日々、是、ざつぶん

日々、是、ざつぶん

March 13, 2006
XML
 強い風が、髪を激しく嬲った。
 ダダン、ダダン、と、身体に響く振動。耳元には、父の荒い息遣いがあって。

「じっとして、目を瞑っていろ!いいか、絶対に余所見などするな!」

 耳に煩く響く風きり音に負けないほど大きな声で、背中の父が叫んだ。左手でわたしを包み込むようにしっかりと懐に抱いて、右手はわたしの幼い身体の外側から馬の手綱を握っている。
 けれど。見てはいけないと言われても、わたしの目はどうしてもそれを捉えてしまう。

 大地に無造作に転がった、遺骸を。

 一つや二つではないのだ。往く道々に、断続的に、おびただしい数の亡骸。それを、父をはじめとした歩家一族を乗せた騎馬の群れが超えていく。夜明けが近づくに連れて、その遺骸たちは無念のうちに亡くなった、その苦悶の顔を朝焼けに晒していった。

「川だ!川が見えたぞ!」

 先頭の叔父がそう言った。だが、馬の足はそこで一端止まってしまった。


 もう、ここまでくると、不気味だとか、恐ろしいとか、そんな感情も湧いてこない。ただ……涙だけが溢れてくる。

「……一体、我々が何をした!?」

 父が叫んだ。

「無抵抗な女子どもまで皆殺しにして!その後に、一体何が生まれるというのだ!?」

 天を呪うかのようなその言葉は、幼いわたしの小さな胸にも深く刻み込まれた。

「曹操!!我ら一族はこの恨みを――故郷を穢され、追われた恨みを、子々孫々忘れぬ!!我らは必ずや、貴様から我らが故郷を取り戻してくれよう!!」

 わたし――歩練師の数奇な運命は、確かに、ここから始まっていた。



【更新履歴】

・2006.03.13 初版アップロード
・2006.06.07 一部改正(主人公名の変更…… 参照





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

Last updated  March 13, 2006 10:48:48 PM
コメント(0) | コメントを書く
[自作小説(三国志)] カテゴリの最新記事


【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
X

PR

×

Keyword Search

▼キーワード検索

Calendar

Profile

たすくっち

たすくっち

Archives

May , 2026
April , 2026
March , 2026
February , 2026
January , 2026

© Rakuten Group, Inc.
X
Design a Mobile Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: