サリエリの独り言日記

サリエリの独り言日記

2008.01.18
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カテゴリ: 映画
 さて、生命活動の根本的矛盾をストレートに表現するなら「悲劇」にならざるを得ず、であるために「悲劇」は表現者も観劇する側も比較的感情移入しやすいというわけですが、それに対して「喜劇」というのは、いったん 人生という時間のろ過紙 で透過させて観ないと、うわべの非現実性(寅さんもさくらもとら屋も現実には存在しない)に気を取られて、本当の意味での面白味というのは伝わってこないと思うのです。
 「寅さんシリーズ」の面白味というのは、おそらく仕事だの子育てだのの実人生を経てから感じることの出来る種類のもので、寅さんが演じる大立ち回りやギャグの類を笑っているだけでは、すぐに飽きるか他のもっとしゃれた笑劇のほうがずっと面白い、ということになってしまいます。現に私のように長いあいだ実人生に入ることを拒んでいたもの(今でも多少あります)には、この種の云わば紋切り型の立ち回りやおしゃべりは、日本映画に通有の「仲間うち的記号」としてハナにつくばかりで、とてもじゃないが笑っていられる場合じゃなかったのです。

 ところが、今回連続してやっているのを観ているうちに、感心もし感動もしている自分に気がついたのでした。これはあきらかに映画が変わったのではなくて、私が変わったからで、その変わった中味といえば、 私自身の経験した時間 というしかないでしょう。それと同時に例の「仲間うち記号」的表現を、何とも思ってない自分にも気づいたのでした。これは例えば「水戸黄門」や「忠臣蔵」の紋切り型の台詞や立ち回りを、百ぺんでも二百ぺんでも飽きずに観ていられる、という心理に似ています。いずれにしても以前の私には絶対ありえない(許されない)ことなのでした。
 ちょっと偉そうに聞こえるかもしれませんが、これは多少でも自分の人生を経たと思える人にだけ、分かることなのかもしれず、たんに人生を50年過ごしたら分かるという類のものではないようです。早い話、部屋にこもり切りで50年過ごしたというのは、物理的時間は50年でも人生としての時間はゼロでしょう。本当の人生経験というのは、あんがい人の一生でそんなにないのかも知れず、それでも一回でもそれを経験した人は、真実を捕まえたぶんだけ、ウソを許すことができるでしょう。
 「喜劇」とは ウソを認める ことを前提とした劇なのです。「悲劇」がウソを認めず、どこまでもリアリティー(現実)に迫っていくものとすれば、「喜劇」はウソをこまごまと指摘し出したら成立しなくなってしまう。「印籠」を出せば、たちまち極悪人は必ず平身低頭する、というのは現実にはありえない(むしろ逆が現実)。それでもそれがいまだに指示されるのは、衆人全部の ウソを前提とした真実 がありえるということで、「寅さん」を認めるということは、ウソを認める(許す)という前提があるのです。繰り返しになりますが、このウソを許すという気分になるには(私の経験からいうと)、どうやら実人生を多少でも知っているということが必要らしいのです。


 まあそれこそ「喜劇」ですから、そこまで目くじら立てる必要もないのでしょうが。

 それにしても「寅さんシリーズ」に登場するヒロイン、いずれも素晴らしい役者ぞろいですが、私のお気に入りは竹下景子、樋口可南子、吹雪ジュンといったところ。かつての若者のアイドルといっていい美女たちが、いずれもびっくりするほどの名演技なのには驚くばかりです。気は強いけど、ちょっと人生に不器用な樋口可南子、男のずるさを何度も見たであろう怒り顔の吹雪ジュン、切なさが顔や科白でなく仕草にありありと出ている竹下景子、こんなにいつの間にうまくなったのかと思ったのが、考えてみれば、私は誰ひとりテレビや映画で彼女たちを今まで、まともに観たことがなかったのでした。

― つづく ―





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Last updated  2008.01.18 14:48:06コメント(0) | コメントを書く


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TNサリエリ @ Re[1]:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) ナガノさんへ  コメントいただき、ありが…
ナガノ@ Re:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) 2年遅れで、この文章を読んで泣けてしまっ…
TNサリエリ@ ふたたび、コメントありがとうございます。 cocolateさんへ 私自身、彼女の演奏に刺激…
cocolate@ Re:エレクトーンというガラパゴス 1.(06/17) 再びおじゃまします。 826askaさんのYouT…
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