躰道∞(無限) 

2006年03月18日
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 指導者講習会で誰かの疑問点によって、「私は最高師範からこう教わった」「いや、おれはこうだった」このように同じ目的(術技)の中に相違がみられることがポツポツとある。このことに対し私はどちらかが嘘を言っているとは思わない。

 話は【ホヤ】の話に移る。
 旅行にきて、三陸の旅館に泊まった男性が夕食にホヤを食べた。ホヤを食べたのは産まれてはじめてだった。おいしいと思った。生のホヤに少しの酢醤油をつけて食べたのだった。日本酒と交互に食べた。ただ、皿が片付いてくると、もちろんテーブルも寂しくなっている。吸殻のたまったガラスの灰皿とコップとつまの残った刺身皿くらいなものだった。横幅のある仲居さんが控えめに「おさげしてもよろしいですか?」ときいてきた。男性は黙ってしまった。「失礼しました……」と仲居さんがうつむいて顔をひきつらせた。男性は「いえ、あの……、ホヤを、ホヤをもう一つだけ食べたいのですが」と言った。仲居さんはホッとしたように息を吸い込んで顔をあげた。「ありがとうございます。ただいまおもちします」
 男性は酒のぬけた舌でもう一度だけ味わってみたいと思ったのだった。まもなく仲居さんが戻ってきた。男性は言った。「ありがとうございます。すみませんね。この後片付けは明日の朝でもよろしいですから。あの、ゆっくりあじわいたいので」
 そういうと、仲居さんは「このほやは私の弟が当旅館に卸すのですよ」と少し世間話をして、おやすみなさいまし、と語尾に余韻を残し襖を静かに閉めていった。仲居さんがホヤと一緒にもってきた新しい割り箸に手を伸ばした。それと一緒にもってきたのはコップに入った酔い覚ましの水だった。

 男性はチェックアウトのときに旅館の受付の女性にあるものをお土産にもっていきたいといって空(から)のペットボトルをもちあげた。

 男性は家に帰ってから家族にコップをにぎらせた。「どおだ?」
 男性の家族の反応はいまいちだった。自分も飲んでみた。普通だ。思わず言葉をもらした。


「それは、おきゃくさま」言葉を止めて笑いをこらえたような感じだが、テンポがいい。「ホヤを食べた後は水が甘く感じるんですよ」仲居さんはそのあと笑いを殺した気配を隠しきれず、すみません、と言った。
 受話器を持った男性の頬はホヤのように赤くなっていた。
「お客様の御住所を教えていただけますか?」
「どうしてですか?」
「ご自宅の水にも感謝していただきたいたいと思いますのでホヤをお贈りいたします」




 躰道の話に戻ると、このホヤの話と一緒で、その地域特有の人物に影響されて同じ味のものでも変化してしまうのはごく自然なことで、矛盾でもなんでもないということ。問題なのは、武道の躰道の武芸としての本質を忘れないことである。





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最終更新日  2006年03月18日 23時33分11秒
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