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監督の文脈(15)2016年3月12日 J1第3節@等々力陸上競技場 16,513人(72%)川崎フロンターレ 3-2 名古屋グランパス【得点者】前半06分 エウシーニョ(フロンターレ)前半26分 松田 力 (グランパス)後半18分 永井謙佑 (グランパス)後半30分 大久保 嘉人(フロンターレ)後半39分 中村憲剛 (フロンターレ) 「新米監督のボクに、2ヶ月の期間で目指すサッカーを作れる力はありませんよ」(小倉隆史/名古屋グランパス監督) 「自分たちが崩してないのにピンチを招くシーンがありました。もっと攻撃のレベルを上げていかないと。そうすれば守備もラクになるんですから」(風間八宏/川崎フロンターレ監督) ここはプロ野球のスタジアムか。そんな錯覚を受けたとしても不思議ではない。 第2節と第3節の2試合で、川崎フロンターレは計7ゴールを爆発させた。それらのなかにはサンフレッチェ広島の佐藤寿人が一足先に記録したJリーグ記録となる、大久保嘉人の157発目と158発目も含まれている。だが一方、失点も6という、大味なザル守備を見せつけたのも事実だった。ただ、4失点で勝点1に終わった前節の湘南ベルマーレ戦と異なるのは、失点するまでの経緯だろう。いわゆる「湘南スタイル」を最後まで貫いたベルマーレの獰猛な攻撃と比べて、グランパスの攻撃は特定個人の高さと速さという、じつにシンプルな形でのフィニッシュだったからだ。 フロンターレの得点は感度の高さと速さ、それを支える技術力と推進力による、いずれも見事なゴールだった。先制点はペナルティエリアを左から右へ切り裂くような嘉人のキラーパスから、中村憲剛とかわしたワンツーをエドゥアルドが目も覚めるような一閃で決めている。続く2点目も憲剛からのピンポイントクロスに嘉人がヘッドで反応、珍しく喜びを肉体で表現した憲剛の3点目は豪快なミドル弾がネットを突き刺した。 5年目のシーズンとなる風間監督のサッカーが、いよいよ結実の時を迎え、J1での初タイトル奪取も現実的になってきたのではないか。フッと、そんな予感も漂わせる、呼吸感の整った攻撃力をフロンターレは披露していた。 ところが失点場面はというと、どうもお粗末さが拭いきれない。そのシーンだけ時間が一瞬止まったかのようなブラックスポットが生じ、あまりにもあっさりとゴールを陥れられている。ハイレベルな得点シーンと比較すると、いささか間の抜けた感がある。 第2節の試合後、やはり就任後5年目を迎えたベルマーレの曹貴裁(=チョウ・キジェ)監督は、口惜しさを滲ませながらも、自分たちの成長の跡を口にしている。「レフェリーの高山(啓義)さんが、“本当にいいゲームだった”と言ってくれました。でもボクはベンチで指揮をとっていたんで、“何で勝てなかったのかな?”と思いましたがね」 今季の「湘南スタイル」は、昨年よりもさらに一歩前進した「究極の攻撃サッカー」である。ヴァイッド・ハリルホジッチがA代表に抜擢した遠藤航を浦和レッズに、キャプテンの永木亮太も鹿島アントラーズに奪われるという典型的な育成型クラブであるにもかかわらず、すくなくとも現段階ではチーム力の上積みを確実に成功させている。それを証明してみせたのが、自分たちよりもはるかに格上のフロンターレとの一戦で、彼らは大きな自信を手にしたはずだ。サッカーという競技には、監督の手腕がことほどさように大きく問われるということでもある。 オフシーズン、セレッソ大阪や京都サンガからの熱心な誘いを断った指揮官は、カールスルーエのマルクス・カウチンスキーの言葉を引き合いに出し、ベルマーレというクラブのあるべき姿勢をこう説いた。「選手がひとり代わった程度で起こる変化は、クラブ全体にとって大きな変化ではない」 歴戦練磨の監督たちの刺激的なコメントに比すれば、指揮官としてJ1リーグ戦デビュー3戦目を迎えたばかりの小倉隆史の発言は、きわめて謙虚だった。グランパスの1点目は、身長199cmのロビン・シモビッチが落としたボールを、中央から走り込んだ松田力が難なく蹴り込んだものだった。また2点目は、スローインから始まったセットプレーに、後方から加速をつけた永井謙佑が豪快に決めている。「高さ」と「速さ」のほかおもしろみのないサッカーについて記者が問いかけ、それに対して笑い放って答えたのが、上記新人監督のコメントだった。 今シーズン、古巣グランパスのGM補佐から監督(GM兼任)に転じたオグといえば、西野朗率いるアトランタ五輪代表候補の一員で、「レフティモンスター」との異名をとった大型ストライカーだった。だが五輪代表のマレーシアキャンプで選手生命に関わる負傷に見舞われ、本来の実力を発揮できぬまま現役生活を終えている。 思えば風間と貴裁の両監督が現役を引退したのが、96年のアトランタ五輪前後となる。この時期、大きな夢を描きながらプロとしてプレーしていた世代がオグだった。懐かしさとともに、隔世の感を禁じえない。 フロンターレのサッカーは、昨季も守備面の課題を抱えていた。昨季ファーストステージの覇者・レッズの得点はダントツの39ゴール、得失点差も群を抜く+22だった。しかし、32ゴールで得点2位のフロンターレは、レッズの3分の1以下となる失点差+6でリーグ順位5位に甘んじている。 セカンドステージで優勝したサンフレッチェは得点44、得失点差は、なんと+30だった。佐藤寿人とならぶ名ストライカー大久保嘉人を抱えながら、フロンターレの得失点差はわずか+8と、失点面でいかに順位を落としているかが明白だった。 こうして迎えた今季は、ふたりのGKを含めた守備のベテラン勢を放出し、ボール奪取に優れたリオ世代の奈良竜樹をコンサドーレ札幌から、守備面で複数のポジションをこなせるエドゥアルド・ネットをバイーアから獲得、最終ラインを一気に若返らせた。 一見、間抜けにも思えた失点場面は、センターバックで先発した奈良とエドゥアルド、あるいはやはり今季補強した鄭成龍(=チョン・ソンリョン)ら、新規加入組のコミュニケーション不足や、風間サッカーへの理解不足があったのではないかと思われる。フロンターレの推進力を生む中村憲剛と大島僚太のふたりも攻撃的なボランチであるため、速攻を食らった時間帯の修正が間に合わなかったのだろう。 風間監督は後半、相手CFのシモビッチに中盤の選手をひとりケアさせることで、なんとかそれ以上の失点を凌いでいた。だが、ひどく微妙なオフサイド判定に映った後半34分の永井のゴールが幻に終わらなければ、昨季開幕以来となるフロンターレの第3節首位も微妙だったのかもしれない。 野球スタジアムで観戦するような出入りの激しいゲームは、観衆をおおいに沸かせた。そしてこの2試合から予想できるのは、フロンターレもベルマーレも、実戦を通じながら一つずつチームが目指すサッカーを実現していくのではないかということだ。だが残念ながら、現在のグランパスのサッカーからは、この2チームと同じような質の印象をもてていない。アトランタ五輪世代の指導者は、これからも徐々に頭角を現してくるだろう。オグが目指す理想のサッカーとは、どこにあるのか。その具体的な形を早く観てみたいものだ。【了】
2016.03.18
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2016年2月27日 J1第1節@味の素スタジアム 25,776人(55%)FC東京 0-1 大宮アルディージャ【得点者】後半 24分 岩上祐三(アルディージャ) 「昨季4位という成績のチームに対して体感をもてました」(渋谷洋樹) 「狭い場所でボールを抑えられる選手を先発させたんですが……」(城福 浩) 寒ざむとしたFC東京のホームグラウンドは、サポーターからの激しいブーイングの嵐に晒され、空気までが凍てついていた。わずか4日前、ソウルで味わったACLグループ予選初戦の屈辱が今季の彼らを占っているのだとしたら、あまりにも残酷である。ACLはテレビで観戦したかぎりで、この感想は必ずしも当たってはいないのかもしれない。だが、「1点」という最小スコア差だけでは割り切れない、ひどく暗澹とした気持ちにさせられたのは筆者だけではあるまい。冷たく重い腰を持ち上げようとする筆者の背後から、周囲の目を憚るような小声でかわす囁きが聞こえてきた。「おいおい。これ、ヤバいんじゃないの」「う~ん……」。アンブロのウィンドブレーカーに身を縮こませたふたりの姿から、クラブの関係者であることが一目でわかる。居心地が悪くなった筆者は、引きずるようなステップで零下まで落ちた階段を一歩ずつ駆け下りた。記者会見場に現れたアウェイの大宮・渋谷洋樹監督は、嬉しさからこみ上げる笑いを、どうにも抑えきれない様子だった。ヴァンフォーレ甲府のコーチを務めていた時代、24戦不敗という大記録を打ちたて、クラブ待望のJ1昇格を実現させたのが、当時のパートナーだった城福浩監督である。彼を兄貴分と慕ってきた元ヴァンフォーレのコーチが、兄貴を倒す。時の悪戯から実現したこの日の勝利は、いわば下克上にも等しかった。「よりいっそうチームでレベルアップしていきたい。そんなことを強く感じさせられたゲームでした。今後はトレーニングのなかで、これまであまりできなかったカウンターの練習をもっと落とし込んでいきます」たったひとつの勝利だけで、渋谷の両眼は希望に燃えていた。勝者と敗者の明暗が、くっきりと分かれた開幕戦だった。フィッカデンティから城福体制へと移行した今季、新指揮官は「Jリーグでのタイトル奪取」を声高に叫んできた。しかしそれは、マッシモ・フィッカデンティが遺した実績があったからこそだ。「ミステル」という愛称をもつイタリア人はセリエのチェゼーナ時代、はるか日本まで自ら足を運び、話だけには聞いていたJリーグ視察をはたしている。そのなかで獲得を決めたのが、FC東京のサイドバック・長友佑都だった。FC東京との契約でかわされた移籍金は約2億円、その半年後、インテルへの長友売却でチェゼーナは9億円あまりを手にしている。運悪く前会長の金銭不正疑惑が発覚し、FC東京はいまだ長友の移籍金を受け取っていないようだが、まるでトップセールスマンのごときミステルの手腕で、このブーツ(=イタリア半島)の履き口に位置する地方クラブは7億円をボロ儲けしたわけだ。フットボールが繋げるものには時折り、それぞれの人生の不思議さと機微を想わせる。長友をセリエへ招いたときに築いた縁があって、ミステルは14年、FC東京の監督に就任する。そこでさっそく彼が着手したのが権田修一や三田啓貴、武藤嘉紀元ら、育成組織出身の選手を積極起用したことだった。そして2年目のシーズンとなった昨季、クラブ史上最多となる勝ち点を積み上げて優勝戦線に混乱をもたらしている。つまり、これが渋谷監督の溜飲を下げさせた「昨季4位のチームに対して」という文脈につながるミステルの実績で、4億円といわれる移籍金で武藤嘉紀をマインツへと手離したシーズンの最終成績でもあった。しかし2年契約だったミステルは15年シーズンで契約満了、FC東京における彼の新章は、なぜかそのまま断たれてしまう。一方、99年からFC東京の育成部門に関わっていた城福は、若年層世代の優秀な指導者のひとりとして知られる。U-17日本代表を率いた06年には柿谷曜一郎、河野広貴らを擁して12年ぶりのアジア予選優勝を決め、翌年のワールドカップ韓国大会に導いている。ナイジェリアとフランスに敗れて帰国し、初めてJクラブの監督に抜擢されたのが08年、それが古巣のFC東京だった。しかし10年シーズン、クラブをJ2に降格させた当時の監督もまた、城福その人だった。スタジアムのキャパにそれぞれ違いはあるが、東京五輪の会場候補にも挙がる味の素スタジアムのJ開幕戦を埋めた観客は、上記集客データにもあるように55%にとどまった。ちなみにこの数字は、サポーター同士の緩衝地帯を差し引いた筆者独自の算出であることを付記しておくが、これは「数字というよりも、実際の「風景」であることを強調しておきたい。そのうえで、日産スタジアムの35%、エディオン広島スタジアムの51%に次ぐワースト3の一角に肩を並べたのが、この日の味の素スタジアムである。昨季覇者のサンフレッチェ広島と川崎フロンターレという好カードでさえも、スタジアムの半分しか埋まらないというのが、Jの現実だ。世界唯一の被爆都市以上に名を馳せる我が国の首都開幕戦においても、この体たらくである。昨季から2ステージ制に移行した遠因も、プロフットボール興行の運営が曲がり角にさしかかっていることを示唆するものだった。しかも翌日の吹田でのゲームを含めれば、ホームチームで勝利をおさめたのは、九州ダービーを制したサガン鳥栖だけだ。「ホーム有利」という世界的な常識は、ことJにおいては成り立たない。形としては歪かもしれないが、それが日本人の正直さなのかもしれない。さて、「55%」のブーイングを背中に受け、顔を強張らせた城福監督は消え入るような声で呟いた。「今日は我われがボールを握る展開になるという予想でした。ゴール前のスペースがなくなることを予想し、それに対応した先発メンバーを組みました」畳みかける記者たちの質問に、開幕前に見せていた自信がみるみる失われてゆく。「ポストに当たったシーンもありましたが、それが何回もあったでしょうか。本当に相手に脅威を与えることができたのでしょうか……」そんな自問自答を続ける城福には、不運も重なった。就任と同時に、代表での評価を高めた左サイドバック・太田宏介がフィテッセへ移籍した。その額は1億円を切るとも言われているが、「年齢的に今しかない」という、短命なサッカー選手としては切実な声だった。加えて正GKの権田修一も、本田圭佑が経営権を把握するSVホルンへレンタル移籍した。クラブは権田の穴を埋めるため、湘南ベルマーレから秋元陽太を獲得したが、そのほかの補強選手に負傷が相次いだのは計算外だったろう。“ミスターFC東京”ともいえるベテランの石川直宏は、左ヒザの靭帯損傷でファーストステージ内での復帰は絶望的である。各世代の代表の常連として鳴り物入りで入団したサイドバックの室屋成は、ジョーンズ骨折に見舞われ、ゴールデンウィークまでに復帰できるかどうか微妙なところだ。4年前、室屋は五輪代表で注目された中島翔哉らとともにU-17メキシコ大会に臨み、ベスト8でブラジルに敗れている。ちなみにブラジルは準決勝でウルグアイの後塵を拝したが、この大会で5得点をあげたのが、現在ナントでプレーするアドリアン・オリヴェイラ・タヴァレス、そして今季横浜F・マリノスからガンバへ移籍したアデミウソン・ブラガ・ジュニオールの二人だった。同じく今季補強の目玉の一人だった駒野友一も、23日のACL全北戦で右足の腓骨筋を挫傷、やむなく、おもにセンターを固める橋本拳人を右サイドバックの代役に指名せざるをえなくなった。さらに北京国安から獲得したW杯ブラジル大会の韓国代表MF・河大成(=ハ・デソン)までも故障でベンチから外れている。これら故障者の続出が、指揮官の開幕プランに影響を与えたのはまちがいのないところだろう。準備と研究を充分に重ねてきた開幕戦は1点差ゲームが多い。事実、8試合中7試合までが1点差で開幕を終えている。大宮は家長昭博と泉澤仁がアグレッシブな左サイドを形成し、本来本職ではないFC東京の右サイドバック橋本を悩ませていた。大宮アルディージャ唯一のゴールは、FC東京のボール支配率が増えた後半24分だった。最終ラインからの速攻に切り替えるなか、187cmのセルビア人FWドラガン・ムルジャが家長へラストパス、相手ディフェンスに当たったこぼれ球を岩上祐三が押し込んだ。岩上は湘南ベルマーレ時代、チョウ・キジェ監督が標榜するノータイム・フットボールに鍛えられた一人だ。速攻スタイルの大宮にとっては、今シーズンの貴重な補強要因として大化けする可能性を秘めている。筆者の背後から聞こえた「ヤバい」という囁きには、様ざまな意味が含有されている。大勢の負傷者を抱えたままで新しいシーズンを迎えた城福監督は、ACLの過密日程とも闘わなければならない。J2降格という恥辱を味わった6年前と同じ結果を招きかねない、ひどく危うい開幕戦となったのではないだろうか。【了】
2016.03.08
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