サリエリの独り言日記

サリエリの独り言日記

2009.07.12
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カテゴリ: 文学
 ここの紫の上の本心は本当はどうであったのか、男の私ならずとも、やっぱりよく分からないところだと思うのです。大野さんは研究室の女子学生?たちに聞いたところが「自分に子が無ければ、きっと可愛いと思う」という意見を引いて、案外そういうものなのか、という話をされている(ついでに丸谷さんも同意見)のですが、私はやはりそれでは納得できないのです。彼女がたんに子供好きだったという理由で、夫の妾腹の子を引き受けるなんて、到底本心とは思えないでしょう。
 ここでまたまた私の人品骨相が出てしまうのですが、要は紫の上は、少なくとも表向きの気持の持ちようとして、光源氏の言うことに我が心を同化させたかったのではないか。源氏の主たる関心が本当に幼姫君にあるなら(その可能性は高いのです)、その子を手元に置いておけば、少なくとも大堰に出かける大義名分はなくなる。まったく止めることはなくても、しょっちゅう出かけるということはなくなるでしょう。
 してみれば、ここの「すこしうち笑み給ひぬ」という紫の上の表情は、恐ろしい「氷の微笑」!ということになりますね(E・マーフィーとS・ストーンの対決ですか?)。したがって彼女の子供好きという記述は、ここの心理の本筋とは関係ないということになります。光源氏の人を懐柔する手法を、それこそ子供のときから、いちばん親しく見てきた紫の上が、上のような思考回路で、あえて夫の妾腹の子供を引き受けることを承諾した、というのはおおいにあるように思えてくるのですが。

 はたして、その後の源氏の思いは、

― 「いかにせまし。むかへやせまし」と、おぼし乱る。わたり給ふこと、いと難し。嵯峨野の御堂の念仏など、待ち出でて、月に二たびばかりの御契りなめり。年の渡りには、たちまさりぬべかめるを、「およびなきこと」と、おもへども、なほ、いかゞ、物思はしからぬ。 ― (山岸徳平校注、岩波文庫)

 「どうしたものか。ここに迎え入れようか」と、(源氏は)お心が乱れる。(大堰に)お出かけになるのは、(遠くて)たいへん難しい。嵯峨野の御堂の念仏などの行事に、かこつけても、月に二度ばかりの逢う瀬であろう。(七夕のような)年に一回の逢う瀬よりは、マシであろうとはいえ、「(それ以上は)叶わぬことだわ」と、(明石の上は)思うが、それでも、どうして、(それが)物思いの種にならずにおれよう。

 自ら仕掛けた話に、紫の上が応じたことで、よく考えてみると明石の方との逢う瀬が難しくなっていることに気がつく。というわけで、「いかにせまし。むかへやせまし」となるわけですが、さしあたって彼としても、第一優先は紛れもなく幼姫君で、この子をいずれどうやって、今の東宮(冷泉帝の次の帝)の后として宮廷に送り込むか(つまり自身は、次帝の外戚になる)、ということが大事だったのです。その点では子供の出来ない紫の上とも思惑を共有していたわけで、心理的葛藤として肝心なのは結局、紫の上も明石の方も源氏の「気持が欲しい」ということでしょう。
 というわけで、着々と宮廷での威勢を確立していく光源氏ですが、身内の方では何やら鬱々した感じを残したまま「松風」の帖はおわります。

 はじめにも言いましたが、この帖はどちらかというと話の筋というよりは、人物それぞれの心の葛藤を克明に描くのが中心になっていて、変な比較ですが映画的というよりは、舞台的あるいは明石の入道のようにオペラ的なゆっくりした抑揚の変化と場面を見るような印象でしたね。


― 源氏1000年 松風 おわり ―





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Last updated  2009.07.12 02:29:24
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TNサリエリ @ Re[1]:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) ナガノさんへ  コメントいただき、ありが…
ナガノ@ Re:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) 2年遅れで、この文章を読んで泣けてしまっ…
TNサリエリ@ ふたたび、コメントありがとうございます。 cocolateさんへ 私自身、彼女の演奏に刺激…
cocolate@ Re:エレクトーンというガラパゴス 1.(06/17) 再びおじゃまします。 826askaさんのYouT…
cocolateさんへ@ コメントありがとうございます。 三年ほど前に826asukaさんのことを知り、…

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