タコ社長,オーストラリア・メルボルンのスローライフな日々

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カテゴリ: タコ生徒・学生期
25年ぶりに学生時代に振られた彼女に会った。「あなたのことをギンギラギンに好きじゃないの。」と言って、去っていった人だ。

四畳半一間のアパートを真っ暗にして、チューブが二本ある電気ストーブの灯りだけで話した。部屋中が赤く照らされて頬も熱くなる。

「食パン焼こうか。」好江が言う。電気ストーブを上向きに倒してそこに食パンを二枚乗せた。「トースター壊れてるの。結構焼けるのよ。」

好江と私は、「腰骨の仲」と私は言っていた。大学の体育の時間にダンスを取っていた。いろんな学科の人がいる。好江はフランス語科の学生だった。

「ほら駄目よ。そこの二人もっとしっかり腰骨をこう付けて!」見かけによらず、ダンスの講師は怖かった。遊び半分でダラダラと踊る学生を見ていて耐えられなかったのだろう。私と好江を、これ見よがしに大きな声で怒鳴った。当然、腰骨が逃げずにしっかりと接した。

真っ白なトーストが二本線に焼けてそこだけが焦げてにおった。バターを塗る乾いた音が大きい。

「何で私がいつもトイレの掃除しないとならないのよ。」好江はアパートの共同トイレの掃除をどうしていつも自分がしないとならないのかと怒っていた。

好江に会いに茨城県の竜ヶ崎まで行った。二年前のことだった。「カラオケ行こう!」午前11時に25年ぶりに会った好江はいきなりそう言った。「喫茶店に行ったり、レストランに行ったりしないでも、みんなカラオケで済むのよ。安上がりでしょう!」

明るく新しいカラオケだった。好江はとうとう最後まで日本語の歌は歌わなかった。茨城のカラオケでこんな時間にフランス語で歌っているのは彼女だけだろう。



大学3年のとき、半年のフランス留学から帰った好江は、それまでの彼女と全く変わってしまっていた。小脇に雑誌「ジュリスト」を抱えている。私の場合は「アサヒ芸能」とかだった。

「今までの3年間ずいぶん無駄に過ごしちゃった。私、外交官の試験受けてみることにしたの。」もう彼女は、私たちの過去を否定して私の届かないところに行ってしまったように感じて、池袋のパルコの本屋から一人まだ空いている西武池袋線で東村山に帰って行った。
それからの私は、いまでいうならストーカー寸前までいきそうな勢いのいい日々そ過ごした。

普通、カラオケに女性と二人で行ったら、「別れても好きな人」なんかをデュエットするのがなんとなく慣わしになっているのだが、この日の二人はそれがなかったし、そんな歌、歌える題名でもない。もし私がフランス語に長けていて、ダリダとアラン・ドロンの「甘い囁き」なんかデュエットできたら歌ったのだろうが、どこのだりだ?なんてダジャレを言っているようじゃ話にもならない。

一緒にいながら、別の空気を吸っているような竜ヶ崎の日は暮れた。駅まで車で送ってもらって別れるときの彼女の笑顔は、初めてダンスで会ったとき、ケラケラと屈託なく笑い続けていたあの笑顔とは違ってややぎこちなく見えた。

彼女は結局定職に就くことなく、結婚して3人の子供を育て家庭教師をしたり、近くの公民館でフランス語を教えたりして過ごしてきたらしい。

「盛岡から一人になった母を呼んで隣に住んでるの。あなたもご両親を大切にね。」彼女はそれから、私の両親のファーストネームを呼びながら元気かと訊ねた。

「じゃ。」
「じゃね。」

そう言って別れた。竜ヶ崎から池袋を経由して東村山に戻った。その日はやけに長い一日に感じられた。





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Last updated  2007年03月01日 20時09分01秒
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