すい工房 -ブログー

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小説「クチナシの庭」 (15ページ目)40~42

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 季節も冬になると、急に寒さが増してくる。

 寒さは、体のさまざまな器官を鈍らせた。
 普段、目覚めはいいのに、この季節になると、目覚まし時計のスヌーズ機能と何度も戦って、ようやく目覚める。
 寒さに震える体を、布団の中にくるまる誘惑にどうにか打ち勝って、ようやくベットの中から出れるから、朝だけでほかのどの季節より大変だ。

 冬服の上に学校指定のコートを羽織り、首にマフラーを巻きつけて、家を出る。
 防寒対策万全でも、一歩外に踏み出すと、容赦ない木枯らしに見舞われる。
 吹き付ける木枯らしに、体をすくめながら、なえそうになる心をどうにか我慢して、学校へ向かった。

 学校までは家から十分。
 近場との理由で選んだ学校だけど、こういうとき、非情にありがたい。

 木枯らしを避けるように、ひたすらうつむいて歩いていたので、声をかけられるまで人の存在に気づかなかった。

「リツ!」

 声に気づいて顔を上げると、少し後方に圭介がいた。
 圭介はなぜ気づかないのかと呆れ顔でそばにくる。

「どうしたの? 部活は?」
 陸上部は朝練があるから、いつもこの時間帯は校舎内にいるはずなのに。

「期末テスト前で禁止」
「……あ。そっか」

 うちの高校では、テスト期間中、テスト前になると、部活動が禁止になる。
 進学校で通っているので、何よりもまず学業。が信念なのだ。
 ……まあ、期間中に大きな大会があったりしたら、それなりの融通は利かせてくれるけど。

 ごく自然に……それが当たり前のように、圭介は私と並んで歩く。
 体育祭での私と圭介の噂も、事実なしとすでに鎮火しているけれど、私としてはなんとなく居心地が悪かった。
 態度には……見せないようにしていたけど。

 文化祭以来、圭介と話す機会も数えるほどしかなかった。
 圭介が、私のクラスでの橋川との接触を減らしてくれたからというのも1つの理由だけれど……。
 私自身が必要としないかぎり、圭介と接触しないようにしていた。

 気まずさが、胸のうちにあったから。

 あの迷子になったとき、私の知らない事実を間接的に聞いてから、圭介に申し訳なくてならなかった。
 自分の無神経さに、嫌気もさしていた。

 とりとめもない世間話をしていると、不意に圭介が聞いてきた。

「リツさー。最近、俺のこと避けてない?」

 今まさに思っていることを言い当てられ、ぎくりと体が震えた。

「な、なんで?」
「なんでって……逃げただろ。昨日」
 半眼で言われて、返す言葉もない。
 確かに昨日の帰り間際、校門で見かけた圭介に気づかないフリをして足早に通り過ぎた。
 気づいていないと思ったのに。

「何か……あった?」
「え? 何かって?」

 聞き返すと、疑いの眼差しを向けられた。

「ハシとか……ほかの女子とか」

 思ってもいないことを言われて、私はただ、目をしばたたせるだけ。
 私の反応に、圭介はわけがわからない顔をした。
 追求してきたけれど、私は「勘違いだ。昨日も圭介に気づかなかっただけ」と、教室に逃げ込むまで言い張った。

 さすがに教室の中までは追ってこなかったけれど、疑いの眼差しはふんだんに注がれていた。

 圭介が隣の教室に向かったのを確認すると、どっと疲れが溢れた。

 カエがからかい半分、呆れ半分で「あいかわらず、仲がいいこと」とちょっかいを出してきたけれど、それにまともに取り合うこともできないほど、精神的に疲れていた。

 その後も、何度か圭介と遭遇しそうになるニアミスがあったものの、テスト期間中はどうにか乗りきった。

 圭介が話したそうな顔をしていたのに、気づいてはいた。
 気づいていたけど、話したところでボロが出るだけだ。

 この前のように「何かあったのか」と聞かれても、圭介の納得いくようなごまかしが思いつかないし、できそうにない。

 期末テストが終わると、教室は冬休みに向けて浮き足立っている。
 クリスマスに備えての準備を、そこかしこで目にした。

 恋人保有率が極端に上がる時期でもある。

 下火になっていた圭介の人気も、この時期になると一時的に復活する。
 そのおかげで、圭介が私にかまう時間がなくなった。
 圭介には悪いけれど……私としては、ありがたかった。

 特に今年は、自由な時間を謳歌できる最後の長期休暇とあって、熱のこもりようが激しい。
 由里子と知恵も、暇を見つけては彼氏と行動をともにした。

「バイトしない?」

 カエが私に声をかけてきたのは、仲間内、唯一の独り身だから。
 ともいうカエも、同様だ。

「バイト?」

 期末テストの結果はまずまず。
 私の中での及第点は行っていた。

 テスト結果を聞かれて答えると、カエは次にそう聞いてきた。

「そ。短期。クリスマスケーキの路上販売」

 冬休みまであと一週間。
 クリスマスまで一週間と三日。 

「……予定、入ってる?」
「入る可能性が薄いから聞いたんでしょ」
「まあ、もしかしての可能性もあるし」

 苦笑交じりにカエは告げて「他に予定ある?」と尋ねた。

 日程を聞くと、23日と24日の二日間。
 23日は、店内での普通のレジ、24日が路上販売となっていた。
 23日は、クリスマスケーキ製作、最終追い込みで、店員が厨房に裂かれるための人員補給をするためだ。

「部活は?」
「休む」
「いいの?」
「いいのいいの。ちょっとね。お小遣い稼ぎたくて。短期だけど、日当がいいんだ」

 そう言って提示した金額は、確かに短期にしては上々だった。
 二日で2万はいくから。
 バイト先も、名の知れたチェーン店だし。

「一人だと、心細くて。無理じいはしないから。興味あるならどうかってね」

 とくにバイトをしたいとは思わないけれど、私も少々、ふところが寂しくなっていた。
 冬は寒さに負けて、あったかい飲み物を衝動買いしてしまう。

 バイト代が高いってことは大変なんだろうな。
 寒空の中、立ちっぱなしだし。

 などと思案したけれど、結局、私もバイトをすることにした。
 二日くらいの我慢なら、どうにかなるだろうと思って。

 カエは喜んで、手続きは全部引き受けてくれた。

 こうして、高校二年の冬休みが始まった。



 賃金とは、労働に見合った代償なのだと、身をもって知った。

「さ~む~い~!!」

 木枯らしが吹き付ける中、自分の体を抱きしめながら、カエが何度目にかなるかすれた叫びを上げた。
 路上販売は二日目からのはずだったけれど、やりとりの行き違いから、初日の午前中からすることになった。

 カエは初日から路上販売と聞いて「話が違う」とそれだけでも機嫌が悪いのに、雰囲気を出すためとはいえ、布地の赤い三角帽子をかぶると聞いて、不機嫌に拍車をかけた。

 人目のある路地では売り子を全うしてるけれど、ひとたび休憩に入ると、体を震わせて悪態をついた。
 さすがに声は抑えているけど。

 休憩には、従業員用の小部屋を使用していいとの許可が下りていた。
 風を防げる屋内で、私とカエはしばしの暖をとっていた。

「なんなのよ! 路上販売は24日だけって言ってたのに! しかも、こんな帽子かぶって!」

 カエには、クリスマスの雰囲気をかもし出す赤い帽子さえ不満らしい。

「よかったじゃない。これくらいですんで」

 ホットの缶コーヒーをカイロがわりに温まりながらいうと、カエが怪訝な眼差しを向けた。

「ここ、女性版サンタの格好をした売り子さんがいるから。それも覚悟していたんだけれど」

 それは専門のコンパニオンの方々に任せているそうだ。

「女性版サンタ?」

 眉をよせるカエ。

「知らないの? 『ラ・クォーツ』のクリスマスの定番。上下赤の服に、下はスカート。かわいいんだけど、寒そうなんだよねぇ」
「……そんなのがあるかもって、知ってたの?」
「知らないほうがおかしいよ。毎年してるのに。いかにもカエが嫌いそうな分野だけど、それを我慢してまで、お小遣いを稼ぎたいと思ってた」
「そこまでは困ってないって」

 言って、カエは不満のオンパレードをやめて、明日あるかも知れない不安にかられていた。

 明日は宣伝専門のコンパニオンの人がくると、お店の人にも確認している。
 明日はレジをさばくのに専念して欲しいとも言われていた。

 休憩が終わると、最初の段取りどおり、店内販売にうつった。
 後で知ったけれど、午前中に路上販売を任されたのは、混雑ピークとなる24日になって、てんてこ舞いにならないように、練習の意味も兼ねていたらしい。

 普段は、時間があれば交代でレジを担当するスタッフの人たちも、今日ばかりは明日の下準備等で、カウンターに立つ時間もない。
 その穴埋めとして、私とカエが立っている。


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