『同級生』



主人公の西原荘一は高校3年生で野球部のキャプテンである。
そんな彼の『彼女』である由希子が夏の予選を控えたある日、トラックにはねられて死んだ。
彼の子供を身ごもったままで。
この事件を追いかけていくうちに、彼は由希子がいろんな出来事が複雑に絡まった末に追い込まれた犠牲者であることに気づく。

推理小説とはザッピングが基本になっている。
いろんな事象を並べ立ててようやく、犯人確定へと導かれてゆく。
その事象をいかにさりげなくばらまいていけるかが小説家としての腕の見せ所かもしれない。
そういう意味では東野は優秀な小説家だと思う。
とにかく表現が繊細で、事象のみならず、登場人物の心情の描き方にも気を配っており、比較的たやすく感情移入することができる。

ぼく個人としては、ミステリーとしてはいまいちだったかなという気がする。
たとえば女教師が死んだときも、自殺だとわかるには情報が足りなすぎる気がする。
それともぼくが東野のミステリーを読めるほど頭が良くないとも言えるかもしれない。
いずれにせよ、ぼくのレベルでは犯人探しの楽しさをこの物語で味わうことはできなかった。

ただし、先述したように、小説としたらなかなか面白いと思う。
体制と反体制、ブルジョワとプロレタリアート、先生と教え子、男と女などなど、この物語の中ではいろいろな形で対立を演出している。
その位置をはじめのうちは素直に描いているのであるが、徐々に主人公の心情を明らかにしていくうちに、時に逆転してゆく。
すなわち、関与するものとしての主人公が、だんだんと傍観者へと移り変わって行き、終いには読者であるぼくたちも外の人になってしまう。
感情移入をして読んでいくと、このきわめてセンシティブなどんでん返しに妙な行き止まり感を禁じえない。
その行き止まり感が今の世の中を巧妙に反映しているような気がする。

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