サリエリの独り言日記

サリエリの独り言日記

2009.06.29
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カテゴリ: 文学
 いずれも下級貴族の娘で(厳密にはそうではないのですが、宮廷内の身分としては低い)、上級貴族に懸想された場合の、生きかたとしての心許なさを悩んでいるわけで、繰り返し取り上げたというのは、彼女にとって身近な問題であるとともに、それは女たちだけでは解決不能な根本問題も含んでいたのでした。
 で、それがこの長い物語で、何か解決されたのかといえば、もちろんそんなことはなくて、むしろ繰り返すごとに問題の所在が、より深くなっていくような感じさえしてきます。しかしそれもまた今軽々に話すべきことではないでしょう。

 古来、紫式部が自身を仮託したであろう登場人物として、空蝉や明石の方や玉蔓などが挙げられていますが、確かに人物の身分柄から言えば、空蝉も明石の方、玉蔓の境遇は作者とよく似ていて、話の途中まで、ああこれはたぶん彼女自身の体験だろう、と思わせる場面も出てくるのですが、かといってこの人たちがすべて悩みを解決できたわけではない。否、そうした悩みは、話が進むにつれて、むしろ深勝っていくわけで、何度も同じようなシチュエーションの人物を登場させたこと自体、それが簡単には解決されない、多様でやっかいな問題であったからでしょう。
 しかしそしたら紫の上はどうなの、ということになるのですが、もちろん彼女はこの物語の一方の主役なのですが、主役というのは光源氏もそうですが、たぶんに理想化されて描かれるぶん、なかなか実体的な生き生きした人間として立ち上げるのは、大変みたいですね。今どきの映画でも主役は、ある程度型の決まった二枚目が演じて、脇にクセのある生きた人間が出てくるのとよく似ています。

 悩み深まさる明石の方を見かねたか、その両親の考えついたのが、

― 昔、母君の御祖父、中務宮ときこえけるが、領じ給ひける所、大堰川のわたりにありけるを、その御のち、はかばかしうあひ継ぐ人もなくて、年ごろ荒れまどふを、思ひ出でて、かの時より伝はりて、宿守のやうにてある人を、呼び取りて語らふ。 ― (山岸徳平校注、岩波文庫)

 昔、母君の御祖父で、中務(なかつかさ)宮でいらっしゃった方の、御領地が、大堰川のそばにあったのが、その後、しっかり後を継ぐ方もなくて、年経るに荒れたままになっていたのを、思い出して、その頃より代々、そこを預かりのようにしている人を、(入道は)呼び寄せて相談する。

 もともとの出身が都であった、この両親が考えついたのが、とりあえず明石の方とその姫君を都の近くに住まわせようということだったのですが、とくに幼い姫君に田舎育ちの不利を避けさせる意味合いが強かったとはいえ、それは同時にこの家族にとっては、痛みをともなう判断でもありました。

 しかしその前に、ここに出てくる大堰川のそばの領地というのは、いったいどのあたりだったのだろう、という思いに駆られます。大堰川とは京都の西を流れる桂川の上流のことで、今の渡月橋から桂橋のあたりにかけてこう呼ぶようですが、このあと出てくる光源氏の建てた御堂(桂院)と、この入道の大堰の邸の位置関係は、どう見たらよいのか。


― つづく ―





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Last updated  2009.06.29 14:01:02
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TNサリエリ @ Re[1]:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) ナガノさんへ  コメントいただき、ありが…
ナガノ@ Re:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) 2年遅れで、この文章を読んで泣けてしまっ…
TNサリエリ@ ふたたび、コメントありがとうございます。 cocolateさんへ 私自身、彼女の演奏に刺激…
cocolate@ Re:エレクトーンというガラパゴス 1.(06/17) 再びおじゃまします。 826askaさんのYouT…
cocolateさんへ@ コメントありがとうございます。 三年ほど前に826asukaさんのことを知り、…

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