
軽妙なジョークを織り込む是枝節が満載だったけど、テーマは「人は人を裁けるのか」と重い。マイケル・サンデル作「これからの<正義>の話をしよう」にも通ずるテーマ。
「真実」は、“三隅(役所さん)が山中咲江(広瀬すずちゃん)のために殺人を犯した”か、“咲江が犯した罪を三隅が被った”か“2人で犯行を行い三隅が罪を被った”のどれかが真実であろう。
観終わった後も一体何が真実だったのか、未だに分からない。咲江を守る為に三隅が重盛(マシャ)を触媒にして戦術を貼り巡らしたに思えるが真実は不明。
善人とも悪人ともつかず、落ち着いていたと思ったら時に狂人のような不穏な表情と言動で重盛を幻惑する三隅。そして、次第に三隅の緩急自在の術中にハマり、遂には真実を追い求めずにはいられなくなる重盛。毎回少しずつ変わる接見室の光の加減や音の響き、そして、ラストシーンで重なり合う二人の横顔。
7度に渡る接見室での三隅と重盛とのやり取りは巨匠マイケル・マン監督の「HEAT」でのアル・パチーノ、ロバート・デ・ニーロが直接対峙するシーンを思い浮かべさせる。アル・パチーノとデ・ニーロは五分五分で渡り合っていたが、重盛は三隅の術中にハマり幻惑されてしまう。
推測だが、「羊🐏たちの沈黙」のレクター(アンソニー・ホプキンス)を意識して役所さんは三隅を演じたのではないか?「猟奇的な殺人を全く躊躇なく実行できる」側面と「咲江とカナリアに対して非常に優しく接することの出来る」側面。重盛を迷路に誘い込む多重人格性を包含する三隅の「器」。
「三度目の殺人」による死は「重盛による肉体としての三隅の死」と「三隅による精神としての重盛の死」のDouble Meaningsを示唆している。ラストシーンで重なり合う二人の横顔が暗示するのは留萌での判決は重盛の父(橋爪功さん)が三隅の肉体に対して刑が執行されたが、「三度目の殺人」による判決は三隅が重盛の精神に対して刑を執行したこと。
撮影中、役所さんがどんな意図で芝居をしているのかと混乱したマシャは、撮影半ばで思わず「役所さん、本当は殺したという設定で演技しているんですか?」と尋ねたらしい。結果、役所さんは「僕にも分からないんです」とはぐらかされてしまったとの事。マシャは劇中のキャラクター重盛同様役所さん、三隅に翻弄される。
是枝さんが「スッキリしないままに終わらせる事が狙い」と言い続けている。その狙いにマシャ同様、ドップリとハマることになった。咲江と殺された実の父の関係は東野圭吾作「白夜行」の冒頭の陰惨なStoryを想起させる。
裁判官、検察官、弁護人は司法という同じ船に乗り、経済性という制約の基に期限までに目的地にたどり着かせることを是としている。真実が何かわからないまま裁きのシステムだけが維持されている。この現状に是枝さんはこの映画を通して、問題提起。
不倫騒動で「勇名」を馳せた斎藤由貴さんが「夫の実の娘に対する残虐で非道な行動を見て見ぬフリ」をし続ける、身勝手でズル賢い大人、咲江の母美津江として登場。良い味を出していた。台所で咲江を後ろから意味ありげに抱きしめる美津江。「色」を極めた斎藤さんでしか出せないゾクゾクさせる艶技。
十字架もテーマで、
・焼死した山中光男の犯行現場の燃え跡
・雪合戦の回想シーンで倒れ込んだ三隅と咲江の姿勢
・三隅が庭に作ったカナリアの墓
・咲江の立ち寄ったパン屋の名前「丸十ベーカリー」
・ラストシーンで重盛が見上げた電線の交差する形
・ラストシーンで重盛が立っていた十字路
是枝さんによる全部で7個らしいので上の7つかな。
鑑賞後、赤坂離宮で少し優雅にランチ。
















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