『飼育』  



物語は終戦間近のとある山奥の小さな村。
主人公は狩人を父に持つ小学生中学年から高学年くらいの少年か。
そんな戦争の影響をまったく受けない山奥の村にアメリカ軍の戦闘機が墜落したところから物語は始まる。

この物語は背景として、いろいろな対立関係がセッティングされている。
狩人としての人間と狩られるものとしての動物。
強い国家と弱い村。
垢抜けた町の住民とエタ・ヒニンのような目で見られる村人。
権力をもつ男と、性の慰み者に甘んじる女。
強大国アメリカとやがて敗戦国となる日本。
敵と味方。
そしてオトナとコドモ。

この一種封建制を引きずった日本の社会システムに一人の黒人パイロットによってひびが入ってゆく。
村人の初めて接する黒人は、強大国のアメリカの象徴であり、敵であった。
その黒人に対してはじめ村人は恐れを持って接し、同時に自分たちの配下にあることにあることに酔いしれる。
黒人を飼育していくという行為の中で、村人の自意識は強くなり、そしてアメリカとの精神的立場は逆転する。
また、おとなしく飼育される黒人は、敵と味方という関係をも凌駕する。

個の関係によって、「日本」を飛び越えた部分での関係があいまいになる一方で、あいかわらず日本の古い体制は変わる気配はない。
内面に変化の現れた主人公はその古くからの日本の体制に疑問を抱くようになる。
そしてそれは国の命令に敏感に反応した黒人の謀反によってあらわとなってゆく。

結局「日本」が守ろうとしていたものはなんだったのだろうか。
父親の猟銃によって砕かれた左手を見ながら、少年の思考は終戦へと向かう「日本」と同じように、虚無なシステムの向こう側へと導かれてゆく。


© Rakuten Group, Inc.
Design a Mobile Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: