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Nov 26, 2014
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「わたくしに・・・どなたにございましょう?」

 お弓の胸に疑心が奔り抜けた、誰をわたしに逢せようと為さるのか、 

「そのように心配いたすな、余の妹じゃ」  

「・・・姫君さまに?」  

 今度はお弓が絶句する番であった。

「奥で首を長くして待っておろう」

 信玄が魁偉な容貌を和ませている。

 お弓は近侍の若侍の案内で奥の一室に案内され顔色が変わった。

「小母さま、お久しゅうございます」  

 豪華な打ち掛け姿の、お麻が両手をついて待っていたのだ。  

「お麻殿か?」

「はい、父上が川中島で亡くなり、御屋形さまが引き取って下されました」

「美しく成長なされましたな」  

 途中、感極まって声が途絶えた。

 躑躅ケ崎館を訪れお麻に逢えるとは、思ってもみなかったのに、こうして

逢えるとは夢のようであった。

 お麻に初めて遭ったのは二年前の、永禄四年の六月であった。

 たった二年でも、少女の成長は目を見張るほど早い。

「余の妹じゃ」  

 先刻の信玄の声を思いだし、身の縮まる思いに包まれるお弓である。

 あの年の九月に第四回川中島合戦が勃発したのだ。

 勘助ともあの時以来、会うことが叶わなくなった。

「わたくしの母上さまと御屋形さまが申されましたが、本当にございますか?」

 美しく成長したお麻が切れ長な眼を見開いてお弓を見つめた。

「御屋形さまのご冗談ですよ。お麻殿の母親なんぞは嘘にきまってます」

 いたいけな少女の問いに応ずる、お弓は汗の滲む思いでいる。

「もう良いのです。こうして母上さまにお逢いできてお麻は・・・・」

 涙ぐみ言葉を途絶えさせる娘を抱きしめ、束の間の幸せを味わった。

 抱きしめながらも、娘がこのように美しく成長した事が嬉しかった。

「この脇差が、わたくしの父上の形見だと御屋形さまが申されました」

 お麻がそっと懐剣を差しだした。

 お弓は目を疑った。お麻を勘助に託した時に渡した信虎の脇差であった。

 これで訳が判った。この脇差を信玄さまがご覧に成り、お麻が父、信虎の

落しだねと知ったのだ。

 事実、お麻は信玄の実の妹である、それはお弓が一番に承知している。

 信玄は山本勘助が突然に赤子を匿い育てた訳を理解したのだ。

「母上さま、またお逢いできますね。お麻は待っております」

「逢いますとも、わたくしは何度もこのお館に参ります」

「良かった」

 お麻が嬉しそうに笑顔で応じた。

 しばしの語らいを終え、心を残し奥を去る時、

 娘の声を背で受け涙が頬を伝った、女忍として初めて流した涙であった。

 信玄はお弓の帰りを待ち受けていた。  

「余の妹はいかがであった?」

「勿体ないお言葉、身に染みまする」  

「会いたくなったら、遠慮のう訪ねてまいれ」


 信玄は何も詮索せず、短く言葉をかけた。

「・・・-」  

 お弓が言葉を失っている。

「父上の事じゃが結論から申す。今川家は武田家が武力でもって支配いたす。

よってつまらぬ火遊びは、即刻お止め頂きたい。これが余の返答じゃ」  

 信玄が一気に述べ、お弓の反応を窺がっている。

「駿府の大殿さまは、何方が申されましょうとお止めにはなりますまい」

 お弓の反論で信玄が濃い顎髭をさすって考え込み、太い吐息を吐き出した。

「余にも判っておる、こうと思われたら途中で投げ出される事はなされぬ。

 そちに良き思案はないか?」  

「三名の重臣達を脅したらいかがでしょう?」

「それも考えた、併し、それも危険じゃ。奴等が父上の命を奪うやもしれぬ」


「・・・・-」  

 お弓が絶句した、全てを見通しておられる。

「何としてもお止め申せ。聞けば父上の家臣は小林兵左衛門一人じゃそうな、

警護の士を送ろう、そのために氏真殿に進物を贈ろう。虎皮十枚、豹皮十枚」


 信玄が太い指を折って数えている。

「縮羅(ちじら)二百反、黄金百枚、これで氏真殿の歓心を買おう」

「大層な贈り物にございまするな」

「何の、これで父上の命が助かるなら安いものじゃ」

 こうしてお弓は屈強な護衛の家臣と共に駿府に戻った。

 豪勢な進物を送られた氏真は感激し、信虎の隠居所を訪れてきた。

「これは氏真殿、この爺になんぞ御用かの」

「爺殿に警護の士が居らぬことを忘れておりました。早速、信玄殿お手配

の警護の家臣をお使いなされ、信玄殿からは沢山の進物を頂戴いたした」

「左様にござるか、じゃがこの老人には警護なんぞ無用にござる」

 信玄の奴め、わしを監視する積りじゃなと信虎は信玄の心をよんでいる。

 氏真は騒々しく騒ぎたち返って行った。

「騒々しい男じゃ」  

 信虎が懐紙に唾を吐き出した。

 信玄が信虎の護衛として送り込んだ男達は、精悍で屈強な男たちであった。

「大殿、それがしは海野昌孝と申します。大殿警護を命じられ罷りこしました」

 見るからに偉丈夫な男が進み出て挨拶した。

「ご苦労じゃ、五名も参ったか。この年寄りには勿体ない」

 信虎は一人一人に声をかけねぎらい、隠居所は一気に活気ずいた。

「大殿、これは御屋形さまから与ってまいりました金子にございます」

「ほうー・・これは大金じゃな」  

 海野の差し出す袱紗には五十枚の金子が輝いている。   

「兵左衛門、この金子は仕舞っておけ」

 信虎が満足そうな顔をしている。

 その晩は警護の者たちの慰労をかね大いに飲んで騒いだ。  

「古狸の舅殿も大層元気じゃな」

 報告を受けた氏真が薄ら笑いを浮かべている。

 彼は家臣等の心が離れている事を知らずにいる、それだけに悲劇であった。

 今宵も進物の虎皮や豹皮を敷き並べ、腰元を侍らせ酒に溺れている。 

「これは甲斐の武田信玄よりの贈り物じゃ」

 と、悦に入って腰元たちを追い回している。

 傍らの重臣、葛山備中守と関口兵部が憮然とした顔つきをしている。

 この年の暮れに武田勢は武蔵の国に出兵した。これも北条氏康の要請に

応じたことで、太田資正(すけまさ)の属城である松山城を包囲した。

 これを受けた輝虎は豪雪をおして出陣したが、越後勢の進攻の知らせを受けた

武田勢と北条勢は一斉に軍を引いた。

 これにより越後勢は為すこともなく本国に帰還したが、翌年、二月に再び

武田勢、北条勢は松山城を攻撃し守将の上杉憲勝(のりかつ)を降参させた。

 越後勢はまたもや豪雪の中を押し出したが、松山城数里の地点で落城を知り

虚しく兵を引いた。


 まことに不思議な合戦が関東で繰り広げられている。

 まるでいたちごっこである。

 信玄は軍勢を引くと見せかけ、上野に疾風のように現われ松井田城、国峰城

を攻略し本国に兵を引き上げた。

 まさに孫子の御旗どおりの戦略を見せ付けたのだ。

 これにより上杉輝虎は関東と越中に軍勢を繰り出すこととなり、輝虎は信玄

と氏康の策に踊らされ、いいように振り廻されることになった。

 信玄は上野の松井田城と国峰城を得て、西上野を完全に武田領としたのだ。

 これで武田家は関東から手を引くことになる。

 漸く念願の駿河平定戦の始まりであるが、唯一、信玄は大いなる誤算を

していた。それは松平家康の器量を安易に考えていたことである。

 信玄が関東出兵で上杉輝虎と合戦騒ぎをしている最中に、松平家康は

信長と結んだ清須同盟で着々と三河の地で勢力を伸ばし、今川領を狙う

まで力を付けていたのだ。

 信玄は駿河平定の前に、三河の松平家と対峙せねば成らなくなった。

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Last updated  Nov 27, 2014 04:08:51 PM
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