サリエリの独り言日記

サリエリの独り言日記

2009.05.06
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カテゴリ: 文学
 連日の嵐で、さすがの光源氏も困じ果てて、疲れが出たのか、物に寄りかかってウトウトする。そこでいよいよ故桐壺帝の登場となるわけですが、紫式部は例によって一回目は仄めかし程度に、二回目はごく気鮮やかに書きますね。
 一回目とは、前日の晩に源氏の夢に現われた「そのさまとも見えぬ人」で、だから彼は「海龍王の使いか」とも思ったのですが、今回はハッキリと桐壺院であると分かります。これは「夕顔」のとき、ハッキリとは示されなかった物の怪の正体が、「葵」では六条御息所と名指しされて出てくるのとよく似ていますね。

― 故院、たゞ、おはしまししさまながら、たち給ひて、
 「など、かくあやしき所には、ものするぞ」
 とて、御手を取りて、ひき起て給ふ。
 「住吉の神の導き給ふまゝに、はや舟出して、この浦を去りね」
 とのたまはす。 ― 同上

 亡き桐壺院が、御在世の姿のままで、お立ちになっていて、
「なぜ、このように怪しい所に、じっとして居るのだ」

「住吉の神の導かれるままに、早く舟を出して、この浦から去るのだ」
と仰せられる。

 対する光源氏は、たちまち気丈な貴公子から、多少子供に戻って、本音が出てしまいます。

― いと、嬉しくて、
 「かしこき御影に、別れたてまつりにしこなた、さまざま、悲しき事のみ多く侍れば、今は、この渚に、身をや捨て侍りなまし」
 と、きこえ給へば、
 「いと、あるまじき事。これは、たゞ、いささかなる、物の報いなり。我は、位にありし時、過つ事なかりしかど、おのづから、犯しありければ、その罪を終ふるほど、いとまなくて、この世をかへりみざりつれど、いみじき憂へに沈むを見るに、たへ難くて、海に入り、渚にのぼり、いたく困じにたれど、かゝるついでに、内裏に奏すべき事あるによりなむ、いそぎのぼりぬる」
 とて、たち去り給ひぬ。 ― 同上

 君は、すごく嬉しくなって、
「尊い父上の面影に、お別れして以来、さまざま悲しいことばかり多くございまして、今となっては、この浜辺に、身を捨てようと思っておりました」
と、おっしゃると、

と言われて、立ち去られてしまった。

― あかず悲しくて、
 「御供に参りなむ」
と、泣き入り給ひて、みあげ給へれば、人もなく、月の顔のみ、きらきらとして、夢の心地もせず。御けはひとまれる心地して、空の雲、あはれにたなびけり。 ― 同上

 君は別れが悲しくて、

と、泣き出しそうになられて、ふと(目が醒めて)見上げられると、人の姿はなく、月の顔だけが、きらきらと輝いていて、夢とも思えぬ心地である。故院の気配がまだ残っている気がするが、空には雲が、寂しくたなびいているばかりである。

 ここで大事なのは、怪しげな神仙譚が、すべて 夢という回路 を通して、語られていることです。

― つづく ―





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Last updated  2009.05.06 12:16:36
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TNサリエリ @ Re[1]:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) ナガノさんへ  コメントいただき、ありが…
ナガノ@ Re:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) 2年遅れで、この文章を読んで泣けてしまっ…
TNサリエリ@ ふたたび、コメントありがとうございます。 cocolateさんへ 私自身、彼女の演奏に刺激…
cocolate@ Re:エレクトーンというガラパゴス 1.(06/17) 再びおじゃまします。 826askaさんのYouT…
cocolateさんへ@ コメントありがとうございます。 三年ほど前に826asukaさんのことを知り、…

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