『小さな貴婦人』



この物語は不思議なテンポで進められていく。
テンポと言うか、主人公の独特の世界(世界観ではない)というか。。
この主人公と言うのは、おそらく吉行自身がモデルになっていると思われるが、ネコと一緒に暮らす30代後半の独身女流小説家である。
主な登場人物はその他に二人。
主人公が小説を書くきっかけともなった、70歳くらいのやはり女流小説家のG。
それと、本やぬいぐるみなどいろんなものを売っている「竜太」という店の女主人である志穂。
この3人に共通なことは、みな猫好き、いや、猫を人間のように愛しているということだ。

彼女達は普通に猫に話しかける。
そのことでしか、自分の世界を保ちつづけることができないようだ。
だから愛してやまない猫が死んでしまった時、後追い自殺でもするかのような真っ直ぐさがある。
この独特の世界を彼女ら3人が共有しているのであるが、それぞれ、その気持ちの向き方に特徴がある。
Gの場合、外側の世界に対して攻撃的である。
基本的には相手への思いやりに欠ける人たちを非難するのであるが、あまりにも自分勝手に非難するので、同類ではないかと思うほどだ。
志穂はおだやかだ。
彼女には霊感がある。
だから内側だろうが外側だろうが自分を見失うことはない。
そして主人公(名前はわからない)。
彼女はどっちつかずの人間だ。
非常に弱い。
外の人間にあつかましく扱われると、むっとするが、言い返せない。
それどころか、Gのように、内々でさえ、文句を行くことができない。
ただただだまって頷いて、猫に話しかけるだけである。

ぼくはふと、この主人公、G、志穂の3人はすべて作者である吉行自身なのではないかと思った。
本当はちゃんと自分の主張を叫びたい。
本当はそんなことどうでもよくて自然に、ごく自然に生きていきたい。
でも、結局回りの人たちに翻弄されて生きていくしかない。。
ちょっと厳しい見方かもしれないが、分裂症の一歩手前の人間の感情ではなかろうか。
いろんな自分がいる。
外の人たちとコミュニケーションが取れない。
猫が取り持つ縁や世界は、そんな彼女にとって唯一、自己同一性を確認できる世界なのかもしれない。


© Rakuten Group, Inc.
Design a Mobile Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: