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2008.01.26
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カテゴリ: 読書感想文

夜と霧新版

遠藤周作氏の本の中で「過酷な状況にあっても人間としての尊厳を示すことができた無名の人たち」について書かれた感動的な書物・・・として紹介されてありました。

ナチスドイツ強制収容所で心理学者が経験したことを描写と精神学から淡々と時にはユーモアさえも交えて書き記したものです。21世紀に紹介された翻訳ドキュメントの第3位とあとがきにありましたが、読んでみてほんとに圧倒されました。アウシュビッツについて歴史で学んだことは外面的、社会的なことであって当事者の、そしてその心理については実のところ怖くて知ろうともしなかったというのが現実でした。

支配する側とされる側といったふたつの対立する者にきっちり線引きがされるわけではなく、被収容者の中で選ばれた一番サディステックな者が班長となり、支配者よりも残虐な行為が行われたこと、逆に人間らしさを示した親衛隊員がいたことなど、つまりは個人のあり様が極限の状況の中で浮かび上がるのだという。ガス室を発明したのが人間であると同時にガス室の中でも毅然として祈ることができるのも人間だと。衣類をはがされ、持ち物はすべて奪われて文字通り裸になっても精神性の自由は奪うことができないと。

作者はほとんど偶然あるいは奇跡的に生還したのですが、時には「死ぬこと」を覚悟した選択をしているのです。医者であった作者は収容所の病人の看病に当たることもあり、その病人たちの移送に志願することができる立場にあることもあったのですが、それが栄転であることも、時には移送団がそのまま、ガス室行きとなることもあったのです。栄転のように思えた状況で残していく人の冷たい視線に恥じ入った時、彼はとどまる決意をする。行くことがよいだろうと思われる状況であっても、人間として一緒に残る道を選んだのだ。そしてそのことが命を救うことになった。移送団の行く先は恐ろしい場所だったのだ。

また、ある時は自分自身も発疹チフスにかかりながら病人の移送に付いて行くことを決意する。自らの病気による死を覚悟した時にたとえガス室に行くことになろうとも、医者として最後は病人の看護にあたりながら終えることができれば本望だと。そして移送団はガス室ではなくほんものの病人の収容所へと到着したのです。

また、収容所に国際赤十字が到着して解放された時に脱出のトラックに乗り込めなかったことを悔しんでいたらそのトラックは前線で爆破され「乗り込めなかった」ために助かったことなど自分の意思や決定によっては生かされていないという経験を思いっきりします。そこで テヘランの死神 という昔話を紹介してありました。

裕福で力のあるペルシア人が、召使をしたがえて屋敷の庭をそぞろ歩いていた。すると、ふいに召使が泣き出した。なんでも、今しがた死神とばったり出くわして脅かされた、と言うのだ。召使いはすがるようにして主人に頼んだ、いちばん足の速い馬をおあたえください、それに乗って、テヘランまで逃げていこうと思います、今日の夕方までにテヘランにたどりつきたいと存じます。主人は召使いに馬をあたえ、召使は一瀉千里に駆けていった。館に入ろうとすると、こんどは主人が死神に会った。主人は死神に言った。
「なぜわたしの召使いを驚かしたのだ、恐がらせたのだ」
すると死神は言った。
「驚かしてなどいない。恐がらせたなんてとんでもない。驚いたのはこっちだ。あの男にここで会うなんて。やつとは今夜、テヘランで会うことになっているのに」


コッペパン一個とうすい水のようなスープ1杯の日々。ある日、夕日が美しいぞ!と駆け込んできた仲間と共にその食事もほりだして皆で赤く染まる雲や空を言葉もなく心を奪われて眺めていた。だれかが「世界はどうしてこんなに美しいんだ!」と言った。



最後に短い挿話を紹介したいと思います。

この若い女性は、自分が数日のうちに死ぬことを悟っていた。なのに、じつに晴れやかだった。
「運命に感謝しています。だって、わたしをこんなにひどい目にあわせてくれたんですもの」
彼女はこのとおりにわたしに言った。
「以前、なに不自由なく暮らしていたとき、わたしはすっかり甘やかされて、精神がどうこうなんて、まじめに考えたことがありませんでした」
その彼女が、最期の数日、内面性をどんどん深めていったのだ。
「あの木が、ひとりぼっちのわたしの、たったひとりのお友だちなんです」
彼女はそう言って、病棟の窓を指さした。外ではマロニエの木が、いままさに花の盛りを迎えていた。板敷きの病床の高さにかがむと、病棟の小さな窓からは、花房をふたつつけた緑の枝が見えた。
「あの木とよくおしゃべりをするんです」
わたしは当惑した。彼女の言葉をどう解釈したらいいのか、わからなかった。譫妄状態で、ときどき幻覚におちいるのだろうか。それでわたしは、木はなにかいうんですか、とたずねた。そうだという。ではなんと?それにたいして、彼女はこう答えたのだ。
「木はこういうんです。わたしはここにいるよ、わたしは、ここに、いるよ、わたしは命、永遠の命だって・・・」





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最終更新日  2008.01.26 16:58:43
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