サリエリの独り言日記

サリエリの独り言日記

2011.01.20
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 山本七平さんの「一下級将校の見た帝国陸軍」(文春文庫)の後半に、敗走してジャングルにたてこもっている兵士たちに共通に現れた心理というか、「長期持久戦」という軍の布告に対して、山本さんの僚友が語った言葉、「一兵でも多くの米兵をここに引きつけておく限り、敵の本土進攻はそれだけおくれる。 … そうやってオレたちが命を縮めれば、家族の命はそれだけのびるんじゃ」、というような認識のしかたは、多少のかたちの変化はあっても、昭和二十年の春から夏にかけてフィリピンのジャングルで共有されていたらしいということです。
 そういえば、硫黄島の栗林中将の訓示にも、似たようなくだり(「我々がここで一日でもがんばって犠牲になれば、それだけ和平のチャンスが生まれるのだ」だったですか、まあこれは映画の科白かもしれませんが))があったような気がします。

 さて、こうした「犠牲になって生きる」という考え方について、山本さんは後段の「 … そうやってオレたちが命を縮めれば、家族の命はそれだけのびる」という理解のしかたは、軍の布告としてはありえない、とされます。

― 「自分が命を縮めるだけ家族の命がのびる」という発想、この考え方で自己を支えていく生き方は、いかなる“布告”にもその契機があったとは思えない。しかし当時の … 多くの人を、最後の土壇場でなお支えていたものは、表現は違っても、実は「犠牲になって生きる」というこの考え方であった。 ― (「一下級将校の見た帝国陸軍」、文春文庫、202頁)

 「絶対的死」という事態が現実に迫ったとき、人が今この時を生きるためのよすがとするものは、どうも我が事ではなく他者に仮託されるらしい、ということなのです。これは何も日本兵にだけ現れた心理ではなしに、例の「夜と霧」で有名なアウシュビッツを生き延びたオーストリアの心理学者V・フランクルの著作にも出て来ます。
 山本さんの本によると、

― 彼は、この収容所の中で、ガス室を前にし、自己の死を考えて苦しみに苦しむ。そして「犠牲という観点からだけ、苦しみに満ちた私の現存在が、耐え忍ぶことが可能に思われ」そこで彼は、「自分が苦しんだだけ、それだけ母が安らかに死ぬよう、自分の死が早かっただけ、母が末長く生きられるよう」と考えて、その苦痛から脱却するのである。 ― (同上)

 「犠牲死」という観点で共通するところがあるにせよ、山本さんは自身も含めて日本兵が、それを上からの訓示のような語法で理解していたのに対し、フランクル他の収容所のユダヤ人たちは自己の主体的な意志によって神と取り交わした契約、という仕方で捉えていた点で異なるとされています。
 まあそれはともかく、「家族」とか「母」とか他者に仮託しているとはいえ、ここで大事なことは、この「犠牲死」という想念は、自身の「生きたい!」という願望の倒錯した現われに他ならない、ということなのだと思うのです。


― つづく ―





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Last updated  2011.01.20 14:25:38
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ナガノ@ Re:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) 2年遅れで、この文章を読んで泣けてしまっ…
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