濫読屋雑記

濫読屋雑記

2006年08月01日
XML
カテゴリ: 手に取った本
今日は、最近読んでいる本の中から 浅田次郎 さんの『 天切り松闇がたり(第4巻) 』(集英社、2005年)を紹介&解説してみましょう。

天切り松闇がたり(第4巻)

この『 天切り松 』シリーズは、『 天切り松闇がたり(第1巻) 』、『 天切り松闇がたり(第2巻) 』、『 天切り松闇がたり(第3巻) 』と3巻があり、この4巻が最新刊となります。

天切り松闇がたり(第1巻) 天切り松闇がたり(第2巻) 天切り松闇がたり(第3巻)

天切り松 』シリーズに主人公は、 村田松蔵 というご老人です。この老人、「 人恋しい 」と言っては何と警察の留置所に入れてくれ、と何も罪を犯していないのにトコトコ警察署にやって来て、一晩どころか幾日も留置所に寝泊りするというとんでもない人です。しかも、警視庁管内のどの警察にも(それどころか、法務省まで!)顔が利き、警視総監、警察署長が代々の申し送りで「 この老人を大切にもてなすように 」と申し送りをするような得体の知れ無い老人です。

して、この 村田松蔵 という人物の正体とは塀の中に落ちた(つまり、刑務所で懲役を勤めたことのある)人間なら誰でも膝を揃えて畏まるという昭和の大泥棒、「 天切り松 」その人だったのです。そして、この「 天切り松 」が留置場や警察署の刑事部屋(デカ部屋)や署長室で留置人や警察官たちに語って聞かせるのが「 闇がたり 」というお話です。この「 闇がたり 」とは、盗人が使う独特な話し方で、三尺先の人には聞こえないという独特なしゃべり方の事を言います。

松蔵 老人の語る「 闇がたり 」の内容とは、大正時代のモダン東京を舞台に、東京中の盗人を束ねる仕立屋銀次一門の中抜きというすられた財布から中身だけを取り出し、元の相手の懐に返すという神業「中抜き」という技をもつスリの達人 目細の安吉 、同じくゲンノマエという女性の帯に挟んだ財布を真正面から抜き取るというスリの達人の おこん姐御 、押し入った先のお屋敷でドスを相手の枕元に付き立てて説教をする 説教寅 、得意の変装で成金・銀行から大金を掠め取る詐欺の天才 百面相の書生常 天切り 」を使う 黄不動の栄治 といった 仁義も色気もある個性豊かな悪党たちが大物を相手に、毎回あっと驚く派手な仕事をやってのける、そんな義賊的な大悪党たちの人情ある悪さがとてつもないというような話を留置場で昨今のわけの分からない、骨の無い犯罪者たちに説教半分・昔話半分の教訓めいた話を (その話聞きたさに、警察官たちもやってくるのですが) 語って聞かせるのがこの 闇がたり 」です。

1巻から3巻までには、歴史上の実在の人物、 山県有朋 森鴎外 永井荷風 といった実在の人物が登場します。先にあげた3人の中では、永井荷風先生が出てくるお話が私は好きですね。永井荷風といえば、『 墨東綺譚改版 』、『 断腸亭日乗(上) 断腸亭日乗(下) 』(画像無し)といった大正から昭和へと移り変わる東京の姿を美しく、時には禍々しく写実的に描いた作家です。それから、 竹久夢二 も出てくるのですが、この画家のモダンな「 ロマン的女性風俗画 」は複製品、一枚でも良いですから手に入れて飾っておきたいものです。

墨東綺譚改版 竹久夢二

この物語の第1巻から第3巻までの主な舞台となる大正は、日本の近代史の中でも興味深い期間だと思います 大正天皇が御政務をとられた (途中からは皇太子殿下裕仁親王=昭和天皇が摂政として代行されていましたが) わずか15年足らずという短い年月ながら、激動の明治と戦争へと向かう昭和に挟まれ、市民文化が華やかだった頃です 。ところが、 この明治の文明開化と江戸情緒が混在する東京は1912(大正12)年の関東大震災で壊滅的被害を受け、全市の大半が灰になってしますのです 。そのわずかな束の間のきらめきを描いたのが第1巻から第3巻までとなります。

このように、 大正デモクラシーという政治にも新しい風が吹き始め、東京という街には市民文化が華やか咲き始めた頃 村田松蔵 は飲んだくれのダメ親父のもとから、目細安吉一家へ弟子入りするのです、。盗っ人てえもんは職人仕事、後の「 天切り松 」こと 松蔵 の修業の日々がはじまります。大正初期の古き良き時代、裏稼業の世界を追想する愛と涙の人情絵巻が第1巻から第3巻まで描かれています。

この浅田次郎さんの『 天切り松 』シリーズの 良いところ、私の好きなところは、当時の世相を良く研究されて、文章自体に反映させているところです 本当にちょっとした仕草や、小道具一つで、物語の幅が広がり、読み手の頭の中でお話の想像が広がる、そんな作品です 。そして、作品全体に通じる一つの筋「 」がこのシリーズの売りなのでしょう。第一巻の最初のお話「 闇の花道 」で、警察と目上、兄弟分の親分衆に自分の「親」仕立屋銀次を売られ、跡目を継げと迫られた目細の安吉親分は、これをキッパリと断ったうえに今後は「官」とは一切手を切ると宣言した安吉親分「 殿下閣下もかまいやしねえ。盗られて困らぬ天下のお宝、一切合財ちょうだいしようじゃねえか 」と言って、新たな舞台へと踏み出す描写はさすがです。

本当は『 天切り松闇がたり(第4巻) 』の解説&紹介へと繋ぎたかったのですが、睡魔が襲ってきたので今日は前置きだけで終わっておきます。第4巻は、関東大震災後の東京、そして政治がおかしな方向へと転がりだした時代を描いています。そして、その時代は私が学部と院で研究の中心に据えていた時代でした。ですので、その専門的なお話を交えながら、この『 天切り松 』シリーズ第4巻「 昭和残侠盗伝 」を書けたらいいな~、と考えています。

最後にこの時代、明治から大正、昭和時代をイメージできない人に丁度良い本を紹介して終わりましょう。その本とは、 富田昭次 さんの『 絵はがきで見る日本近代 』(青弓社、2005年)です。この本では、 1853年7月のペリー提督来航から1945年9月のGHQ開設までの、日本近代の風景を多数の絵はがきで紹介した本です。ついでに、絵はがきの「報道メディア」という性格も知ることができるというお徳な本でもあります 。本には、関東大震災の悲惨な様子を写した絵はがきや東洋初の地下鉄の写真が掲載された絵はがきなどがたくさん紹介されていて、 当時の人がどのようなものに関心を示していたのかを知ることも出来ますよ

絵はがきで見る日本近代





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

最終更新日  2006年08月02日 03時19分44秒コメント(0) | コメントを書く


【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
X

PR

×

お気に入りブログ

sour grapesさん
ま、てきとうに Me162さん
怪鳥の【ちょ~『鈍… 白い怪鳥さん
とりあえず練習用の… バルディッシュさん
brog katu6448さん

コメント新着

背番号のないエース0829 @ 第二次世界大戦 映画〈ジョジョ・ラビット〉に、上記の内…
gordon@ nQdZmuLyMEEktLLsj KbT59H http://www.QS3PE5ZGdxC9IoVKTAPT2…
sammy@ LWuYJEqkFyjeGuJ 7VxFoY http://www.QS3PE5ZGdxC9IoVKTAPT2…
名無し@ Re:上話菜穂子さんの作品が、アニメ化されるので(07/10) タイトルが上話菜穂子さんになってますよ。
nhPSm3 nnrqsdt@ nhPSm3 <a href="http://nnrqsdtryito.com/">nnrqsdtryito</a>, [url=http://obzunpo nhPSm3 &lt;a href=&quot;http://nnrqsdt…

バックナンバー

2026年08月
2026年07月
2026年06月
2026年05月
2026年04月

カレンダー

キーワードサーチ

▼キーワード検索


© Rakuten Group, Inc.
X
Design a Mobile Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: