2月に入って、 寒さが少し和らいだように感じます 。しかし、 朝の寒さは相変わらずで 、露天に駐車している私の愛車のインプレッサちゃんのフロントガラスには霜がびっしりと凍り付いているので、毎朝、ぬるま湯をかけるというひと手間をしてから学校へと出勤しています。そして、学校へ着けば一桁の気温の司書室が待っているので、ガスストーブに火をいれ、ポットのお湯を交換してから湯を沸かすという作業を、外套を羽織ったまま行わなければなりません。
そんな日々が続いているのですが、2月に入って3年生は自宅学習になって、図書館は少し寂しくなりました。まぁ、自宅学習と言っても進路の決まっている生徒は生徒指導部の許可を受けて来る学生生活のためにバイトに精を出している子が多いのですが。しかし、 直近の問題は、1・2年生しかいなくなった学校でいかにして貸出を増やすかという事です 。とりあえず、ポスターを各教室に掲示して、リクエスト本を残った予算と格闘しながら発注して、さらに図書委員を奮起させてなんとか貸出を増やそうと努力している今日この頃です。
このように仕事に励んでいる合間に読んだ本が、 ランドール・ササキ 著『 【送料無料】沈没船が教える世界史 』(メディアファクトリー、2010年12月)です。
この本の著者、 ランドール・ササキ 先生は、 水中考古学者 です。 水中考古学 、というと耳慣れない人がいるかもしれませんが、ようするに、 難破船や海底に沈んだ財宝、さらに海底に沈んだまま長期間経ったと考えられる都市の遺跡などを調査する学問のことです 。 この学問は、本当につい最近になってから活動が開始された学術分野です 。
そもそも、1940年代にスキューバ(自給式水中呼吸装置)が発明されるまで、深海の難破船はほとんど手つかずの状態でした。それまで海中の遺物は、地中海のトルコやギリシャで海綿(スポンジ)を採取していたスポンジダイバーたちが、海底に沈んだゴミとして、陶器などは自分たちで使用し、青銅などの金属品は溶かして再利用するなどしてました。ところが、1900年にギリシャのアンティキティラ島の近海で、ほぼ等身大のダビデ像を思わせるような青銅製の人物像が発見されてから、水中考古学の歴史が動き始めます。この紀元前60~70年ごろに作られたと推定された青銅像の発見に興味を抱いた考古学者たちは、スポンジダイバーを雇って周辺の海域を捜索します。その結果、青銅像を乗せていた沈没船が海底に存在する可能性が高いと判断した考古学者は、初めてダイバーを使った沈没船の発掘に踏み切ったのです。そして、スポンジダイバーたちは沈没船を発見、様々な遺物を持ち帰ります。その中には古代ギリシャの重要な遺物が含まれていたのですが、その内容は本書を読んでみてください。
しかし、このアンティキティラ沈没船からは多種多様な遺物が発見されましたが、沈没船の大きさや乗組員、どこから来たの船なのかといったことなどは解明されませんでした。この理由は、考古学者が船の上から指示を出して、スポンジダイバーたちに異物を回収させ、彼らの話からおおまかな回収位置を記録しただけの調査にすぎなかったのです。
このため、この世界初の沈没船の発掘では、世界に例を見ない遺物の発見と、当時未知の世界であった「海底に眠る遺跡の発掘」という偉業を成し遂げたのですが、発掘を担ったダイバーたちが近海域で見つけたローマ時代の鉛の錨を溶かして、ダイビング・ウェイトに使っていた、といった考古学上の無知から来る弊害も明らかになりました。 考古学とは、遺物の出土状況や出土位置を正確に記録して、そこから昔の生活や様子を再構築する学問です 。 発掘の対象が水中にあってもそれは同じで、遺物が船のどの位置から発見されたか、またどのような状態で発見されたかによって遺跡の解釈は異なってきます 。その意味で、 アンテキィティラ島の発掘は遺物にしか価値を見出さず、沈没船に残る歴史を読み解くことができなかったと言う点で、水中考古学の黎明期にあったと言えるでしょう 。
ところが、先に述べたスキューバ・ダイビングが1950年代に一般に広まると、世界各地で沈没船が発見されるようになります。しかしそれは、心無いダイバーたちの手によって沈没船が荒らされ、遺物がブラックマーケットに売られるという状況を引き起こします。そこで、考古学者が自ら海に潜り調査をすれば良い、という考えが生まれ、筆者の恩師でもある米国テキサスT&M大学の ジョージ・バス 博士が実行に移します。彼は、「 水中考古学の父 」と呼ばれ、沈没船の発掘と調査の学問を打ち立て、世界で初めて水中考古学専門のプログラムを前述のテキサスT&M大学に設立した人物です。
スポンジ漁が低迷した1950年代後半、アメリカ人ジャーナリストの ピーター・スロックモートン はスポンジダイバーたちのドキュメンタリー映画を撮影するために、トルコ南部を訪れ、ダイバーたちにインタビューを行いました。その際、彼らの貧しい家で見かけた古代ギリシャ・ローマ時代の遺物がどこで手に入れたかを、彼は調査し始めます。幸い、経験豊かなスキューバ・ダイバーであったスロックモートンは、スポンジダイバーと共に海に潜り、多くの沈没船の位置を特定、それぞれの簡単な記録を残します。そして、これらの沈没船に考古学調査が行われていないことに疑問を持った彼は、本格的な考古学調査を行おうと、考古学者のパートナーを探します。そこで紹介されたのが、アメリカでの考古学の権威であるペンシルバニア大学で青銅器時代の交易を研究していた26歳の大学院生、 ジョージ・バス だったのです。
彼は、 なぜ考古学者たちが自ら水中に潜って調査を行わないのかを疑問に思い、水中でも陸上の遺跡と同様に同じレベルでの発掘ができると信じて、調査に赴くことを決めます 。こうしてバスは「 考古学者が全ての作業を水中で行うこと 」に重点を置き、1960年にトルコ西南部で青銅器時代のものと推測される沈没船の調査を始めるのですが、ここから先は本書を読んでみてください。
このように、 本書は水中考古学の入門書ですが、本書のタイトルが表している通り、世界史の理解を深めるのにも最適の一冊だと思います 。 バス 博士が手がけた 水中考古学 の出発点となるケープ・ゲラドニャの沈没船、胡椒を大量に積んだポルトガルのペッパーレック、スペインのサン・ディエゴ号、オランダのバタヴィア号、イギリスのメリー・ローズ号、海賊の町ポートロイヤル、鷹島・ベトナムのモンゴル艦隊・・・、 その他多くの沈没船が本書で取り上げられてますが、沈没船が語りかける物語は歴史をありありとよみがえらせてくれます 。 沈没船をみていくことで、これほど時代の流れがよく分かるとは驚きでした 。 水中考古学 の世界を一般の方にわかりやすく紹介することを目指した 、と著者も書いていますがそのとおりで、 本書は非常に読みやすいです 。そして、 内容も濃いです 。沈没船の発掘成果が最新のものも含め、これでもかというほどふんだんに盛り込まれているのですから。さらに、 水中考古学 の「いろは」となる沈没船発掘マニュアルも簡潔にまとめられていて、近年問題となっている水中文化遺産としての側面にもきちんと触れられています。 水中考古学の入門書として申し分のない1冊であり、歴史好きの方はもちろんのこと、現役の高校生にもぜひお勧めしたい1冊だと感じました 。 本書を読んで沈没船、水中考古学の魅力に惹かれないものはいないだろうな、と思いました 。
『死神を食べた少女』のお話 2013年02月21日 コメント(2)
『ハクメイとミコチ』小人たちのフツーの… 2013年02月08日
久々の更新は『図説英国ティーカップの歴… 2012年11月29日 コメント(2)
PR
コメント新着
カレンダー
キーワードサーチ