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Nov 19, 2011
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カテゴリ: 伊庭求馬活殺剣
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まだ屋根裏に曲者が潜んでいるような思いがしていたのだ。

「恐れながら申し上げます。拙者はこの一連の騒動の黒幕は大殿と思って

おりました、二度にわたる首座殿の襲撃を考えますと世間もそうみましょう。

松平信明さまに幕臣の二人は、世間の眼を逸らす大殿の謀かと推測いたし

ておりました」

 井坂隼人が恐れるふうもみせずに言い切った。

「何故、そのような推測をした」

「お隠しなされますな、大殿は大御所になられようと上様にお願いしましたな。

だが、首座の松平定信さまに邪魔をされました」

「井坂、わしにも野望はある。じゃが定信とは縁戚関係じゃ、その命を奪う

ほど冷酷ではないわ」

 治済が老獪な眼を光らせ否定した。

「大殿、大目付の嘉納主水は曲者が大殿を狙っておることを探りだしました

な、それであのような物々しい警護をしておる訳にございますな」

 治済はそれには言及せず、

「井坂、警護を倍に増やせ。わしはまだ死ぬ訳にはいかぬ」

「畏まりました」

「さらば下がって今夜の警護を万全にいたせ」

 井坂隼人は座敷を辞し、長廊下を歩みながら主人の胸中を計りかねて

いた。治済の一番の政敵は老中首座の松平定信さま、そう思うとすんなりと

大殿の言葉は信じられない。併し将軍の実父として幕閣に大きな影響力を

保持し、大奥までも味方につけた辣腕を思うと、一橋家を守りとおすことが

自分の任務と心に決した。

 それは幕臣ながら一橋家の家臣である、自分の微妙な立場を感じとった

ことであった。治済さまをお守りする、これが出世の早道と悟ったのだ。

 一橋家の屋敷は井坂隼人の下知で盤石な警備陣を敷いた。

 屋敷の各所に手練者を配置し、自らも先頭にたって屋敷の警備に奔走

していた。火付盗賊改方も連日、内濠外の警備を続けている。

 それは首座である松平定信の命で、嘉納主水は一同に厳命として伝えて

いたのだ。


「今夜も冷えるね。惚れて通えば 千里も一里 逢わで帰れば また千里」

 凍えるように冷えた日本橋を、いなせな声で謡いながら行くのは猪の吉

である。一橋家の厳重な警備を知った江戸の住人は、闇が落ちると早々に

家路にもどり、町は無人と化している。

 猪の吉は板橋宿の失敗を内心でかみ殺し、道を急いでいた。

「今晩は、猪の吉でござんす」

「開いているよ」

 中からお蘭の声がした。

「お邪魔いたしやすよ」

 声をかけ小粋な格子戸をカラリと開けた。

「旦那がお待ちかねだよ」

「師匠、こんなに遅くお邪魔して申し訳ありやせんね」

「遠慮する間柄でもないよ」

 相変わらず江戸の鉄火女の歯切れが心地よい、お蘭が女盛りをみせつけ

色っぽい微笑を浮かべている。

「わがものと思えば軽き傘の雪、恋の重荷を肩にかけ、芋狩り行けば、冬の

夜の川風寒く、千鳥鳴く、待つ身に辛き置炬燵、実にやるせがないわいな」

 猪の吉は内心忸怩たる思いをこらえ、謡いながら玄関で埃を払っている。

「馬鹿を言ってないで早くお入りな」

「馬鹿は言い過ぎですぜ」

「ご飯はまだかい」

「近くの店で済ましてきやした」

 猪の吉が奥の座敷にあがった、相変わらず求馬は夜の大川を眺めている。

「旦那、ご免なすって」

「火鉢に寄れ、外はぐんと冷え込んでおろう」

 求馬は猪の吉のしくじりを一言も云わずに労りの言葉をかけた。

「旦那、先日は申し訳ない事をいたしやした」

「我等が気づくことが遅かっただけじゃ」

 化粧の匂いが漂い、お蘭が熱燗を乗せた盆をもって現れた。

「飲んでおくれな、暖まるよ。無くなったら声をかけておくれ」

 そのまま部屋から去った。猪の吉には二人の労りの気持ちが痛いほど

心に染みる。凍えた手でぐい飲みに熱燗を注いだ。

「遠慮なく頂きやす」

 冷えた躰の五臓六腑に熱燗の暖かさが染みとおって行く。

 求馬も独酌をはじめている。

「美味いねえ」

 猪の吉が美味そうに三杯ほど飲み干し口を開いた。

「旦那、笑わないでおくんなせえよ、あっしは悔しくってね。それで考えて

みやした、奴等の隠れ家は何処かって」

「それでこそ猪の吉じゃ、何か思いついたか?」

 求馬が常のごとく乾いた声で訊ねた。

「奴等は初め深川森下町の古寺に潜んでおりやした、もうひとつの隠れ家は

神明門前町の古寺にございやしたね」

「・・・・」

 求馬は口を閉ざし黙々と杯を口にしている。


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Last updated  Nov 19, 2011 11:58:09 AM
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