サリエリの独り言日記

サリエリの独り言日記

2009.07.19
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テーマ: 古典の日(312)
カテゴリ: 文学
 明らかに違うのは、明石の方の両親が健在で、しかもなかなか魅力的であるということなので、したがって彼女の性格をみるうえで、この父入道と母尼君のパーソナリティーを欠かすことは出来ません。

 さてそこで、母尼君の登場となります。父入道に負けず話が長いのですが、明石の方が相変わらず嘆いているのをみて、

―  尼君、思ひやり深き人にて、
 「あぢきなし。みたてまつらざらむことは、いと胸いたかりぬべけれど、遂に、この御ために、よかるべからむことをこそ、思はめ。あさくおぼしてのたまふことにはあらじ。たゞうち頼みきこえて、わたしたてまつり給ひてよ。母方からこそ、帝の御子も、きはぎはにおはすめれ。このおとゞの君の、世に二つなき御有様ながら、世に仕へ給ふは、故大納言の、いまひときざみ、なりおとりたまひて、更衣腹といはれ給ひしけぢめにこそ、おはすめれ。まして、たゞ人は、なずらふべき事にもあらず。また、親王たち・大臣の御腹といへど、なほ、さし向かひたる劣りの所には、人も思ひおとし、親の御もてなしも、えひとしからぬものなり。まして、これは、やむごとなき御方々に、かゝる人、出でものし給はば、こよなく、消たれ給ひなん。ほどほどにつけて、親にも、一節もてかしづかれぬる人こそ、やがて、おとしめられぬ初めとはなれ。御袴着のほども、いみじき心をつくすとも、かかる深山隠れにては、何の栄かあらん。たゞまかせ聞こえ給ひて、もてなし給はむ有様をも、きゝ給へ」
 と教ふ。 ― (山岸徳平校注、岩波文庫)

 尼君は、思慮深い人であって、
「(そういうふうに思い悩むのは)味気無いことですよ。(姫君を自ら)お育て出来ないことは、たいそう胸の痛むことではあるけれど、結局、この(姫の)御ために、(いちばん)良いことだけを、考えるべきです。(源氏の君は)浅はかな考えで(このことを)おっしゃっているのではありません。ひたすら(君を)お頼み申して、(姫君を)お渡し申上げることです。母方(の身分)からこそ、帝の御子といえども、差がお出来になるものです。この(源氏の)大臣も、世に二つと無い(高い器量の)お姿ながら、臣下となって(帝に)お仕えなさるのは、故大納言が、今一段、位が低くていらっしゃって、(御母君が)更衣(という低い位)の子とされた、その結果でいらっしゃるのです。まして(私どものような)平人など、比ぶべくもありません。また、御子や大臣の血筋とはいっても、なお、母方の係累が劣っている姫は、世間も低く見貶めるでしょうし、親からのお取り扱いも、公平とはいかないでしょう。まして、この姫君は、(他の)優れた係累の方々から、(同じような姫君が)お生まれになった場合には、たいそう、気圧されておしまいに(なるかもしれません)。身分柄によって、(そうした)親たちにも、ひと際格別にお取り扱いされる人こそ、先々、貶められぬ基ともなるのです。御袴着の儀式についても、(どれだけ)盛大に心を砕いたところで、(大堰の)このような山深いところでは、何の映えがあるでしょう。(ここはもう源氏の君に)ひたすらお任せ申して、(君と紫の上が、姫君を)お世話なさるご様子ばかり、お聞きなさいまし」
と、教え諭す。

 この母尼君、明石の鄙にいる時から、けっこう都の消息に詳しくて、光源氏の動静などにも通じていました。もともとが都の出身であるうえに、一つにはダンナの入道が桐壺更衣の従兄弟で、その子の光源氏の噂を聞く機会があっただろうと思われるのと、もう一つは彼女自身も、祖父(中務宮)が宮家の係累を引いていたらしいこともあって、都の人たちとの交流があったのでしょう。


― つづく ―





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Last updated  2009.07.19 10:54:42
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TNサリエリ @ Re[1]:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) ナガノさんへ  コメントいただき、ありが…
ナガノ@ Re:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) 2年遅れで、この文章を読んで泣けてしまっ…
TNサリエリ@ ふたたび、コメントありがとうございます。 cocolateさんへ 私自身、彼女の演奏に刺激…
cocolate@ Re:エレクトーンというガラパゴス 1.(06/17) 再びおじゃまします。 826askaさんのYouT…
cocolateさんへ@ コメントありがとうございます。 三年ほど前に826asukaさんのことを知り、…

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