サリエリの独り言日記

サリエリの独り言日記

2009.07.20
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テーマ: 古典の日(312)
カテゴリ: 文学
 世間というよりは、当時の都人の常識を代表したような母尼君の発言は、腰の決まらない明石の方の背中を押すような役割を負っていたので、あるいは源氏の密使のような役柄だった、乳母の教唆もあったのかも知れません。以前、「明石」の帖の話で、父入道と母尼君の「愚直なまでの正直さ」という二人に共通した特異的な性格について触れましたが、こうした両親に育てられた明石の方というのは、どのような性格をなして行ったのか、ふたたび空蝉と比較して考えさせられます。

 空蝉が早くから両親と死に別れて、自己形成を自身で自覚的に行なわざるを得なかったのに対し、明石の方というのは、これまでみたように、一つの啓示にどこまでも正直であろうとする父入道と、世間の常識を疑問の余地なく体現したような母尼君の影響を、色濃く受けないはずが無いので、彼女からは結果的に生身の声が聞こえてこないというか、両親の理念だけを素直に体現した、お人形さんのような姿に見えてしまうのです。
 彼女が「親王(みこ)たちといはむにも足りぬべ」き、絶世の美女という紫式部の描きかたは、何となく皮肉な感じも含まれているようにも思え、だからこそ前の帖での、源氏の「あまり上衆めかし(上品ブリッ子)」という感想になるのでしょう。という意味で、このあたりの明石の方のイメージは、見た目・挙作動作まことに麗しいけれども、生身の質感に乏しい今どきのスーパーモデルや、売れっ子タレントを思い起こさせます。計算された美しさとは、悲しいかな、正確にその作り物としての本質を、世間に見透かされてしまうので、彼女が自覚的に自身の声を発するのは、ずうっと先の話になりますね(彼女の家系は、両親も含めて長生きなのです)。

 何だか明石の方を、ことさらに貶める話になってしまいました。これは彼女自身のせいではなく、まことに愚直な正直者の両親の養育がなせるわざなので、極論すればあまりにも完璧に、育みが上手く行き過ぎた結果なのかもしれません。彼女はその素直さゆえに、自身の生き方や両親の考え方にかんして、疑問の持ちようがなかったのです。というわけで子供の教育というのは、親にとってなかなか厄介だ、という月並みな感想が出てくるのですが、ある意味適当に(生活その他の振るまいにかんして)抜けた親の方が、子にとっては批判の目を育てるという意味で、対自化のチャンスがあるのかもしれません。明石の方には間違いなく、反抗期というのは無かったでしょう。

 さて、源氏は心内では明石の方に「悪いことをした」!?と思いながらも、若姫君の引取りを粛々と行なおうとします。

― とのも、しか思しながら、おもはむ所のいとほしさに、しひても、えのたまはで、
 「御袴着のこと、いかやうにか」
と、のたまへり。御返りに、

と聞こえたるを、いと、あはれに思す。 ― (山岸徳平校注、岩波文庫)

 源氏の大臣も、そうしょうとは思われるが、(明石の方の)気持もいとおしくて、強いては(直に)、おっしゃることも出来ず、
「(姫の)御袴着の事は、どうされます」
とばかり、便りを寄こされる。ご返事には、
「何かにつけて、不甲斐ない私のもとに居られては、まことに、(姫君の)生い先は、可愛そうに思えますが、(かと言って、そちらへ移って、高貴な人々と)立ち混じっては、どんなにか物笑いに(なることやら)」
と申されるのを、(大臣は)たいへん、あわれに思われた。

― つづく ―





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Last updated  2009.07.20 11:16:47
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TNサリエリ @ Re[1]:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) ナガノさんへ  コメントいただき、ありが…
ナガノ@ Re:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) 2年遅れで、この文章を読んで泣けてしまっ…
TNサリエリ@ ふたたび、コメントありがとうございます。 cocolateさんへ 私自身、彼女の演奏に刺激…
cocolate@ Re:エレクトーンというガラパゴス 1.(06/17) 再びおじゃまします。 826askaさんのYouT…
cocolateさんへ@ コメントありがとうございます。 三年ほど前に826asukaさんのことを知り、…

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