サリエリの独り言日記

サリエリの独り言日記

2009.10.08
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テーマ: 古典の日(312)
カテゴリ: 文学
 しかし面白いのは、つづく以下のくだりで、

― をとこ君の御乳母、宰相の君、出で来て、
 「「おなじ君」とこそ、頼み聞えさせつれ。くちをしく、かく渡らせ給ふ事。とのは、ことざまに、おぼしなる事おはしますとも、さやうに思し靡かせ給ふな」
など、さゝめき聞ゆれば、「いよいよ恥づかし」と、おぼして、物も、のたまはず。
 「いで、むつかしき事、な聞こえられそ。人の御宿世宿世、いと定め難く」
と、のたまふ。
 「いでや、「ものげなし」と、あなづり聞えさせ給ふに侍るめりかし。さりとも、「げに、わがきみや、人に劣り聞えさせ給ふ」と、きこし召し合はせよ」
と、なま心やましきまゝに言ふ。 ― (山岸徳平校注、岩波文庫)

 (そこへ)男君(夕霧)の御乳母の、宰相の君というのが、(御前に)やって来て、

などと、(姫に)ヒソヒソ耳打ちするので、(姫は)「ますます恥ずかしいこと」と、お思いになって、ものも、おっしゃれない。
 (大宮は)「これ(お黙りなさい)、ややこしい事を、申すでない。人(それぞれ)の運命は、どうにも(自分では)決め難いのだから」
と、おっしゃる。
 (対する乳母は)「いいえ(黙りません)、『(殿は、若君を)物の数でもない』とでも、蔑んでおいでなのでございましょう。(今は)そうでも、『本当に、我が君が、他人に劣りなさっていらっしゃるか』と、(どなたにでも)お聞きになればよろしいのです」
と、腹の立つままに言い放つ。

 この乳母の点描、確かにこういう勝気な女がいただろう、という存在感があるので、おそらく同じように姫や殿に食ってかかる女房、乳母というものが、実際に宮廷にはいて、紫式部もそれを見る機会もあったのでしょう。
 とくにこの乳母という存在、今どきの我々には想像しにくいですが、殿上人であっても、その乳母や乳母兄弟姉妹に対する振るまいは、たんなる身分的上下関係を越えた、強い紐帯でつながれているように見えるときがあり、それは逆に口さがない乳母たちからの、遠慮のない物言いともなって現れているようにも見えます。
 乳母、あるいは乳母兄弟姉妹と殿や姫との特別な心理的関係については、西郷信綱さんが「源氏物語を読むために」 (平凡社ライブラリー 2005)の中で、つとに指摘されていることで、大変興味深かったのですが、ここでは長くなるので、しないことにします。この問題はさらに宇治十帖に到るまで、あるいは源氏物語を読み解く一つの大きなキーワードかもしれず、改めて徹底的に考えてみたいと思っているのです。

― つづく ―





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Last updated  2009.10.08 08:34:15
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TNサリエリ @ Re[1]:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) ナガノさんへ  コメントいただき、ありが…
ナガノ@ Re:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) 2年遅れで、この文章を読んで泣けてしまっ…
TNサリエリ@ ふたたび、コメントありがとうございます。 cocolateさんへ 私自身、彼女の演奏に刺激…
cocolate@ Re:エレクトーンというガラパゴス 1.(06/17) 再びおじゃまします。 826askaさんのYouT…
cocolateさんへ@ コメントありがとうございます。 三年ほど前に826asukaさんのことを知り、…

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