サリエリの独り言日記

サリエリの独り言日記

2009.04.07
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カテゴリ: 文学
 大勢の上達部や親王たちの驚きや嘆きを含んだ、ざわめきのなかで、源氏が一人呆然とたたずむ中、次第に人が去り周囲が静かになって、彼一人に視線がフォーカスされて藤壺と対面する。このあたりの進行は、なにか映画の画面を観るように劇的で、紫式部の筆は冴えてますね。

―  やうやう人しづまりて、女房ども、鼻うちかみつゝ、ところどころに群れゐたり。月は隈なきに、雪の光りあひたる庭の有様も、むかしのこと、思ひやらるゝに、いと堪へがたう思さるれど、いと、よう思ししづめて、
 「いかやうに思し立たせ給ひて、かう、にはかには」
 と、聞こえ給ふ。
 「今はじめて、思ひ給ふる事にもあらぬを、物騒がしきやうなりつれば、心乱れぬべく」
 など、例の命婦して、聞こえ給ふ。 ― 同上

 ようやく人々の動揺も静まってきて、女房たちが鼻をかみながら、あちこちにかたまっている。隈なく照り渡る月の光が雪の白さに映えている庭の有様にも、昔のことが思いやられて、君は堪えがたくお思いになるが、ようやく心を鎮めて、
「どのようにお思い立ち遊ばしてか、こうも急に御出家を …」
 とおっしゃる。

 と例のとおり命婦の君を取次ぎにして仰せ出だされる。 (円地文子訳、新潮文庫)

 というわけで、源氏は傷心のまま退出して、自邸で来し方行く末の考えに耽るのですが、おもしろいのは落飾してからの藤壺の宮(入道の宮)は、かえって気楽に源氏に声をかけるようになったことで、

― まゐり給ふも、今はつゝましさ薄らぎて、御身づから、きこえ給ふ折もありけり。思ひしめてし事は、更に御心に離れねど、まして、あるまじき事なりかし。 ― 同上

 入道の宮の許へ源氏の君が参られる折には、今は気兼ねをなさることも薄らいで、宮のほうからも、御自身でお言葉をおかけになることもあった。深くお心にしみ入っている思いはいっかなお胸を離れはしないが、宮が出家されての後は(懸想など)いっそうあるまじきことなのである。 (円地文子訳、新潮文庫、()筆者)

 光源氏は、尼さんには生涯とうとう手をつけなかったので、さすがに仏教の権威というのは、希代のヒーローといえども、最大の禁忌だったのです(「宇治十帖」の薫は、出家した浮舟に懸想しましたね。紫式部の想像力は当時の禁止の極北まで達していたのです。まあしかしこれは先の話)。

― つづく ―





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Last updated  2009.04.07 12:09:33
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TNサリエリ @ Re[1]:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) ナガノさんへ  コメントいただき、ありが…
ナガノ@ Re:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) 2年遅れで、この文章を読んで泣けてしまっ…
TNサリエリ@ ふたたび、コメントありがとうございます。 cocolateさんへ 私自身、彼女の演奏に刺激…
cocolate@ Re:エレクトーンというガラパゴス 1.(06/17) 再びおじゃまします。 826askaさんのYouT…
cocolateさんへ@ コメントありがとうございます。 三年ほど前に826asukaさんのことを知り、…

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