サリエリの独り言日記

サリエリの独り言日記

2009.11.18
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テーマ: 古典の日(312)
カテゴリ: 文学
― これも、徒歩よりなめり。よろしき女二人、下人どもぞ、男・女、数多かめる。馬四つ五つ引かせて、いみじう忍びやつしたれど、きよげなる男どもなどあり。法師は、せめて、こゝに宿さまほしくして、頭かきありく。いとほしけれど、又、宿り取りかへむも、さまあしく、わづらはしければ、人々は、奥に入り、外にかくしなどして、かたへは、片つ方によりぬ。軟障(ぜんじゃう)などひき隔てて、おはします。この、来る人も、恥づかしげもなし。いたく、かいひそめて、かたみに、心づかひしたり。さるは、かの、よとともに恋ひ泣く、右近なりけり。とし月にそへては、はしたなき交じらひのつきなく、身を思ひ悩みて、この御寺になむ、たびたび詣でける。 ― (山岸徳平校注、岩波文庫)

 この客人たちも、徒歩で来たようである。身分の高そうな女が二人、従う下人どもの、男女の、数も多そうである。馬を四、五匹引き連れて、事々しく目立たないようにしているが、身奇麗そうな男たちもいそうである。(例の宿の主の)法師は、ぜひとも、ここに宿を取ってほしくて、頭を掻き掻きウロウロしている。(玉鬘の一行は)すまないとは思うが、今また、宿を変えるのも、みっともなくて、面倒でもあるので、供人は奥に入り、(下人は)別の部屋に隠すなどして、あとは、部屋の片側に寄った。(姫は)軟障(障屏用の幕)などを引いて仕切って、(その内に)いらっしゃる。この、(新たにやって来た)客人も、気の置ける人ではなさそうである。とても、静かにして、お互いに、遠慮しあっていた。これこそ、あの、いつも(姫君の行方を)恋慕って泣いていた、右近なのであった。年月(紫の上に仕えるのが)長くなるにつれ、嘆かわしい(女房同士の)付き合いも果てることがなく、我が身(の行く末)を思い悩んで、この御寺には、たびたび詣出ていたのであった。

 というわけで、玉鬘と右近の奇跡の再会となるわけですが、ここで物語もようやく本編の時制と合致するわけです。ずいぶん長くもまた童話的な挿話でしたね。

 ところで「古事記」などでは初瀬寺のあたりを、「隠国(こもりく)の泊瀬(はつせ)の国」というような言いかたもしていたように、大和の国とは別の深山幽谷の奥に籠もった世界とみていたようです。確かに古代飛鳥の地から見れば、大物主神を祀った三輪山の東の背にあたり、また伊勢神宮に通じる古道筋にも当たっていて、古代地母神を想起させる観音霊場としてはうってつけであったでしょう。
 私も若いころ飛鳥をあちこち観て歩いたものですが、長谷寺はたまたま行ったのが晩秋の夕まぐれで、乙字の登廊に灯が燈された玄妙な情景は今も記憶に残っています。

 平安時代は江戸時代の「お伊勢参り」現象と同じような、「長谷寺詣で」がずいぶん盛んだったようで、都人は一生に一度は貴賎を問わず参詣したもののようです。例の「蜻蛉日記」の藤原道綱の母や「更級日記」の菅原孝標の女、はてはあの清少納言まで、長谷寺参詣の記録を残していて、紫式部も間違いなく詣でたことでしょう。
 これは都の貴人達(とくに女達)にとっては、めったに見ることのできない娑婆の光景を、その道中や門前で目にする機会であったわけで、それぞれ印象を記していますね。紫式部は実録ではなく物語の中で、このあたりのとくに色濃い印象を書き記していると思えるので、すでに先ほど出てきた門前宿の法師の皮肉な描きかた(法師の掻く頭に髪の毛はない)など、彼女の面目が出ているようです。それにしても彼女の眼は、前に「薄雲」で出てきた僧都もそうでしたが、売主坊主というか、外見偉そうに中身卑しい人間を、仮惜なく見通して描くのがうまいですね。

― つづく ―





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Last updated  2009.11.18 11:13:05
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TNサリエリ @ Re[1]:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) ナガノさんへ  コメントいただき、ありが…
ナガノ@ Re:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) 2年遅れで、この文章を読んで泣けてしまっ…
TNサリエリ@ ふたたび、コメントありがとうございます。 cocolateさんへ 私自身、彼女の演奏に刺激…
cocolate@ Re:エレクトーンというガラパゴス 1.(06/17) 再びおじゃまします。 826askaさんのYouT…
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