サリエリの独り言日記

サリエリの独り言日記

2009.01.19
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カテゴリ: 文学
 「夕顔」の帖については、云わばゴシック・ホラー・サスペンスのノリで、受験時代の私は面白がっていたのですが、今回生まれて初めて「源氏物語」を寂聴さん訳と、途中から円地さん訳で通読してみると、新たな感想がムラムラとわいて出てきます。
 「夕顔」の帖についても六条御安所の遊離魂に絡めて面白い話があるのですが、細かい話の前に全般的な読後感を言いますと、
1. 煩瑣に挿入されている和歌をどう取り扱ったらよいのか
2. 平安貴族は男も女も本当にあんなにしょっちゅう泣いたのか
3. どう考えても語られないとおかしい藤壺や六条御安所との密通シーンが、なぜ無いのか
といったところです。

 まず、和歌の問題ですが、あれだけタフな散文で書き進んでいるのに、ほぼ一ページに一首は挿入されているとも思える和歌というのが、散文を読んでいる今どきの読者には、はなはだつらい。というか筋を辿ることをいったん休止して詩文(韻文)を味わえという。この物語が「伊勢物語」や「大和物語」の流れを組む「歌物語」の発展形であるなら、それもしょうがないか、ということになるのですが、どちらにしてもストーリーを追う醍醐味に慣れきっている私たちには、頭の切り替えが必要で結構努力しなければなりません。
 これはいったい何なのか、ずうっと読みながら考えていたのですが、平安貴族にとって和歌というのが男女の馴れ初めのための必携ツールである以上、作中で和歌がケータイメールなみに取り交わされるのは、当時の文化として当然としても、地の文と照応しあったような歌が出てくるのは困る。困るというのは今どきの私たちの都合で困るという意味で、かつてはむしろ和歌作りの手本として「源氏物語」が珍重された時期もあったのです。
 であるなら、ここは割り切って和歌を端折るという手も成り立つので、げんに円地さんは和歌をはなはだ散文的に訳されています(寂聴さんはいわゆる鑑賞文訳で、何だか受験時代を思い出します)。というわけで基本的には和歌は跳ばす、という前提で読んでいったのですが、途中でこれと似た経験が他でもあったことに気づきました。それは今どきのミュージカルやオペラでの 歌とストーリーの関係
 オペラはまだ私には敷居が高いので、ミュージカルを例にとりますと、歌が始まると、とりあえず話の筋を追うのはいったん休止して、おもいっきり歌や踊りを楽しもうということになるでしょう。この間、劇としての時間は止まっているので、オペラなどではアリアのあいだ中、主人公の歓喜の極みか悲嘆の底に延々と付き合わされることになります(というより、それこそがオペラの麻酔的な魅力といわれるらしいのですが)。1000年後の人たちが今どきのミュージカルやオペラを観て、陳腐だの不自然だのと看做さないとも限らないように、1000年前の日本人にとって話をいったん休止して和歌を楽しむというのは、ちっとも不自然ではなかったのでしょう。

 もう一つの問題が、光源氏をはじめとして登場人物たちが、何かにつけて「宿世」だの「あわれ」だのの決まり文句で、すぐに袖をぬらす。袖くらいならまだしも、額髪が涙で顔にくっつく、涙の海で枕がプカプカ浮かぶなどとなると、これはきっと当時のあいさつ変わりのような紋切り口調なのではないかと、私などすぐに疑ってしまいます。
 好適な例として「伊勢物語」の都鳥のくだり、でしたか、ある男が「身をえうなきもの(役立たず?)」とみなして、都に妻子を残して友達2,3人と東ヘさまよって行く、三河の八橋というところで

― その澤のほとりの木の陰におり居て、かれ飯(いい)くひけり。その澤に杜若(かきつばた)いと面白く咲きたり。
 それを見て、ある人のいはく、『かきつはたといふ五文字を、句のかみにすゑて、旅の心をよめ』といひければよめる。
 唐衣 きつつなれにし 妻しあれば、 はるばるきぬる 旅をしぞ思ふ
とよめりければ、皆人 かれ飯の上に涙おとしてほとびにけり  ― (下線筆者)

かれ飯(乾燥米?)が落とした涙でふやけてしまったというのですが、こういう一種の誇張表現は古代から中世にかけての云わば慣用的な手法で、もちろん本当にふやけてしまったわけではないでしょう。
 というわけで、「源氏物語」の中でも、主人公たちが本当に泣いているのかいないのかは、ストーリーの必然的な展開から判断するしかない、といって好いのではないか。

― つづく ―





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Last updated  2009.01.19 17:22:16
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TNサリエリ @ Re[1]:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) ナガノさんへ  コメントいただき、ありが…
ナガノ@ Re:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) 2年遅れで、この文章を読んで泣けてしまっ…
TNサリエリ@ ふたたび、コメントありがとうございます。 cocolateさんへ 私自身、彼女の演奏に刺激…
cocolate@ Re:エレクトーンというガラパゴス 1.(06/17) 再びおじゃまします。 826askaさんのYouT…
cocolateさんへ@ コメントありがとうございます。 三年ほど前に826asukaさんのことを知り、…

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