サリエリの独り言日記

サリエリの独り言日記

2017.06.21
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カテゴリ: エレクトーンの日
大地の歌

 それにしてもバーンスタイン、ウィーンフィルの「大地の歌」、冒頭だけでなく久しぶりに 全曲 を聴くと、こんなに洗練された綺麗な音だったかな、と思ってしまいます。私が意を決してこのLPを買ったのが、確か高校2年ぐらいの時、進路問題で何かと鬱屈した気分の反動で、受験とは関係のない西郷信綱の「古事記の世界」や山本七平の「日本人とユダヤ人」、あるいはR・ギランの「第三の大国」などを読みふけり、その合間にこの「大地の歌」とシベリウスの「交響曲第7番」を何回聴いたか分りません(親は大変だったと思いますよ)。私の高校時代と浪人の一年間は、これらの字句と音楽の響きに満たされているのです。
 その記憶のままの「大地の歌」、第一楽章「大地の哀愁に寄せる酒の歌」は、J・キングのいささか粗野な歌声に呼応した、荒々しいホルンの咆哮(これ、どうやら猿の叫喚を模しているのですよね)や弦楽器群のドライブ感がすごく、ウィーンフィルでもこんな演奏をするんだと思ったものでした。開始1分45秒ぐらいから何回か繰り返される、
― Dunkel ist das Leben, ist der Tod.― (生は暗く、死もまた暗い)
という詩句が、一曲全体の雰囲気を支配し、私にとっては受験期の鬱屈した気分を思い出させます。

 この原詩は、唐の李白による「悲歌行」という漢詩なのですが、
―悲しいかな
 悲しいかな

 我に聽け一曲悲來の吟
 悲來吟せずまた笑はず
 天下に人我が心を知るもの無く
 君に敷斗の酒有り
 我に三尺の琴有り…
という調子で、酒と音曲(ついでに女つき)というのは、いかにも盛唐時代のデカダンの巨人らしく、この詩人もファンでした。

 李白というのは、ままならぬ現世を酒と歌と女で笑い飛ばすような、ダイナミックで無頼肌の天才詩人で、例えば後に現れる屈原のような厭世感はありません。だから彼の詠う「虚無感」というのは、江戸時代で言う「浮世」と似た楽天主義が根底にあって、安心して浸っていられるのでした(当時酒も女も、もちろん知らなかったくせに)。
 マーラーの世界観は、19世紀末ヨーロッパで流行っていた東洋思想やジャポニズムの流れに添ったもので、ショーペンハウエルや二―チェ的な厭世主義の影響があったでしょう。しかし「大地の歌」は全体として、どうしようもない厭世観に陥っていくというよりは、虚無的でありながら何となく安心していられる、そういう空気を私は感じます。

 この音楽、マーラーは第1、3、5楽章をテノール、第2、4、6をアルトないしバリトンで、という指定をしていますが、なぜ偶数楽章をアルトかバリトンのどちらかとしたのか、よく分りませんね。一般には男声女声の変化をつけるためにアルトを使うことが多いそうですが、この盤ではバリトンのF‐ディースカウを起用しています(後のイスラエルフィルとの競演ではアルトのK・ルートウィッヒを使ってますね)。さて、どちらが相応しいのかどうか?
 「そんなの好みじゃん」と言われそうですが、ことマーラーに関しては、あまり簡単に片付けるわけにはいかないでしょう。F‐ディースカウという人、非常に知的に完成された歌い手として有名で、このLPでも破綻寸前という部分は少しもない。しかしこれは曲種によっては弱点ともなり得るので、とくに第4楽章「美について」など、彼らしく完璧に歌われても、ちっともこちらの胸に届いてこない、ということもあるのです。

 しかし長大な最終第6楽章「告別」となると、これはやはりバリトンでなきゃ、とも思える。友人との死の別れを歌うとなると、原詩(前半部分が孟浩然の「宿業師山房期丁大不至」、後半部分が王維の「送別」)に則っても男声だろうということになってくるのです。してみれば、そもそも二人で交代ということ自体に無理があるのかもしれませんね。曲想からいうと第2、4楽章はアルト、最終章はバリトンという3人編成で、ちょうど収まりが良いのではないか知らん。58分10秒ぐらいから始まる友人との決別の歌のあと、マーラー自身が新たに付け加えた、

Allüberall und ewig Blauen licht die Fernen!
Ewig... ewig..―
(それでも)愛しき大地には春が来て、そこかしこに花は咲く。
緑は木々を覆い尽くし 永遠にはるか彼方まで 青々と輝き渡るのだ。
永遠に。永遠に…





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Last updated  2017.06.21 17:19:38
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TNサリエリ @ Re[1]:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) ナガノさんへ  コメントいただき、ありが…
ナガノ@ Re:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) 2年遅れで、この文章を読んで泣けてしまっ…
TNサリエリ@ ふたたび、コメントありがとうございます。 cocolateさんへ 私自身、彼女の演奏に刺激…
cocolate@ Re:エレクトーンというガラパゴス 1.(06/17) 再びおじゃまします。 826askaさんのYouT…
cocolateさんへ@ コメントありがとうございます。 三年ほど前に826asukaさんのことを知り、…

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