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Dec 9, 2014
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         (武田家内紛の序章)

 今年で四十三才となった信玄が、小太りの体躯を現し座所に腰を据えた。

 眼がらんらんと輝き、眸子の奥に憤怒の色を隠している。

「この暑い最中に大儀じゃ。先月は上杉勢と久しぶりに対陣いたしたが、

何事も起こらず安堵いたした」

 信玄が脇息を引き寄せ一座の武将達を見廻し、おもむろに口を開いた。

「駿府におわす父上の事で悪い報せが届いておる」

 一座の重臣達に緊張が奔った。かって大殿、信虎さまを話題とした事が

ない御屋形である。その御屋形が初めて大殿の件を口にされたのだ。

「変事でもございましたのか?」  

 飯富兵部が真っ先に訊ねた。

 この場の重臣達も代替わりをし、信虎を見知っておる者が少なくなっている。

「父上が、今川氏真に命を狙われ、駿河城から姿を消されたそうじゃ」

「氏真さまに?」  

 一座に集いし武将達がざわついた。

「ここに集いし者のなかに父上のご尊顔を見知って居る者は少なくなった。

 余が画策し、甲斐から追放したと信じておる者が大半じゃな」  

 信玄が主殿を見廻し、更に言葉を続けた。

「それは誤りじゃ。飯富兵部や馬場信春、山県昌景ならば知っておろう」

「はい、その経緯は存じておりまする」

 飯富兵部虎昌の顔に不安な色が刷かれている。

「父上は、ご自身で余に追放されたと偽って駿府城に行かれたのじゃ。

この意味は駿河を武田家の領土にしょうとの存念があっての事じゃ」

 事情を知らぬ重臣連が唾を飲み込み、太郎義信が蒼白な顔色となった。

 初めて聞かされる真実であった。

 信虎、追放劇のあった頃の武田家は、関東の北条、諏訪、信濃の諸大名に

領地を侵食され、その対応に必死であった。

 それ故に信虎は自分の長女の定恵院を今川義元の正室として嫁がせた。

 いわば呈の良い人質であり、彼女は信玄、信繁、信廉らの姉であった。

 こうした事は戦国乱世にあっては、ごく普通の出来事であった。

 力なき者は力ある者に庇護を願い、秘かに力を蓄え取って変わろうとする。

 それが戦国乱世の習いであった。

 信虎には野望があった、上洛と塩の道の確保である。それは今川家を

武田が支配する事を意味するものであった。

 その為に自ら倅の信玄に武田家を追放され、義元に庇護を求めだのだ。

 こうして哀れな老人として、駿府城で数々の謀略を成してきたのだ。

「それが洩れたのじゃ。孫の氏真は実の爺さまである父上を殺めようとした。

 これは断じて許せぬ」  

 信玄の声が主殿を震わせた。  

「真にございますのか?」

「飯富兵部、余がなんで偽りを申さねばならぬ。今年で七十歳を迎えられる

老人に対する仕打ちか」  

 信玄の言葉が飯富兵部の肺腑をえぐった。

「馬場信春、山県三郎兵衛」  

「はっー」  

「そちたちも同席しておったの」

「はい、して大殿のご消息は?」  

 馬場信春が戦場焼けした声をあげた。

「今のところは余も知らぬ、じゃがすぐに知らせが参ろう」  

「・・・-」

 馬場信春と山県三郎兵衛が不審そうな顔をした。

「父上は何度も駿河を攻め取れと余に申しおくって参られたが、余はその

お言葉に従わなかった。併し、この一件で余の覚悟も定まった。武田家は

駿河を平定しその領土を我がものとし、いずれは上洛いたす」

「おおうー」  

 一座の武将達から喜びの声が挙がった。

 今まで上洛を口にされた事のない御屋形さまが、初めて口にされたのだ。

 戦国乱世に生きる武将としては、これ以上の喜びはない。

「父上に申しあげます」  

「義信か、何か申すことがあるか?」

 信玄の強い視線に一瞬ひるんだ様子を見せたが、嫡男の義信が口を開いた。

「氏真殿は父上の姉君のお子にございます。また義信にとり妻の兄、いわば

義兄にあたります。今川家とことを構える事だけは、お止め下されませ」

「若殿、お言葉が過ぎます」  

 飯富兵部がすかさず制止した。

「・・・-義信、余の申すことが不服と申すか?」

「・・・-」  

 何事か言いたそうにし義信が面を伏せた。

 天文十九年(一五五〇年)義信が一三歳で元服した時、今川義元の娘を

正室に迎えている。実名は不明で嶺松院殿と呼ばれた。

 義信にとり彼女は従姉妹であった。義信は彼女を愛し今川家との軋轢は、

好むことではなかった。

「重ねて申す、来年には西上野を盤石とし。その後に今川家を攻め滅ぼす。

 今の世をみよ戦国乱世じゃ。武田が手をこまねいておれば三河の松平が

今川を滅ぼそう、そうなれば父上と余の上洛の夢は泡沫となろう」

「父上に申しあげます。肉親縁戚は無二のものと義信は考えます。なにとぞ

ご再考をお願い仕ります」  

 必死の願いを面に表わし義信が嘆願した。

「莫迦者、いずれは甲斐の国主となる身でありながら、何と愚かなことを申す。

国主の務めは領民の幸せにある、肉親縁戚ではない。飯富兵部、そちは義信の

傅役として何を教えてまいった」  

 信玄の声が主殿を揺るがした。

「飯富には関係ございませぬ」  

 義信が素早く兵部をかばった。

 飯富兵部の実弟の山県三郎兵衛がそっと面を伏せた。

「若殿、御屋形さまに謝りなされ」

「飯富、もう良い。義信をこの場から退けよ」

「はっ」  

 飯富兵部と近侍の者たちが躯を抱え込むようにして義信を連れ去った。

「困った奴じゃ」  

 信玄が苦笑を浮かべた。併し胸裡ではほかごとを考えていたのだ、嫡男で

あってもあの器量では国主の座は務まらぬ。いっそ勝頼に国主の座を譲るか。

 信玄ともあろう人物が父、信虎の轍を踏もうとしていた。

 傍らの馬場美濃守信春が信玄の心境の変化に気付いた。

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Last updated  Dec 10, 2014 02:23:26 PM
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