TESTAMENTO

TESTAMENTO

殻の中で



また 今日も
どんどん陽が昇ってゆく
待っていてくれはしない
また 今日も
時計が追いかけてくる
針は 止まってくれはしない
カチ カチ カチ カチ
車の音が
クラクションが
僕を追いたてる

僕の世界には
僕しかいない
僕の世界には
広い野原はない
しょっぱい風を運んでくる
大きな海はない
冷たい露をふくんだ
張りつめた星空はない
僕の世界は
灰色の殻に包まれている
外の世界は
ぼんやりとしか見えない

この殻を破ろう
体は
もう じっとしてはいない
意思でない何者かが
この体を支配し
大声で叫んでいる
この殻を破って
外に飛び出せ と

この殻は 厚い
この殻は 強い
僕をはねのける
この殻はささやく
外は 冷たいぞ
外は きびしいぞ
外は 恐ろしいぞ
何故か このささやきは
力を弱めてしまう
だから
今も殻の中
やりきれない殻の中

  (1969.10.8)

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