サリエリの独り言日記

サリエリの独り言日記

2009.09.04
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テーマ: 古典の日(312)
カテゴリ: 文学
 紫式部は「槿」の帖まで、もっぱら光源氏の振るまいを、年代記的に克明に描いてきたのですが、ここへ来て、いささか話に倦んできたのではないか。
 光り輝く貴公子の一代記を構想するにあたって、当然彼女はその性格からして、相当厳密な源氏の履歴表のようなものを横に置いて書き進めていったでしょう。十七歳以降、ほぼ暦年単位に描かれてきたこの物語ですが、「槿」の時が源氏三十二歳ですから、おそらく彼女の頭では源氏四十歳を目途に、最初の「桐壺」の帖で示された高麗の僧都の「帝になるわけではないが、かといって臣下に降るわけでもない」という予言の謎解きと、准太上天皇(天皇に准ずる位)になるという夢の実現を予定していたのでしょう。

 しかし、ここ最近の「薄雲」「槿」の帖で、特に明らかになってきたように、話が光源氏と紫の上の二人の心理に偏し過ぎて、確かに時の経過という感慨深い印象を与えるとはいえ、話の内容が重くなっている、という感じもまた否めないのです。これは書いている紫式部本人も、そしておそらく周囲で最初に読んだであろう女房や上達部たちも、同じように感じていたのではないか。
 とすれば、予言の成就までの、あと八年間ほどの物語を、今までと同じ調子で押していっていいものかどうか?彼女は周囲の評判も見ながら、相当思案したのではないか、という気がするのです。たしかにちょっと、このままの調子では、しんどい感じがしないでもない。

 それともう一つ考えられるのは、このころには彼女はおそらく宮廷内で相当の評判をとっていて、表向き物語作家というのは漢学の文章博士などからは、ものの数にも入れてもらえなかった当時といえども(まして彼女は女性ですから)、しかるべき筋(なかんずく道長)からは、かなり一目置かれる存在になっていたであろうということです。
 しかるべき筋とは、男性貴族たちの(隠れ)源氏ファンのことで、彼らはあるいはこの物語をもっと面白くするために、ああでもないこうでもない、と彼女に面白話をしたのではないか。道長など天下の好き者をもって任ずる男たちの中には「実際はそんなもんじゃない。こんなこともあった、あんな失敗もあった」など、彼女に得意気に話すこともあったろうと思うのです(因みに、ほんとうの色男というのは、自分の失敗談を得意になって話するそうですな、私は知りませんが!?)。

 というわけで、紫式部はここでしばらく気分を変えて、同じ光源氏を中心とした宮廷物語ではあっても、視点を変えた別伝のようなものを書いてみようとしたのではないか、と思うのです。今までも彼女は、深刻な話と軽い話題を交互に描いて、気分のバランスを取っていたようなところがあり、ある局面を描くとき、常に正と負というような多面的なものの見方をする性向がありましたね。
 そこで考えられるのが、こうした当時の物語の特色である、「草子地」(紙芝居の語り手のように、話を進めながら時に話の中味に意見を挟むといった語り口)の手法で、今までも近侍する女房たちの何某がしゃべったこと伝え聞いた、という形式を借りることで、普通ではまともにしゃべれない出来事も書けたように、別の仮の語り手を設定することで別伝を物語ることを考えついたのではないか?そういう気がするのです。
 となると、ちょっと遠回りになりますが、b系最初の部分とされる第二帖の「帚木(ははきぎ)」を、覗いてみないといけませんね。







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Last updated  2009.09.04 10:48:21
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TNサリエリ @ Re[1]:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) ナガノさんへ  コメントいただき、ありが…
ナガノ@ Re:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) 2年遅れで、この文章を読んで泣けてしまっ…
TNサリエリ@ ふたたび、コメントありがとうございます。 cocolateさんへ 私自身、彼女の演奏に刺激…
cocolate@ Re:エレクトーンというガラパゴス 1.(06/17) 再びおじゃまします。 826askaさんのYouT…
cocolateさんへ@ コメントありがとうございます。 三年ほど前に826asukaさんのことを知り、…

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