていたんだ・・先輩達の愛は。


手術の事も鷹文から聞いていた。

成功すれば記憶は戻るが手術の成功率はかなり低いものだという事も。

場合によっては命まで失う事も・・

それでもあの二人は手術をする事を決意した。


手術の日あたしは病院に行かずこちらの街で祈る事にした。

表向きの理由は手術がかなり急だって事と試験の日と重なったからだ。

だけど本当は、あたしを知らないあいつと話すにはまだ勇気がなかった事もある。

そしてあたしは怖かった。大切な人が失われるかもしれない事を。

あたしは反対したけれど、鷹文もあたしにつきあって病院に行かず残った。

その代わり、あたし達はその代役としてある人物と連絡をとった。

ちょっと疎遠になっていてたので驚いていたが。

あいつの事情を話し、あたし達の代わりに応援に行ってもらった。

その人物・・ともは、手術の時間の直前に間に合った。


あの頃と違い、すっかり成長して大きくなっていたとも。

そのともは、手術直前でベットで寝ているあいつに言ったという。

「ずっと会いに来てくれなかったからとものほうから来ちゃったよ」

「パパ・・ともがパパって呼べるのパパだけだから・・だからがんばって」・・と。

そしてあいつは手術室に向った。


先輩。あたし。鷹文。とも。あいつ。

今は、いつもは傍にいる事は無い。それでもあの夏から始まった『家族』の絆は変わらない。

その『家族』みんなであいつのために応援したんだ・・。


(最終話) It’s a Wonderful Life!



「だけど・・あたし達や先輩の隣に今あんたは居ない」

前を見上げ話しかけそれに目を向ける。

海のそばに立っている・・あいつのお墓に・・。



・・手術はうまくいかなかった・・・いや成功したとも言える。

結果からいうとそういうことだ。

あいつの命を縮めてしまったということ。
あいつの記憶が戻ったということ
どちらも事実。

そう。
手術が終わり目を覚ましたあいつは先輩と隣に居る、ともの名前を呼んだ。

あいつは記憶を・・思い出を・・家族を取り戻したのだった。


その後の事はあたしも良く覚えていない。

あいつと先輩がリハビリに励んでいたのは知っていた。

そしてあいつの手術は成功したと思っていたから純粋に喜んでいた。

またあの夏の日を取り戻せるんだと・・。

しばらくたったある日、先輩はあたしと鷹文のもとを訪れた。

そしてあいつの命がもう長くは無い事を告げる。

そんな事実にあたし達が打ちのめされている中でも

先輩はやっぱり前を見続けていた。

そして先輩達は歩き続け、残りの時間を懸命に生き続けた。

すでになにがあろうと後悔せずにいられた。

そう・・後で先輩は話した。

あいつが永い眠りについた時も

永遠の別れの時も

先輩は悲しみの中にも、穏やかで居られる事ができた。

そんな姿を見てあたしも悲しむのをやめた・・。



「だけど、そんな過酷な現実じゃなくて、
ごく普通な幸せもあったんじゃないかと・・今でもあたしは思う」

「こんなことを考えるとあんたや先輩に怒られそうだけど、
あたしたちと出会わなければ今でもあんたは先輩の隣で笑っていたんじゃないかと思うんだ・・」

あたしの体を夕方の涼しい風が通り抜ける。


「・・やっぱりまだまだだねあたしは。あんたたちにはまだ敵わん」

「でも、いつかあたしたちもあんた達が辿り着いた高みへ行って見せるよ」

「だから見守ってー」

そこまで言ってあいつの名前を、一緒に居た時も言った事のないのに気づいた。

そして、あらたまって続ける。

「・・だから見守ってて・・朋也さん・・」

その瞬間またポケットから着メロが鳴り出した。

「・・ったくもう」

そこにはメールが送信されていた。

『可南子!何も告げずにどこをほっつき歩いてんだよ!早く連絡寄こせ!! BY鷹文』

「『ばーか鷹文ちょっとくらい連絡とれないからって何度もメールすんじゃねぇばーか』送信と」

そういえば忘れ物を思い出した。

「あ、そうそう。先輩、本を出したんだよ今度。本当・・あの人は凄いよ。
そしてその高みに辿り着いたあんたもね」

そしてその墓前にその本を供える。

「それじゃ・・また。今度はみんなで・・いっしょに来るよ」

敬礼のようなポーズをとってあたしは帰りの道につく。

そして夕焼けの海を見ながら歌を口ずさむ・・




穏やかな風が吹くこの夏を
僕らだけの歌と名付け大切に仕舞った

狭い部屋過ぎ去る思い出と
待ってた待ってたあの日と 同じ空

ひとりで僕らは歩けるか
誰もいなくなってそれでも
手を取り過ごしてきた今日までを
まだ見ぬ誰かの明日へと

伸びすぎた髪はもう束ねてる
古い映画のような出会いなどないまま

大切にしていくものはなに?
待ってる待ってる きっと あと数歩

ふたりになっても歩くんだ
強さは互いの心と 信じた
うまく合わない足でも
ゆっくり歩けば揃った

ひとりになっても歩くんだ
誰もいなくなってそれでも
ふるえを忘れないこの命は
希望を刻んで進むんだ

口ずさむのは僕らの歌
みんなで描いた青い空
もう合わすことができない足でも
歩けば未来を目指すんだ


ゲーム「智代アフター ~ It’s a Wonderful Life ~」 
ED曲より~Life is like a Melody~




残された墓前に供えられた本の表紙には智代の写真。

そして風でめくられた最後のページにはこんな言葉が書かれていた。

『もしこの画面の向こうのあなたがその道の途中でひとりきりになってしまったとしても』

『大丈夫だ』

『あなたはひとりきりじゃない』

『私がここにいる』

『いつまでも共に行くからだから安心してほしい』

『それが私が彼と共に歩んで一緒に見つけたものだから』 

name:森のくまさん



さあ、いこう

世界は美しく

そして人生はかくも素晴らしい

It’s a Wonderful Life!





Fin

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