TESTAMENTO

TESTAMENTO



私もあなたも 旅の中でめぐり会い
この静かな触れ合いに
よろこびを見出す
ひとりごと そして沈黙
消え去ることのない一時に
夜は いつしか深く
暗闇に浮かぶ私は
星空の冷たさに 身を震わせ
見えぬ目をこする

果てしなき宙空に 一条の光もなく
支えるべき大地もない
漂う私は 幻を見る
白く 甘く わずかなぬくもり
手をさしのべ
そのぬくもりの中で
私は 静かに舞い上がる

過ぎゆく時 広がりゆく闇
おぼろげなるぬくもりの中で
身をゆだね 漂う

幻は いつしか薄れ
ささやかなぬくもりは
限りなき闇の中に広がり
夜明けの冷たさが
頬によみがえる

幻影の余韻に 酔いしれながら
また 旅が始まる
終わりなき旅が

そこに
私がいて あなたがいて
旅が続く

ある日 あなたの中に幻を見る
目をこらせば あなたは遠く
目を閉じれば 幻の中にあなたがいる

幻が いつしかあなたと重なり
あなたが いつしか幻と重なる
そして あなたは美しい

幻影と実像
とまどいの中に 私は立ちあがる
今こそ 白日のもとで
あなたを見つめよう

肩触れあわせ
歩く小道は
どこまでも続く

野を越え 山を越え
川を渡り 森をぬけて
オレンジ色のぬくもりの中
澄んだ青い空
ささやきかける白い雲
吹きぬける風とたわむれ
私もあなたも 静かに歩いてゆく

黒い雨
きらめく雪の冷たさ
吹き荒れる風の強引さ
灰色の壁に包まれた夕闇
夜が来て 朝が来て 夜が来て
その中を 静かに歩いてゆく

いつのまにか あなたと
肩触れあわせ 歩いている
ひとりごと そして沈黙
ささやかなぬくもりの中を
静かに歩いている

こんにちわ さようなら
いつしか時は流れ
過ぎ去った時の重さが
今は 思い出を押しつぶす
全てが 変わっていった
私も あなたも

そして今 あなたにそっと触れれば
私は ぬくもりの中に自分を見つける
静かな触れあい
ひとりごと そして沈黙

全てが 変わった
私も あなたも
そして
ささやかなぬくもりの中で
静かに歩いている
ひとりごと そして沈黙

  (1974.11.7)

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