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今日は、昨日「本に埋もれて・・・」の中で紹介した、横井勝彦著『 アジアの海の大英帝国19世紀海洋支配の構図 』(講談社、2004年)を使って、私の好きな海軍話を展開してみたいと思います。「海軍が大好きって、どの国のどの時代が好きなの?」と尋ねられれば、私は国は当然、日本と答えます。そして時代は幕末の幕府海軍、つまり長崎海軍練習所(高校の歴史の参考書に載っているかな?)時代から第一次世界大戦後、ワシントン海軍軍縮条約時代までと答えます(太平洋戦争も当然、関心がありますが)。戦前の帝国海軍は日清・日露戦役、そして第一次世界大戦中ぐらいまでは、まともな思考を維持していたのですが、欧州戦線での「総力戦」「国家総動員体制」という悪夢を見てしまい、陸軍共々「資源確保」「工業力の底上げ」という「総力戦」を戦い抜くための命題を実現する国力が無い事を悟り(作り上げようとして挫折した、と言った方が良いかもしれません)「短期決戦」という絵に描いた餅を夢見て、太平洋戦争へと坂道を転がり落ちていくのです。話が横道に逸れましたが、日本海海戦や東郷平八郎、秋山真之が活躍した日露戦争や大多数の人が関心のある太平洋戦争と共に、なぜ幕末、日本海軍の黎明期に関心があるかと言いますと、あの時代の軍艦、汽走軍艦が好きなのです。そのため元綱数道著『幕末の蒸気船物語』(成山堂出版、2004年)という、教科書でも有名な咸臨丸や、新撰組の土方歳三が最後に戦った函館戦争で戦うことなく沈んだ悲劇の軍艦、開陽丸や、宮古湾海戦で活躍した回天、五稜郭を砲撃した甲鉄などの軍艦の解説(その他、蒸気船の歴史や船自体の構造や機関、兵器等の解説も有ります。)が載っている本を衝動買いしています。そんな帆柱が立って船の両側に外輪が付いていてひょろ長い煙突から煙を吐き出す汽走軍艦(この時期は、スクリュー艦が実用化された時期で、段々と外輪船を駆逐していく時期です。幕府がオランダから買った咸臨丸はスクリュー艦です。)を一般の人々に思い浮かべて、と言われてもピンッとこないと思いますので、誰でも簡単に思い出せる具体例を挙げましょう。それは歴史の教科書や資料集に載っている、幕末に日本開国を求めてはるばる地球の裏側からやって来たペリー率いるアメリカ東インド艦隊所属の蒸気フリゲート、ポーハタン号やサスケハナ号が汽走軍艦なのです。それから世界史で例を挙げますとこれも有名、アヘン戦争の場面で必ず出てくる旧態依然な中国独特の帆船、ジャンクが彼方に見えるイギリスの帆を畳んで煙を吐き出して進む外輪の蒸気軍艦の砲撃の直撃を受けて吹き飛ばされる絵が資料集に出てくると思いますが、これも汽走軍艦です。この、軍艦の名前は鉄製汽走砲艦ネメシス号(ネメシスとは、ギリシャ神話の復讐の女神の名です。まさしく、大英帝国臣民の財産であるアヘンを没収・処分した清国に対する懲罰的軍事行動にピッタリな艦名です。)と言います。インペリアル・グレート・ブリテン(大英帝国)の王室海軍(ロイヤル・ネービー)所属で、660トンの小さな軍艦で、機関の出力は120馬力で32ポンドの旋回砲を2門搭載していました。そこで、フッと疑問が浮かびます。それは、当時、ヨーロッパ列強の中で最も強大な海軍力を保持する英国海軍が、なぜアヘン戦争でこんな小さな軍艦を積極的に使用したのか、ナポレオン戦争時代のような強力な戦列艦やフリゲート艦をなぜ、動員しなかったのか?ということです。この疑問に答えてくれたのがこの『 アジアの海の大英帝国19世紀海洋支配の構図 』なのです。さらに、この本ではなぜペリーが日本開国の勧告に訪れた時、極東に大規模な軍事力を展開していた英国が日本開国のための艦隊を編成できなかったのか、という謎にも回答してくれています。さて、ここで下にあります『 アジアの海の大英帝国19世紀海洋支配の構図 』の表紙画像に注目してください。小さくて解かり難いかも知れませんが、この絵には帆を畳んだ外輪式汽走軍艦(砲艦・ガンボート)がひょろ長い煙突からモウモウたる黒煙を上げている姿と、帆をいっぱいに張って前を進む汽走軍艦に引綱で曳航されている帆船(砲を20~30門程度搭載したスクーナーと思うのですが。)が描かれています。帆船は、両舷の砲を使って清国側の兵船を砲撃していて、真っ白な砲煙の向こうには燃え盛る清国の兵船が描かれています。この絵は、ヴィクトリア朝英国の大衆が喜んだ、愛する海軍が野蛮な非キリスト教国に懲罰を与えた「文明の勝利」を端的に表現しているものです。また、それと同時に自分たちの文明の象徴、汽走軍艦を絵の中心に据えて、文明・科学の力と栄光あるロイヤル・ネービーへの賞賛を表現している興味深い絵でもあります(深読みしすぎかな~)。そして、この絵から世界に冠たるロイヤル・ネービーが汽走軍艦をアヘン戦争、そしてその後の中国沿岸部での軍事行動に多用した理由の一端がわかるのです。この絵では、汽走軍艦が帆船を曳航しています。実は、ここは海では無く、川の河口なのです。当時、中国の港は川の河口から少し上流に入った所、三角州や支流の分岐した場所にありました。これは、広州(珠江)や上海(揚子江)、天津の外港、太古(タークー、本当は「古」にさんずいが付きます。川は白河)等がその代表になります。そのような潮の流れが複雑で、浅瀬の多い場所(潮の干満の差もありますし、第一、正確な海図がありませんし、敵地なので正確な測量も出来ません)では帆船は自由に操舵出来ません。そこで、海流や風の影響を受けず、ちょっとした座礁でも自力で脱出する事が出来る水深が浅いところでも活躍できる小型の汽走軍艦が活躍することとなったのです。でも、このような蒸気機関を積んだ汽走軍艦が活躍するためには、英国内で色々と問題があったのですが、その面白い(私にとっては、ですが)お話は次回にとって置きます。
2006年02月15日
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今日は、簡単に昨日の続き、マイケル・パウエル&エメリック・プレスバーガー監督・脚本した映画『戦艦シュペー号の最後』に関する本を並べてみます。まず最初は昨日も紹介した、カーユス・ベッカー著、松谷健二訳『呪われた海』(中央公論新社、2001年)です。「そして艦隊は、絶望の待つ海へと旅立った」と帯に書かれているこの本は、基本的史料であるドイツ海軍各艦の戦闘日誌や各種史料にもとづき描かれたものです。第二次世界大戦におけるドイツ海軍の戦闘記録を、1939年9月の開戦から1945年5月の惨めな敗戦・降伏にいたるドイツ海軍の状態とその時々の戦略、その背景を記した決定版です!この本については、機会があれば(簡単に言えば気力が満ちて気が向いた時)長々と紹介&解説してみたいと思います。しかし、このような戦記モノはドイツ人に書かさせると世界一ですね。事実のみを淡々と記し、敵見方、双方を公平に描く。そして。まるでその場にいるような臨場感溢れる文章で、戦争という巨大な歯車の中で戦った個々人の体験を正確に描写している。日本人が書くとどうしても変な思い入れや感情が露骨に文章の中からにじみ出てくるものが多いのにたいして、実に対照的です。本当、パウル・カレルや、カーユス・ベッカーの爪の垢でも煎じて飲ませたいぐらいです。ついで、舶来戦記シリーズで有名な早川書房よりテオドール・クランケ著、ハンス・ヨアヒム・ブレネケ著、伊藤哲訳『ポケット戦艦』(早川書房、1980年、表紙画像なし)。この本も、ドイツ側から書かれたもので、不運なシュペーに対して幸運な姉妹艦、アドミラール・シェーアの活躍について詳細に書かれています。シュペーが僅か、6962総トンしか沈めなかったのに対してシェーアは15万総トン以上の艦船を海の藻屑にしています。世界の海軍史を紐解いてみると、本当に同型艦・姉妹艦なのに「戦運」、戦の女神に微笑まれた艦と見捨てられた艦の対照的なお話がそこかしこにあります(日本で取り上げるなら戦艦長門と陸奥が良い例でしょう。ワシントン海軍軍縮条約の魔の手から必死になって守り通したのに、原因不明の爆発事故を起こして沈んでしまった陸奥と、太平洋戦争をしぶとく生き残り、ビキニ環礁での核実験で沈んだ長門。どちらも幸薄い人生でしたが、陸奥はねぇ…)。それから、青木茂著『第二次世界大戦欧州(ヨーロッパ)海戦ガイド』(新紀元社、1996年、表紙画像なし)もお勧めですね。『呪われた海』は少し分厚すぎるので、初心者&入門者さんにはこの本はピッタリです。この本は、第2次世界大戦注のヨーロッパ戦線の海の戦い、「大西洋の戦い」をドイツ海軍からの視点を中心に概観したものです。ヨーロッパの海と言えば大西洋が中心ですが、その他にも、地中海や北海、バルト海などでも戦いがありました。この本良いところは、大西洋での装甲艦や仮装巡洋艦などが行った通商破壊戦にも触れているところです。通商破壊戦といえば、U-ボートが主流でしたからね。その他にも、主な海戦の経過、戦略的意味などを統計資料をもとに記述してあり、各国の主力艦の図解も付いています。あとは、『WW2欧州戦史シリーズ 大西洋戦争』(学習研究社、1998年、これも表紙画像なし)があります。この本、表紙にデデーンとドイツU-ボート部隊を開戦時から敗戦直後まで指揮したカール・デーニッツ元帥(開戦時は大佐、ヒトラーの自殺後第3帝国の総統に就任し、ドイツ降伏の処理を行います)と、大西洋の荒波の中を進むU-ボートが描かれています。この本は、僅か181ページの薄い本の中に(といっても、高さは26cmある大型本です)英本土海域、北海、北大西洋、そして米沿岸、と大西洋にと、2000万総トンの商船を屠ったデーニッツの「灰色狼軍団(ウルフ・パック)」の全貌を豊富な写真と図によって立体的に解説した1冊です。主な内容は、大西洋上の連合軍シーレーンをめぐる通商破壊戦「大西洋戦争」の実相をU-ボートの戦歴にそって紹介しているのですが、脇役として通常艦船での戦闘についても叙述されています。という感じで、入門書からマニアックな1冊まで並べてましたが、やはりドイツ海軍は不幸な戦艦ビスマルクやフィヨルドに穴篭りしていた同型艦のテルピッツに代表されるように、通常の水上艦船でなくU-ボート中心の戦いだったのですね。U-ボートについても本を一式揃えているのでまた紹介してみることにしましょう。では。しまった!登録しないで寝てしまった!!大失敗!!!
2006年03月31日
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さて、久方ぶりの更新は日向夏さんの『薬屋のひとりごと』(主婦の友社、2012年10月)を紹介していきたいと思います。このお話の舞台は、中世のとある東洋の大国です。主人公は花街で薬師をやっている少女・猫猫(マオマオ)。妓女たちを相手に、風邪から性病まで面倒を見て、薬の知識に長けている少女です。ところがある日、薬取りに森へ入ったときに人さらいにあい、後宮に売り飛ばされて下女として働くことになってしまいます。普通なら「人さらい~!」「ここから出して~!」と悲嘆に泣くのがたいていの女の子なのでしょうが、花街で育ち元々冷めた性格の猫猫は、日々ため息をつきながら下働きを淡々とこなします。そして、身を低くして目立たないように奉公の二年の期限が切れるのを待っていたのです。なぜそんな風に教養(薬の調合ができるのですから文字の読み書きもできるのです)を隠していたかと言いますと、給料の一部が人さらいに搾取されるシステムになっていて、当然位が上がると給料も上がるわけで「自分をさらった悪党に金なんかやるものか!」という思いがあったからなのです。 このように、目立たぬように後宮の最下層の身分の下女として日々を過ごしていた猫猫でしたがある日、後宮で世継ぎの宮たちが相次いで三人も亡くなり、残る二人の宮も命が危ないという話を耳にします。持ち前の好奇心と知識欲に突き動かされ、その原因を考える猫猫。最初はお決まりの毒殺かと思いましたが、亡くなった宮のうち二人は公主(ヒメ)でしたので毒殺の線は消えます。そこで、亡くなった宮がだんだん弱っていったこと、頭痛や腹痛、吐き気などの症状があることを仲間の下女から聞き出した猫猫は、確証を得るために理由を作って後宮の妃の部屋をのぞきに来ます。そこで見たのは、東宮(皇太子)の母親である梨花(リファ)妃と公主の母親である玉葉(ギョクヨウ)妃の二人が、医官を挟んで怒鳴りあう姿でした。そして、梨花妃の白い肌とおぼつかない身体を見た猫猫は原因を確信します。それは、女性の肌に塗る白粉(おしろい)でした。この小説の舞台の時代には、上等で肌をいちばん白く見せる白粉には水銀や鉛白が含まれていたのです。そうです、宮たちの死因は鉛中毒だったわけです(物語の後半にそのことが書かれています)。このことを、布きれに草の汁を使って「おしろいはどく、赤子にふれさすな」と書き、双方の妃の部屋の窓辺の木の枝に結んでおきました。しかし、梨花妃は忠告を聞かず東宮を失い、玉葉妃は白粉を塗って公主に授乳していた乳母に暇を出すことで、公主は助かります。こうして、後宮で生まれる赤坊の連続死をこっそり解決した猫猫でしたが彼女に思いもよらない運命が待っていたのです。それは、壬氏(ジンシ)という美貌で頭が切れる宦官に、猫猫が病気の原因を突き止めたのは自分だということがばれたことでした。ちょうど、公主の命の恩人となった猫猫は玉葉妃の侍女が少ないこともあり、妃の侍女に抜擢されます。しかしその役目は、毒見役・・・。普通の少女だったら裸足で逃げ出すところでしょうが、猫猫は知的欲求が薬と毒物に傾きすぎている世が世なら「狂科学者(マッドサイエンティスト)」と呼ばれるような娘だったのです。傷薬や化膿止めの効能を調べるため自傷行為を行い、毒を少しずつ飲み耐性をつけ、時には自分から毒蛇をかませる始末・・・。こんな一風変わった少女が宮中で起こる難事件を、薬学、毒物学の知識を駆使して解決していくというのがこのも語りのあらすじです。無愛想で人にも美形の壬氏にも関心を示さず、常に冷めているのに、毒を含んだ時の舌先の痺れに恍惚の表情を浮かべる猫猫・・・。そんな少女の活躍ぶりが予想以上に痛快な冒険小説でもファンタジーでも無い小説です。ですが、ちょっと気楽ににやにやしながら読むのにはお勧めな小説だと思います。 なにしろ単行本サイズで、定価が790円(税別)なのですから。そしてこのお話は、元はWEB小説だったそうですが、そうとは思えないほどの完成度の高い作品に仕上がっています。また、WEB小説の雰囲気を壊すような萌絵のような表紙や挿絵がなく、表紙に中華風の普通の絵で主要な登場人物を配することで、上手く小説の登場人物の容姿をさらりとあらわしているのは小気味良いと思います。ただちょっと猫猫が中世という時代設定万能すぎるかな、という点と、文章の中には、「低温やけど」のような現代用語が出てくるのが少し気になりましたが、そんなもの質の悪いライトノベルや携帯小説に比べたら全く気にならない程度のものです。物語も、最初から最後まで筋が一本ピンッと張られていて、そこから色々と面白いエピソードが派生してきて、面白いやら、あきれるやら、感心するやら、少しホロリとくる場面があって、最後まで読んでいて面白い作品でした。先にも書きましたが、本当に適度な軽さで読みやすくて面白い本です。軽いミステリーや中華モノが好きな人にはお勧めしたい一冊です。 追記・・・7月から更新が全くできなくて、すみませんでした。日展の作品作りに夏休みの学校図書館の蔵書点検を含む諸々の仕事、9月に入れば文化祭の古本市の準備等々、気力を使うことが多くて家でPCに向かうのはメールの確認ぐらいで、あとはベッドに倒れこむ、という生活でした。おまけに季節の変わり目なので、病気がひどくなって・・・。ただ10月に入り幾分落ち着き、読書週間も間近なので、これから細々と更新していきたいと思います。
2012年10月09日
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