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2009.04.15
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カテゴリ: ちっちゃなお話
白ずきんちゃんは、
おでんやさんのおやじさんに 卵を勧められた あの夜 から ずっと、
卵を見ないようにして 過ごしてきました。

卵を見ると、なんだか 落ち着かない気分になるからです。


自分が、たかが 卵に対して
妙なコンプレックスを持っていることは、わかっていました。

それが どこから来るのか? も、薄々わかっていました。



というのも・・・




あの、どろっとした白身。
どんなに切ろうとしても、切れません。

あの、とろっとした黄身。
唇にくっつくと、皮が1枚増えたように感じます。


ただでさえ あまり好きではない 生卵でしたが、
白ずきんちゃんは 毎日 卵を 食べなければなりませんでした。

白ずきんちゃんのお母さんが、卵が大好きだったからです。


白ずきんちゃんは、泣きながら 卵かけごはんを 食べました。

「卵は栄養があるんだから」という理由で、
卵かけごはんを残すことは 許されませんでした。






・・・そんな幼児体験が、


おとなになった白ずきんちゃんは、そう分析しました。



もちろん、ゆで卵にしてしまえば、
白身も黄身も、感触は まったく変わります。


が、大きくなるにつれ、白ずきんちゃんは、

卵が おでんの花形的存在であり、
卵が サンドイッチの一番人気の具であり、
煮卵が入るか否かで ラーメンの価格が異なる。


という世間の掟を知るようになりました。




卵って、そんなに 世間では重要視されている食材だったのね!?
そんなにも素晴らしいとされている卵が 苦手な わたしなんて・・・


と、卵と自分との関係を ねじまげ、
いつしか、生卵だけでなく、ゆで卵に対しても、
見当違いなコンプレックスを 抱くようになっていたのでした。



白ずきんちゃんは、そんなコンプレックスを隠すため、

卵なんか 食べなくたって、
たんぱく質は 大豆から 摂ればいいわ。


という持論を展開してみました。


が、本当は、人並みに卵を食べることができない自分を、
ひそかに 悲しく 思っていました。


また、そんな悲しい自分いることが 悲しくて、
「卵」というと やけに ぴくん! とする自分がいることも、
白ずきんちゃんは 知っていました。



白ずきんちゃんは、
このような 壮大なる卵物語を抱えて、生きてきたのです。








ある日、白ずきんちゃんは、田舎道を お散歩していました。

よく晴れた、とても気持ちのいい午後でした。


白ずきんちゃんは、
ある家の庭に、ニワトリが 二羽 いるのを 見つけました。


あ、ニワトリさんだ!

動物好きの白ずきんちゃんは 駆け寄りました。

ニワトリさんたちも、揃って 首を こちらへ回すと、
白ずきんちゃんの方へ とことこと 走ってきました。



庭には 二羽 ニワトリが いる
庭には 二羽 ニワトリが いる
庭には 二羽 ニワトリが いる・・・




くわっこっこっこっこっこ・・・




とつぜん、白ずきんちゃんのまわりは 真っ暗になり、
まるで 地震のように、足元が 大きく揺れはじめました。

白ずきんちゃんは、立っていることが できずに、
しゃがみこんでしまいました。










ふと気づいて 目を開けると、
白ずきんちゃんは、広い広いお庭に ぽつん、と 座っていました。

見覚えのない 場所。


それも そのはず、そこは、白ずきんちゃんが まだ小さな頃、
家族で遊びに来た、田舎の親戚の家のお庭でした。


そこに座っている白ずきんちゃんも、
そのときと同じ、小さな小さな子供になっていました。

でも、さすがに、その頃の白ずきんちゃんは
まだ よい子印の白ずきんを かぶりはじめてはいないようでした。



くわっこっこっこっこっこ・・・


大きな声がして、小さな白ずきんちゃんは 飛びのきました。


向こうから、大きなニワトリが、
白ずきんちゃんに向かって 突進してきます。



うわぁ!

白ずきんちゃんは、地面に這いつくばり、アタマを覆いました。


ニワトリさんが、走ってきた!
ニワトリさんが、わたしを食べに、きた!


白ずきんちゃんは、ぶるぶると 震えていました。


が、ニワトリは、白ずきんちゃんを狙っていたわけではなく、
そのまま 白ずきんちゃんのそばを 通り抜けていきました。


それでも、白ずきんちゃんの震えは 止まりませんでした。

ニワトリさんの姿が 視界から消えて ほっとすると同時に、
白ずきんちゃんは 大きな声で うわぁぁぁぁん と 泣き出しました。



怖い、怖い、ニワトリさん。
怖い、怖い、ニワトリさん。


白ずきんちゃんは、いつまでも 泣き続けていました。












お嬢さん?
どうかしましたか?



ふっと われにかえると、
通りすがりのおばあさんが、不思議そうな顔をして
白ずきんちゃんの顔を のぞきこんでいました。

ニワトリは、白ずきんちゃんからは遠く離れたところで、
エサを つっついていました。



あ、ごめんなさい。
なんともないです。


おとなに戻った白ずきんちゃんは、無理やりニカっと笑って見せると、
ニワトリが二羽いる庭の前から、足早に立ち去りました。




白ずきんちゃんは、ずっと・・・

自分が、卵がキライなんだとばかり 思っていました。


そして、その原因は、
幼い頃の卵かけごはんにある、と、思っていました。

そう思うだけの材料は 揃っていました。



もちろん、
それも 大きなひとつの原因では あるでしょう。

が、もうひとつ。


ニワトリが 怖い。


白ずきんちゃんは、ニワトリが とても とても 怖かったので、
ニワトリを連想させる卵も、一緒に キライになったのです。



それは なんだか すっ飛んだ理論のようにも思えたけれど。

白ずきんちゃんの胸の奥で、
小さな白ずきんちゃんが こくり、と うなずいたのが、
おとなになった 白ずきんちゃんには、わかりました。




あのときの、ニワトリが突進してきたときのことを、
白ずきんちゃんは まったく 覚えていません。

大きくなってから、「昔こんなことが あったのよ」と 家族から
何度も 聞かされていましたが、自分では 覚えていませんでした。



あの、ニワトリの鳴き声が 聞こえた瞬間、
白ずきんちゃんの消された記憶が 呼び覚まされたのでしょう。


そして、あのときのことを まったく 覚えていなかったからこそ。

動物好きの白ずきんちゃんは、もちろんニワトリも大好きで、
「ほんとは ニワトリが 怖かったのだ」ということには
なかなか 気づけなかったのでしょう。



その出来事があってから しばらく、小さな 白ずきんちゃんは、
ニワトリには 決して 近寄ろうとしなかったそうです。

それほど、白ずきんちゃんにとって、
そのときのニワトリは、とても 怖いものだったのでした。






わたし、ニワトリさんが 怖かったんだ・・・。

白ずきんちゃんは、ちいさな声で 言ってみました。


気づいてみれば、ずっとずっと、心のどこかで、
ニワトリのことを 怖れていたような気も しました。




わたし、ほんとは、ニワトリさんが 怖かったんだ・・・。

白ずきんちゃんは、もういちど、ちいさな声で 言ってみました。


だからといって、ニワトリが 怖くなくなったわけでもなければ、
ことさら 怖くなったわけでも ありませんでした。





ニワトリ、ニワトリ、ニワトリ・・・

自分が 卵を食べられない理由が、
あの日のニワトリと 関係していたなんて。


たまご、たまご、たまご・・・

卵とニワトリといえば 切っても切れないものだけど、
まさか このふたつが 自分の卵嫌いにつながっていたなんて。


考えてもみなかった、白ずきんちゃんでした。






白ずきんちゃんは、どきどきする胸を押さえながら、
白ずきんを深くかぶり直し、
ぶつぶつ つぶやきながら 歩き出しました。



その、白ずきんを深くかぶり直すことが、
自分の、いつものパターンだということに・・・

白ずきんちゃんは、まだ 気づいていませんでした。








○白ずきんちゃんシリーズ1○ おでんの卵










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Last updated  2009.04.15 13:05:52
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