彼岸 ~谷中霊園にて








柔らかい木陰をつくって、桜の葉が繁っている。
涼しげな並木道を、ゆっくり歩く。


大きく湾曲した枝を、根は支えてきたのだ。
幹に刻まれた深い瑕は、何が起こったのだ。

あなたは、墓標に静かに手を合わせる人を、見てきたのか。
悲しみにくれる慟哭を、聞いてきたのか。


不意に、陽が翳る。
地面に広がる木漏れ日の文様が、消える。




君と過ごした、光り輝くまばゆい日々。
夢中で駆け抜けた夏は、唐突に終わりを告げた。

立ち止まって、桜の木に手のひらをあててみる。
過ぎ去った時を超えて、季節は巡る。





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