サリエリの独り言日記

サリエリの独り言日記

2009.09.12
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テーマ: 古典の日(312)
カテゴリ: 文学
 「ヲトめ」とは、もともと「ヲトこ」に対応する古代語で、「乙女」という漢字は後からの当て字です。「ヲト」は、動詞「ヲ(復)ツ」と同語源で、若々しさを意味するらしいのですが、同じような古語で「ムスめ⇔ムスこ」のような用法があり、この場合の「ムス」とは「草ムス」とか、古事記の「高御 産巣 日神(タカミ ムス ビノカミ)」のように、自然の生産力を言祝ぐ言葉の後ろに、男女の性別語を充てているのです。
 この帖が「少女」と記されることもあるように、「ヲトめ」には年の若い女、未婚の女性、処女といった意味があるのですが、この帖では左大臣家の娘、雲井の雁のことを指していますね。それは同時に息子や娘がどんどん成長して、時代が進んでいく様も暗示しているのでしょう。

 さて、光源氏の一人息子夕霧(実際は冷泉帝と二人ですが)は、左大臣家の葵の上との間に生まれて、彼女が出産直後死亡した後、そのまま母の里方の祖母(大宮)のもとで、育てられていたのですが、十二歳になって元服を執り行なうことになります。このあたり、平安時代というのは表向き大陸伝来の男系社会でありながら、実体的な社会の仕組みは、まだまだ古代以来の母系制の色合いを残しているので、子供の養育とか資産の相続とかは母方の家で行われたようです。
 このへんは大陸の律令制が、儒教的思想に基づいた男系社会を目指していたのと矛盾するのですが、日本人というのは昔から建前(外面)としての仕組みと、実際の運用(内実)とを分けて考える指向性があるようです。朝鮮半島などでは、思想は完全に人の生活レベルの振るまいにまで浸透していて、私たちは今だにお互いの指向性の、基本的な違いに充分気付いているとは言えません。それがどのあたりから生じてきたものなのか、おおいに一考する値打ちがあるのですが、ここではその話はしません。

 とはいえ、一人息子に対する光源氏の対応というのは、実は今までまったく語られていなくて、むしろ一人娘の明石の若姫の扱いについて、あれだけすったもんだしたのに比べると、ずいぶん距離があるような気がしますね。これは古代以来の日本の父と息子の、ある種緊張関係をも暗示しているような気もするので、父親は将来ライバルになり得べき息子に対して、ことさらな隔てを置いていたとも見ることができるのです。

 光源氏の判断とは、

― 大殿腹の若君の御元服のこと、おぼし急ぐを、「二条院にて」とおぼせど、大宮の、いとゆかしげに思したるも、ことわりに、心苦しければ、なほ、やがて、かの殿にて、せさせたてまつり給ふ。 … 「四位になしてん」と、おぼし、世の人も、「さぞあらん」と思へるを、「まだ、いと、きびはなる程を、わが心にまかせる世にて、しか、ゆくりなからんも、なかなか、目馴れたる事なり」と、おぼしとゞめつ。浅葱(あさぎ)にて、殿上に帰り給ふを、大宮は、「あかず、あさましきこと」と思したるぞ、ことわりに、いとほしかりける。  ― (山岸徳平校注、岩波文庫)



― つづく ―





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Last updated  2009.09.12 20:19:08コメント(0) | コメントを書く


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TNサリエリ @ Re[1]:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) ナガノさんへ  コメントいただき、ありが…
ナガノ@ Re:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) 2年遅れで、この文章を読んで泣けてしまっ…
TNサリエリ@ ふたたび、コメントありがとうございます。 cocolateさんへ 私自身、彼女の演奏に刺激…
cocolate@ Re:エレクトーンというガラパゴス 1.(06/17) 再びおじゃまします。 826askaさんのYouT…
cocolateさんへ@ コメントありがとうございます。 三年ほど前に826asukaさんのことを知り、…

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