サリエリの独り言日記

サリエリの独り言日記

2016.06.18
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カテゴリ: クラシック
「音楽」の在りか


 厄介というか面白いのは、送り手側がそれにどこまで誠心誠意を傾けても、受け手の心に届かないことは普通にあるということで、早い話、隣の家の音楽は雑音であることが多い。どころか、同じお気に入りの音楽であっても、聴き手の時々の気分で、しばしば印象は変ってしまうものです。
 大事なのは、それでも作曲家や編曲者や演奏家は、「聴き手と音楽仲間への敬意と配慮を怠ってはならない」ということで、それは結局相手のパフォーマンスを最大限引き出すことにつながる。だから少し話が逸れるのですが、私は自作自演とか編曲によるカバーとか、日本と言わず世界のミュージック・シーンで普通に行われている活動には、わりと慎重な見かたをしているのです(してはいけない、ということじゃないですよ)。

 ごく個人的な好みと思っていただいてけっこうですが、クラシック音楽家の原曲スコアに払う敬意は、並大抵のものじゃない。それはもうある意味、古典学者の訓詁学的詮索にも似て、「ああでもない、こうでもない」という探求を繰り返す。「なぜモーツァルトは、ここでこの和音を選択したのか?」「ベートーヴェンはなぜ、ここでトランペットを使わなかったのか?」といった疑問符は、数百年前の音楽を扱う指揮者にとっては日常茶飯なのでしょうが、かといってカラヤンや小澤といえども、原曲スコアをいじるようなことは絶対しない。こうしたスコアに対するストイックな姿勢は、案外新しくて第二次大戦後ぐらいから始まったのではないかしらん。
 A・トスカニーニというイタリア生まれの伝説的指揮者がいて、演奏家による無用な感情表現を厳しく退け、素っ気ないくらい譜面に忠実な即物的演奏を行って、一世を風靡したものでした。古典にまとわりついた厚い垢を剥ぎ落とし、まるで「今そこで、まさしく生成しつつあるかのような」音楽を聴かせたのです。考えてみれば、音楽というのが「時間の芸術」であるとすれば、この「生成感」というのは生命線といっていい。世界大戦の荒廃を目の当たりにするにつけ、ヨーロッパはそれまでの自身の精神の見直しと、新たな生成を必要としたのです。
 カラヤンはデビュー当時、トスカニーニの後継として登場したので、演奏スタイルはその後ずいぶん変遷しましたが、原曲スコアに対する姿勢は変わらなかったのです。彼は壮年期からヨーロッパクラシック界のほとんど(ベルリン・フィル、ウィーン・フィル、パリ管弦楽団、ミラノ・スカラ座など)を牛耳る形になり、「帝王」とも言われてその手法や演奏に異議を立てるファンはけっこう多かったのですが、私の見立てでは結局カラヤンはそうせざるを得なかったというか、他にそれを引き受けられる音楽家がいなかったというのが現実ではなかったのか?戦後も名指揮者は数多く登場しましたが、彼のようにヨーロッパの精神全体を体現するような指揮者は現れなかったのです。目下並行して考えている「やっぱり、カラヤンが好き」は、これがテーマです。

 と、まあずいぶんザックリとクラシック音楽界の話をしてしまいましたが、この例一つを取るにつけ、ヨーロッパ・クラシックというのが、かなり侮り難いというか、深々とした歴史と簡単には動かし難い伝統を背負っていることが分るでしょう。今どきの世界のミュージック・シーンは、本人たちが意識するしないに関わらず、深くこの歴史と伝統の書法に釘付けされているので、ごく手軽に原曲スコアに手をつけるとかアドリブを入れるというのは、私には想像もつかない。
 「それはクラシックの話でしょ」と言われ「ジャズとかロックなら、アドリブとか自作自演なんか、当たり前じゃん」と押し倒されてしまいそうですが、これまたブーング覚悟で言うのですが、「ではそうして作られたアドリブやら自作自演の作品が、どこまで受け手の心の奥にまで届いているのか」と問えば、少し疑問符がつくと私は思っているのです。即興に関して言うと、どんな一流のジャズ・ミュージシャンでも、毎回まったく異なった真に創造的なアドリブを行うことは不可能で、何回も聴いていると大体どう出てくるか分ってしまう。「音楽のミューズ」というのは、そうしょっちゅう舞い降りてくるわけではなくて、ほとんど「奇跡的な邂逅」でしか起り得ない事態なのです。
 同じことはコンポーズの世界にもあって、モーツァルトやマーラーなど、「こう書いてやろう」とか「こう聴かせてやろう」といった「我意」が、まったく感じられない。むしろ「こう書かざるを得なかった」「私は確かにこう聴いたから、こう書き記すしかなかった」音楽なのです。日本といわず、今どきの世界のミュージック・シーンで、そういうふうにして生み出された音楽というのは、果たしてどれほどあるのでしょうか?





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Last updated  2016.06.18 16:37:44
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TNサリエリ @ Re[1]:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) ナガノさんへ  コメントいただき、ありが…
ナガノ@ Re:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) 2年遅れで、この文章を読んで泣けてしまっ…
TNサリエリ@ ふたたび、コメントありがとうございます。 cocolateさんへ 私自身、彼女の演奏に刺激…
cocolate@ Re:エレクトーンというガラパゴス 1.(06/17) 再びおじゃまします。 826askaさんのYouT…
cocolateさんへ@ コメントありがとうございます。 三年ほど前に826asukaさんのことを知り、…

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