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花束を、女優に渡す。花束は両手にあふれ、はねた舞台のロビーに、華やかな笑顔を女優はふるまう。
おまえは、男と女の位置から、わたしを、観客と女優の位置に置きなおした。
「舞台があるの、見に来てくれる?」
「そんな仕事もしてるの」
彼女は私学の経済学部に籍を置き、芸能活動をしていた。高校時代から、出版社に出入りして、読者モデル上がりの、学生芸能人を気取っていた、そして美しくなった。
ある私の誕生日の夜、芝浦埠頭のタクシーの中に、彼女の電話が入ったことがある。
「いまどこ」
「芝浦」
「なにしてるの」
「仕事がおわって、家に帰る」
「今日はなんの日かわかってるの」
「うん、つかれてしまって」
時計をみると、11:25。ふいに涙声のような、嗚咽がきこえる。
「いま一人なの、六本木にきてよ」
「今夜はむりだ」
「そう」
一方的に電話が切れる。
私はその電話機を、ふしぎなものをみるような目つきで眺めて、かばんに投げ入れた。
その舞台のロビーを、最後に彼女をみかけたことはない。
数年の後、よからぬ映画の、そういった役に、彼女が出演したうわさを聞いた。検索するとすぐにそれは、彼を落としたその表情で、グラビアの写真で、媚をうるような、おちていくところまでその女優は、おとしていた。そして整形された美しい彼女の整形前の仕事も、出てきてしまった。それは美に執着する、知性のかけらもない、ありきたりな少女の、むごい仕事だった。
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