サリエリの独り言日記

サリエリの独り言日記

2009.04.06
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カテゴリ: 文学
 東宮とのつらい別れのあいさつを、済ませてからの藤壺の宮の行動は、きわめて沈着かつ粛々としたもので、彼女の決意のほどが伺われます。
 故桐壺院の一周忌のあと、法華八講(法華経八巻を一日二回、四日間かけて講説する法会)が、賑々しく執り行われるのですが、藤壺の宮主宰とはいえ故院の法会となれば、上達部なども右大臣派に対する憚りも、とりあえず差しおいて大勢集まってくる。当然、その中には源氏の君も含まれるのです。

― 中宮は、院の御はてのことにうちつゞき、御八講(みはっこう)のいそぎ、さまざまに、心づかひせさせ給ひけり。…
 はての日は、わが御事を結願にて、世を背き給ふよし、仏に申させ給ふに、皆人々、驚き給ひぬ。兵部卿の宮(藤壺の兄)、大将(源氏)の御心も動きて、「あさまし」と思す。みこ(兵部卿)は、中ばの程に、たちて、いり給ひぬ。 ― 同上()筆者

 中宮は院の一周忌の御法要につづいて、法華八講の御準備を何かとお心遣い遊ばされている。…
 終りの日に中宮は御自分のことを最終の願として、世を遁れる由を仏に申し上げられたので、その座にある方々は皆、驚き呆れてしまわれた。兵部卿の宮や大将の君はお心が動転して、何とも言われぬお気持ちである。親王は中途で座を立って御簾の内に入られた。 (円地文子訳、新潮文庫)

 自身の出家のことは(誰にも相談せず)、当日まで完全に秘して、しかるべき人々が集まった中で、いきなりその意思を明かす。これは云わば、 いっさいの退路を断つ やり方で、だからこそ、それを聞いた兄の兵部卿の宮も源氏の君も、すっかり気が動転しまうわけで、兵部卿のほうは居たたまれなくなって、御簾の内に入ってしまう、という仕儀になるのです。
 この兵部卿の宮、藤壺の実兄であるとともに、紫の上の父でもあるのですが、右大臣派になびいたということで、後々源氏の怒りをかったり、親王という微妙な立場で、ときの政治勢力のあいだを右往左往、その判断や振るまいには、なかなかしんどい部分があります。



 中宮は気強くもかたい御決心のほどを仰せられて、法会の果てる頃、叡山の座主を召し、戒をお受けになることを仰せになる。… かりそめの素振りにもお見せにならなかったことなので、御兄の親王もまったく思いのほかで、涙の溢れるのをどうにも出来ない御様子である。 (円地文子訳、新潮文庫)

 というわけで、この兵部卿の宮の涙というのは、我が身の行く末に対する不安も多分に含まれているのです。
 さて、同じように途方にくれている光源氏のほうはというと、

― 大将は、たちとまり給ひて、きこえ給ふべき方もなく、くれ惑ひて思さるれど、「などか、さしも」と、人、見たてまつるべければ、みこなど、出で給ひぬる後にぞ、御前に参り給へる。 ― 同上

 源氏の君は一人そこに残られて、申上げようにも言葉も出ず、眼の前もかきくらすようにお思いになるけれども、何でまたそんなに愁嘆するのかと人が見咎めることもあろうかと、親王などの退出されてしまった後で、中宮の御前にお出でになった。 (円地文子訳、新潮文庫)

― つづく ―





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Last updated  2009.04.06 11:41:02
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TNサリエリ @ Re[1]:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) ナガノさんへ  コメントいただき、ありが…
ナガノ@ Re:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) 2年遅れで、この文章を読んで泣けてしまっ…
TNサリエリ@ ふたたび、コメントありがとうございます。 cocolateさんへ 私自身、彼女の演奏に刺激…
cocolate@ Re:エレクトーンというガラパゴス 1.(06/17) 再びおじゃまします。 826askaさんのYouT…
cocolateさんへ@ コメントありがとうございます。 三年ほど前に826asukaさんのことを知り、…

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