サリエリの独り言日記

サリエリの独り言日記

2016.05.19
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カテゴリ: クラシック
826asukaさんについて 続き

 じつは私も若い頃はクラシック音楽の趣味と並行して、かなりエレキサウンドにも傾倒して、ずいぶんブリティッシュ系のロックバンド(クィーンは今もお気に入り)を聴いていたものでした。電子系といえば同じころ冨田勲やキタローのシンセサイザーが花盛りでしたが、私はどちらかというと彼らの電子音には否定的でした。要は二、三曲彼らの音楽を聴くと、どれも皆「同じに聴こえてしまう」ということです。新規な電子音を響かせながらも、その曲作りはいたって保守的というか、従来どおりの技法に添っているというのが見え見えで、まあマーケティングの都合もあったのでしょうが、これでは未来はなかろうというのが当時の感想だったのです。

 じつはそれを遡る20年ほど前(1950年代ぐらい)から、クラシック音楽界では電子音を用いたコンポーズがけっこう盛んに行われていたのですが、結局試みばかりに終ってしまい、今でも演奏されるような「古典」は生まれませんでした。むしろ20世紀初頭ごろから始まった音楽技法の展開(12音技法とか無調性音楽など)の成れの果てが、発展というよりも音楽の解体という形で、電子音楽に集約されてしまったと言ってもいいのではないか。
 というわけで、現代音楽における電子音楽の流行というのは、案外速く廃れてしまったように思う(私見ですよ)。もちろんそれで電子音楽がすっかり消えてしまったというわけではなくて、いわば「音源の一つ」としてあちこちに(ジャズやロックや映画音楽のサウンドに参加するという形で)使われるという流れだったと思います。いずれにしても電子音が主体の音楽が音楽シーンの表に出て来ることはなかった。

 その根本原因は結局のところやはり、その「無機質な音」=「非身体性」ということになるでしょう。シンセサイザーのキーは誰が押しても、厳密に電子的には同一なのです。今回826asukaさん以外にもyoutubeで拾える範囲のキーボードを聴いてみたのですが、やはり面白くない。その無機質性から来る、いかにも乾いた軽い音質は、重厚なクラシックをアナログで聴いている耳には、到底受け入れがたい種類のものなのです。
 で、その傾向はとくにエレクトーンの演奏で、露わになっているような気がしてしかたがない。ちょっとキツイかも知れませんが、これでは天気予報とか野球場のBGMみたいな、ごく手軽な場面での音源でしか認知されないというか、居場所がないのではないか。電子楽器が単体でライブを行い、聴衆を集めるというのは、ヴァイオリンやピアノやフルートなどとは違って、永遠に来ないのではないか、という虚脱感に見舞われる仕儀となるのです(まあ冨田やキタローのような例外はあったとしても)。

 今回もう一つ、一連の電子楽器の音楽を聴いていて感じたことは、演奏者以上に楽曲の編曲を行ったミュージシャンもしくは音楽技術者の存在感が、非常に大きいということです。エレクトーンの譜面は見たことがないので、いい加減なことは言えませんが、ごく大ざっぱに例えば、リズムセクションはあらかじめ組み込んであるとか、音源の選定、効果音の挿入などは全部前もって作ってあって、演奏が始まれば自動的に切り替えてくれるらしい。もちろん手馴れた奏者であれば、それらをはずして自ら編曲するということも多分可能なのではなのでしょうが、そうなると理屈上は、逆に編曲にまめに手を入れていけば、演奏者オリジナルな音楽を「自動演奏」で行うことも可能だ、ということになってしまうでしょう(たぶん)。
 となれば、こんな場合「演奏者とは何やねん」、あるいは「演奏とは何やねん」ということになってしまう。「演奏者のいない演奏会に、聴衆は集まるだろうか」ということなのです。

 いささか話が飛躍しています。大事なのは、それでも今回の826asukaさんの動画は、私にとって大変面白かった。これだけ否定的な話を並べてもなおかつ、彼女の演奏からは、例の「歌心」が確かに聴こえるのです。さしあたって彼女の演奏に特徴的なのは、譜面に対して非常に謙虚だということでしょう。ストイックすぎるんじゃないの、という場面も時折りありますが、私などむしろそちらに好感を持ってしまう。


 しかし、エレクトーンにかぎらず電子楽器の持つアポリアというのは、上のような厳密性はなくて、まさしくその「何でも出来てしまう」という際限のなさそのものにあるのであって、その自在さは演奏とか指揮とか編曲とか、果ては作曲の部面に到るまで(AIが自動作曲し演奏するという時代も遠からず来そうです)、逆に音楽界全体に「自由」という不自由を強いるという結果を招きかねないのではないか。

 エレクトーン(これはヤマハ楽器の商標名ですよね)と言わず、電子楽器が単体としての楽器としては、一般に少しも認知されてないというのは、今だに楽器の説明が必ず入る、というところに現れています。早い話ヴァイオリンとかピアノといった楽器は、絶対そうした紹介のされかたはしない。いきなり演奏、つまり音楽が始まるわけで、その楽器の仕組みをいちいち詮索する人はいないのです。楽器の説明は「音楽の楽しみ」とは別の話でしょう。
 「しかし、それをしないと誰にも分ってもらえない(売れない)」という反論は、少しおかしい。エレクトーンって私の子供時代(40年以上前!?)からあって、ヤマハの音楽教室といえばピアノかエレクトーンかというのは、誰でも知っていたでしょう。してみれば、これはマーケティングの失敗というか、過誤のせいではないか?と、これはよそさんの会社の方針だから、どうのこうの言ってもしかたがないのですが、市場を刺激するために新型の性能ばかりを強調するというのは、ちょっと違うんじゃないのという気がする。

 要は、誰もが「心を打たれる」優れた演奏者が現れれば、状況は一変するのです。作曲家が霊感を感じ譜面に託した「切迫する何ものか」を、聴き手に確実に届けてくれる、そういう多量に「歌心」を持った演奏者が一人現れれば、楽器の仕組みのことなど誰も詮索しない。シンプルに「音楽の楽しみ」を味わえるのです。
 という意味で、「音楽教室」という日本独特の「おけいこごと」というシステムもまた、そこで一体何を「育もう」としていたのか、いたって不分明になって来ますね。少なくとも上に触れたような意味での、「歌心」の醸成という面はあまり意識されなかったのではないかしらん。あまり言いたくはないですが、ほかの「おけいこごと」教室と同じく、ごく安っぽい市場原理で運営されていたのではないか?

 「しかしそんなもの、持って生まれたもので、教育で出来るもんじゃない」という声が返ってきそうですが、私はそうは思わない。確かに手指が恐ろしく達者で、何でも弾けてしまうピアニストやヴァイオリニストは何人もいますが、真に聴き手の心に届く演奏をする人はそんなにいません。逆に自身の「歌心」の不足に悩んで、四苦八苦しているプロの演奏家は山といるでしょう。
 音楽のミューズはいつも「そこにある」のではなく、ごく気まぐれに舞い降りたり、飛び去ったりする。音楽とは関係ないですが、イチローが四十歳を越えても現役のアスリートであるのは、打撃の神様もまたはなはだ気まぐれであることを彼はよく知っていて、だからこそ降りて来たら確実に受信出来るように、あきれるほどの「準備」を怠らなかったからでしょう。小澤征爾が今だに世界の一流オーケストラから招聘されるのは、彼が楽員の「歌心」を呼び起こすのに秀でているからです。考えてみればクラシック音楽なんて、19世紀から20世紀前半のたかだか200年足らずの間に出来た音楽で、レパートリーは案外限られている。それらを繰り返し、ああでもないこうでもないと演奏していたら、やはり手垢もつくし痩せても来るでしょう。

 面白いのは優れた指揮者とか演奏家というのは、いわばそうした使い古された楽曲を「あたかも今そこで生まれつつある」かのように、新鮮に蘇らせることの出来る魔術師なのです。ベルリンフィルとかウィーンフィルなんて、技術がどうのこうのというオーケストラではありません。それでも彼らは楽員全員に「歌心」を招来させ、それを聴衆(他者)に届けるということが、かなりの難物であることをよく知っているのです。
 小澤征爾のタングルウッドや松本での有名な「音楽塾」の記録フィルムを観ていると、彼が指し示そうとしているのは、「歌心」の刺激と醸成という一点に絞られている、と言っていいのではないかと思ってしまう。

 まあ、よそさんのことですから、余計な話ですけど、ヤマハだって音楽の真の在り処を知っているなら(知っているでしょう)、人の心を打つ音楽家をエレクトーンで一人でも育てていたら、この楽器に対する世間の評価は、ずいぶん変ったんじゃないのという気がしてしかたがない。
 話がずいぶん長くなりました。826asukaさんの演奏を聴いていて、そんなことを楽しく考えました。





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Last updated  2016.05.20 00:18:22
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TNサリエリ @ Re[1]:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) ナガノさんへ  コメントいただき、ありが…
ナガノ@ Re:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) 2年遅れで、この文章を読んで泣けてしまっ…
TNサリエリ@ ふたたび、コメントありがとうございます。 cocolateさんへ 私自身、彼女の演奏に刺激…
cocolate@ Re:エレクトーンというガラパゴス 1.(06/17) 再びおじゃまします。 826askaさんのYouT…
cocolateさんへ@ コメントありがとうございます。 三年ほど前に826asukaさんのことを知り、…

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