サリエリの独り言日記

サリエリの独り言日記

2009.10.14
XML
テーマ: 古典の日(312)
カテゴリ: 文学
 このあと、夕霧の手紙をめぐって、姉弟とそこへふっとやってきた父、惟光とのやりとりが描かれます。

― としの程よりは、ざれてやありけん、「をかし」と見けり。 … ふたり、見る程に、ちゝぬし、ふと寄りきたり。恐ろしうあきれて、え引き隠さず。「なぞの文ぞ」とて、とるに、おもて赤みてゐたり。「よからぬわざしけり」と、にくめば、兄、逃げていくを、よびよせて、「誰がぞ」と、問へば、「殿の冠者の君の、しかじかのたまうて、賜へる」と、いへば、名残なくうち笑みて、
 「いかに、美しき君の御ざれ心なり。きむぢは、おなじ年なれど、いふかひなく、はかなかめるかし」
など、ほめて、母君にも見す。
 「この君達の、すこし人数に、思しぬべからましかば、おほざうの宮仕へよりは、たてまつりなまし。とのの御心おきてを見るに、見そめ給ひてん人を、御心とは、忘れ給ふまじきにこそ、いと、たのもしけれ。明石の入道の例にや、ならまし」
などいへど、みな、いそぎ立ちにたり。 ― (山岸徳平校注、岩波文庫)

 (娘の五節は)歳のわりには、マセていたのであろうか、(夕霧の文を)「ステキだわ」と見ている。 … 二人で、見ているさなかに、父殿が、不意にやって来た。(娘は)怖いやらビックリしたやらで、(手紙を)うまく隠すことも出来ない。「何の文だ」と言って、手に取るので、顔を赤くしてすくんでいる。「怪しからんことをしやがって」と、叱り飛ばすと、息子の方は、逃げていくので、呼びつけて、「誰が出したのだ」と、詰問するので、「(源氏の)殿の冠者の君(夕霧)が、しかじかおっしゃって、渡されたのです」と、答えると、(父、惟光はウソのように)打って変わって笑顔になって、
 「何とも、可愛らしい若君のお戯れであることよ。(それに引きかえ)お前さんらは、同じような歳なのに、どうしようもないくらい、頼りにならんな」
などと、(夕霧を)ほめて、母君にも(手紙を)見せる。

などといっているが、(家人は、娘の宮仕えを)皆、忙しがって立ち騒ぐばかりである。

 若かりしころの惟光を知っている私たちは、彼ならこんな考え方もするだろう、と思わず吹き出してしまうのですが、それに加えて、その家人もまた彼の性格を知りきって、誰もまともに相手をしない、というのがここのミソです。いずれにしても、全体として惟光の家の闊達な雰囲気が好く出ていて、点景ですがなかなか面白いですね。
 それにしても、有能な従者として、献身的に須磨流遇にまで源氏に仕えた結果、今は摂津の守に出世している惟光、対するにその息子と夕霧、よくみるとこの二代目二人は、同じようなことをやっているのに、いずれも親たちに比べて、もう一つパッとしない(まあ、まだ子供ということもあるのですが)。紫式部は明らかにここで、似たような情景を描いて(五節もそうでした)、時の経過を表そうとしているのですが、時が下るに連れて新たな登場人物が、だんだん小粒に見えてくるというのは、それだけ光源氏が傑出していて、比較を絶した存在であった、ということも示したかったのかもしれません。

― つづく ―





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

Last updated  2009.10.14 10:44:01
コメントを書く


【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
X

PR

×

Calendar

Archives

2026.06
2026.05
2026.04
2026.03
2026.02

Profile

TNサリエリ

TNサリエリ

Comments

TNサリエリ @ Re[1]:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) ナガノさんへ  コメントいただき、ありが…
ナガノ@ Re:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) 2年遅れで、この文章を読んで泣けてしまっ…
TNサリエリ@ ふたたび、コメントありがとうございます。 cocolateさんへ 私自身、彼女の演奏に刺激…
cocolate@ Re:エレクトーンというガラパゴス 1.(06/17) 再びおじゃまします。 826askaさんのYouT…
cocolateさんへ@ コメントありがとうございます。 三年ほど前に826asukaさんのことを知り、…

Favorite Blog

まだ登録されていません

© Rakuten Group, Inc.
X
Design a Mobile Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: