サリエリの独り言日記

サリエリの独り言日記

2009.05.03
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カテゴリ: 文学
 このくだり、偏屈男と黙っていない女房という、典型的な世話物めいた夫婦のやりとりで、まことに面白いのですが、明石入道の秘密の一端はここで少しだけ出てきているので、彼が桐壺更衣の従兄弟であることが明かされます。かといって、肝心かなめの彼が、なぜこれほどに世間と折り合わず、田舎に落ちぶれて平気でいられるのか、読者とともに、このごく普通の常識を身に着けた奥さんの疑問は解かれません。

 このへんのやりとり、彼の秘密の中味のたわいなさ(今から見れば)を別とすれば、今どきの夫婦でもよくある出来事なので、恥ずかしくて奥さんにも、ちょっとよう言えないような夢とか、大望を持った男というのは、世間的常識を体現する古女房の指摘には、うまく反駁する術がなくて、ひたすら依怙地にならざるを得ない、という仕儀になるのです。
 とはいえ、同じように「私が先に死んだら、入水して死ね」と言い放って、娘二人の行く末を省みることのなかった「宇治十帖」の八の宮に比べて、この入道が好ましく見えるのは、あまり知性的とは言いかねる人柄なのに、一人信じるに足ると思う事柄があると、誰に何と謗られようと、その志を曲げなかった、という 愚直なまでの正直さ なのかもしれません。対するにこの奥さんも、後々けっこう長生きするのですが、ついに最後まで夫の真意を、おそらく理解できなかったようなのですが、だからといって入道を見限ることはしなかったので、愚直な正直さという点では、この夫婦好い勝負ですね。
 しかし、いくら偏屈とはいえ、そのあたり入道は 家族の生計を切らすということがなかった から、この愚直さが通っているので、彼の人生的な不器用さとは、宮廷内での人事にかんするものでした。言うなれば左大臣家に見られるような、世俗的な付き合いと人脈抗争は、彼にとってもっとも不得手なものだったでしょう。
 受領風情に落ちぶれたとはいえ、生計が立ったというのは、あるいは彼の所領が播磨という、物なりの豊かな土地であったためかもしれず、その点では彼は恵まれていたのかもしれません。

 八の宮が、仏教その他さまざまな教えや思想に詳しくて、薫が心酔して通い続けたにもかかわらず、彼も薫も本当に人生に誠実であったかと言えば、これは相当怪しい。知的レベルが相当高くても、肝心の人としての誠実さのようなものが、この二人からは感じられないのです。しかしまあ、これはずっと先の話。

 さて、ここで明石入道が桐壺更衣と従兄弟であったことが、明らかにされたことで、私たちはまたもやこの物語の貴 種の血筋に対するこだわり
 いったいに彼が人に惹かれる発端というのは、元をただせば顔が母の桐壺更衣に似ている、ということが大きな要因になっています。しかしよく考えてみると、彼は実際には母の顔は見ていないのであり、藤壺の宮は周囲が桐壺更衣に似ていると噂したので、そう思ったに過ぎません。写真とか写実性の高い肖像画がなかった時代、顔が似ているとか似てないという判定は、結局見ている本人の大きな主観にゆだねられているので、私たちはその背後に無意識にはたらいている、彼の貴種の意識を想定しなければなりません。

 とはいえ、明石入道の一家の紹介が終わったあと、例の左大臣家の頭の中将が、お忍びで尋ねてきたりしますが、このことは前に触れたので、ここでは話しません。
 さてそのあと、さまざま積もる物思いなど、御禊をすることになって、陰陽師などを呼んで浜辺でのお祓いとなるのですが、いよいよここから神仙譚の始まりです。

― つづく ―





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Last updated  2009.05.03 13:34:14
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TNサリエリ @ Re[1]:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) ナガノさんへ  コメントいただき、ありが…
ナガノ@ Re:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) 2年遅れで、この文章を読んで泣けてしまっ…
TNサリエリ@ ふたたび、コメントありがとうございます。 cocolateさんへ 私自身、彼女の演奏に刺激…
cocolate@ Re:エレクトーンというガラパゴス 1.(06/17) 再びおじゃまします。 826askaさんのYouT…
cocolateさんへ@ コメントありがとうございます。 三年ほど前に826asukaさんのことを知り、…

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