サリエリの独り言日記

サリエリの独り言日記

2009.04.27
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カテゴリ: 文学
 紫式部が宮中に伺候するにあたって、自身の立ち居振るまいにきわめて慎重だったというのは、もうすでに何度も触れたことなのですが、それは同時に彼女が「源氏物語」を書き進めていくにあたっての、執筆態度でもあったでしょう。
 昔からよく知られた王朝夢物語を下敷きにしたというのは、当時考えられる物語の形式としてはそれしかなかったとはいえ、宮中の一般読者に受け入れられるには、それがもっとも容易な形式であったとも云えるので、当初は女房、上達部たちの反応を見ながらの手探りの執筆であったでしょう。早い話、「葵」や「賢木」にみられるような、きわめて緊張した仮借なき物語が、はじめから展開されたなら、誰しもすっかり戸惑ったと思われますし、場合によっては非難を浴びる危険もあったでしょう。
 そういう意味で、彼女はとくにはじめは、常に読者を意識しながら、場合によっては彼らに摺りよった(舌触りが良くて抵抗感のない)、書きかたをすることもあったと思うのです。

 この場合、彼女が道長のバックアップで、当時貴重とされた紙や墨その他、執筆に際しての潤沢な支援を受けていたということは重要で、もちろん今どきの(自己の表現意欲だけを、糧とするような)職業作家などとは、まるきり社会認識は異なっていたはずです。
 このあたり、私は彼女の書斎というか、執筆の風景がどのようなものであったのか、いろいろと想像してしまいます。勝手な空想ですが、活版印刷の無かった時代、おそらく彼女の書いた原稿は、お側付きの字の綺麗な 複数の女房たちによって、ただちに何部かずつ同時に清書され、巻物に製本されて、しかるべき人たちに献上された と思われるので、「源氏物語」の最初の読者は、これら書写する女房たちであったでしょう。書写にはたんに字の美しさだけでなく、当然中味にかんして紫式部に確認する作業も含まれていたはずで、相当教養も読解力も備えた人たちだったでしょう。
 彼女はあるいはこれら書写する女房たちの反応を観察しながら、書き進めていったかとも思われ、場合によっては彼女たちから感想を聞くこともあったのかどうか、元気な女房ならば、登場人物の誰それはどうなったかとか、あの話はその後どうなったとか、ああだったらよかった、こうだったらどうなった、といったことを、直言とはいわないまでも女房同士で、おおいにしゃべりあっていたでしょう。
 はじめのころはともかく、「源氏物語」が宮廷の一定の評価を受けるようになって以後は、紫式部の部屋は一種独特の女房たちのサロンを形成していたと思われるのです。

 私はこのサロンに集う女房たちの読解力というか、感受性というのは、我々が想像する以上に高かったのではないか、紫式部が物語の執筆に対して次第に自信を深めるにつれて、これら周囲の第一番めの読者のレベルも急速に上がっていったのではないかと思うのです。ここで言うレベルというのは、当時の一般教養である古今集その他詩歌管弦に通暁していたという意味ではなく(それらは当然として)、まさしく今ふうでいう読書力のことです。

 彼女たちは執筆する紫式部とほぼ同時歩行で、「源氏物語」を体験して行ったと想像され、おそらく最上の読者であったと思うのです。「葵」や「賢木」を通過した彼女たちにとって、当初の王朝夢物語という下敷きは予定されていたこととはいえ、あるいはあまりにも絵空事に見えてきた、ということもあったのではないか?

― つづく ―





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Last updated  2009.04.27 13:15:59
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TNサリエリ @ Re[1]:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) ナガノさんへ  コメントいただき、ありが…
ナガノ@ Re:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) 2年遅れで、この文章を読んで泣けてしまっ…
TNサリエリ@ ふたたび、コメントありがとうございます。 cocolateさんへ 私自身、彼女の演奏に刺激…
cocolate@ Re:エレクトーンというガラパゴス 1.(06/17) 再びおじゃまします。 826askaさんのYouT…
cocolateさんへ@ コメントありがとうございます。 三年ほど前に826asukaさんのことを知り、…

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