サリエリの独り言日記

サリエリの独り言日記

2011.12.07
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カテゴリ: 天才論
 一回性の出来事を、あとから言葉で再現するのはむつかしい。否、かりにコトバの専門家であっても、後づけの解説ならいくらでも並べることはできても、その時生じた事象や気分をあたかも詩人のように、ありありと正確に再現してみせられる人はそう多くはない。イチローはもちろんプロのアスリートであって、コトバの専門家ではないわけで、その時の気分とか体調を語ろうとマジメに構えれば構えるほど、おそろしい困難を感じてしまうのではあるまいか?というか、一つ一つの言葉を選ぶ彼の表情を見ていると、現実に事象は確かに生じた(クレメンスのカットボールをヒットした)のだから、それに対応する適切なコトバがあるはずなのに、結局喉元で詰まってついに出てこないというような、もどかしさがその表情に現れているように思えます。
 ふつうの人間なら、ごくありきたりの形容詞で済ませてしまうところ、彼はどうしても「月並み」な表現で、それを発してしまうというのがガマンできないらしい。コトバが月並みなら、自身の身体がまさしく体現して見せた「一回性の事象」もまた「月並み」に見えてしまう、ということでしょうか。こういうとき彼は黙りこくるか、茶化してしまうという反応を、よくしますね。自身を正確に表わそうとしてそれが叶わぬ場合、この二つしか選びようがないのかもしれません。

 何もイチローに限らず、こうした「一回性の事象」を適切に表現できるコトバというのは、じつはこの世に存在しないのかもしれない。言葉というのは、そもそも「事象」を一般化する(共有する)性質を持つものなので、こうした事柄を表現するにはなじまないところがあるのです。もし、「一回性の事象」に真の意味で、少しでも接近を試みるとすれば、それはむしろ回避的な「周辺からの示唆」に止まらざるを得ないかもしれない。先ほど「詩人」という言い方をしたのは、詩人は事物や事象を「コトバに置き換える」のではなく、事物や事象に「対置するようなコトバを発する」ことによって、逆にそれらの気分を示唆しようとするからです。
 だれかれのごく個人的な古い体験とは、例えば、その時耳にした(らしい)「音・音声」や、眼に映じた(らしい)「映像」、身体に刻まれた(らしい)「感触」によって、より生々しく甦るわけで、いずれも正確にコトバで置き換えることは出来ません。すべてはコトバにした瞬間、「らしい」の闇に消えてしまうのです。

 驚くべきことですが、イチローはそのあたりの「事象」の表れかたについて、自身の「身体から測る」というしかたを、いつ頃からか手に入れていたようです。しかし、それによって語られる彼のコトバが、インタビュアーや世間にとってチンプンカンプン、意味不明の景況を呈してしまうのは、ある意味しかたのないことでしょう。
 これは何も、彼が世間に対して「天の邪鬼」に構えているということではなくて、すべての事象は「自身の身体感覚」を通して、しかと嚥下しないかぎり信じ切ることが出来ないという、ある種選ばれた「創造者」だけに烙印された特性ではないか?という気がする。紫式部も趙治勲も当代世間的に常識とされる事象を、それぞれの方法でもって「素から見詰め直す(あるいは、見詰め直さざるを得ない)」という、稀有で厄介な才能に運命づけられていたのでした。
 イチローもまた、ことバッティングに関しては「素から見詰め直す」ことを、デビュー当初から続けて来たわけで、となると、それらをコトバで説明することに、いちいち困難を感じるというのは当然のことなのです。彼のバッティング「理論」は厳密に彼の身体を通して発せられているのであり、それは彼以外では代替不可能だからです。
 例によって、何だか難しい話になってしまいましたね。

 それにしても、これほどまでに自身が発するコトバに、彼がこだわらざるを得ないというのには、何やら今どきの時代的要請も働いているような気がする。それこそが「新自由主義」が称揚する「自律性」「自己責任」に基づく「単独主義」ではなかったか?







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Last updated  2011.12.07 11:23:34
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TNサリエリ @ Re[1]:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) ナガノさんへ  コメントいただき、ありが…
ナガノ@ Re:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) 2年遅れで、この文章を読んで泣けてしまっ…
TNサリエリ@ ふたたび、コメントありがとうございます。 cocolateさんへ 私自身、彼女の演奏に刺激…
cocolate@ Re:エレクトーンというガラパゴス 1.(06/17) 再びおじゃまします。 826askaさんのYouT…
cocolateさんへ@ コメントありがとうございます。 三年ほど前に826asukaさんのことを知り、…

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