サリエリの独り言日記

サリエリの独り言日記

2020.07.15
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カテゴリ: エレクトーンの日
波形

 美しいメロディー、見事なハーモニー、グルーヴ感あふれるリズムというのが、電子楽器でもいくらでも可能だということを、私たちはasukaさん他の電子楽器奏者で知ったわけですが、さわさりながら、それらを発する音源そのものの質感だの量感というのが、クラシックファンとしての私だけではないと思いますが、どうしても気になるというか、潤いに乏しいのではないか、という憾みが残るのです。

 昔、新幹線が走り始めたころ、案内のチャイムを、当時代表的な現代音楽の作曲家の一人とされた黛敏郎に委嘱したところが、音源が電子音であるうえに、すこぶる現代的な無調整のフレーズだったので、乗客その他から「気色悪い」という評判が立ち、すぐ別の音楽に切り変えたという話がありました。その時の黛の「私はメロディー・メーカーじゃないので」というコメントは、いかにも現代音楽家としての矜持を示していて、何となく納得させられたものですが、さて今どきの音楽シーンで同じ言葉が通用するのかどうか?
 この話で、今の私が面白いと思うのは、乗客その他(おそらく乗務員でしょう)の「気色悪い」という感想なのでした。電子音、無音階、無調整という、いわば20世紀現代音楽の基本ツールというのは、本質的に人間の耳朶になじまないというか、不快にさせる要素があったのではないか?早い話、テポドン発射の時に流された警報音は、何となくこれに近かったような気もする。

 少し、話が逸れました。かつて、絶対分かりっこない現代音楽を、気難しい顔をして聴いていた私には、電子音とはオシロ・スコープで、きれいに整序された波形を描く音、ないしそれらの組み合わせでできた音という先入観が、大いにあったのです。実際のところ、エレクトーンにかぎらず電子楽器全般が、そうした整序されたさまざまな音の波形を加工して、いかに現実の楽器音に近づけていくかというしかたで、アプローチをしていたように思う(想像ですよ)。
 結果、出来上がった音というのが、確かに言われてみれば、木管の(ような)弦楽の(ような)響きであったにしても、それよりも何よりも一聴して最初に電子音という印象が残るというのは、皮肉なことではありました。それかあらぬか、「では、いっそのこと電子音そのものを、音源の前面に押し出したほうが手っ取り早い」とばかり、富田さんや喜太郎さんがシンセサイザーを用いた音楽で一世を風靡してました(ヴァンゲリスという映画「ブレード・ランナー」の作曲者も、この後継になりますね)。
 しかし、電子音そのものが新鮮に響く期間というのは、そんなに続かないのであって、街中にあふれ出れば、それらはたちまち飽きられてしまうのです。今や映画館はもちろん、テレビCMや駅中にもこの種の音響は充満しています。

 肝心なことは、電子音であれアナログの自然音であれ、音楽そのものの本質的な魅力とは何か、何が人をチャームするのか、を絶えず問い直す姿勢がなければ、この種の音楽や楽器は早晩飽きられてしまうということでしょう。大事なことは、今に伝わる西洋音楽や楽器、あるい邦楽や和楽器その他には、今に残る画然とした「歴史」があるということです。
 それは技術的理論的な話である以前に、ごくシンプルに「耳に心地好い」から、あるいはそうした「心地好さ」とは何か、という問い直しが絶えず行われてきたから、今に残っているということではないか。今に残り、なお私たちをチャームして止まないのには、私たちが意識している以上に、何やら厳然とした「理由」があるのだと思うのです。そうしたチャームの歴史というか、過去の人々の営みを甘く見てはいけない。


 とすれば、結局私たちの周囲には、オシロ・スコープでは包み切れない世界が、広大に横たわっているということを、もう一度知るしかないということでしょう。考えてみれば、音叉のような純音が描くきれいな波形と違って、例えば雑味満載のヴァイオリンの擦過音が描く波形など、グラフに現れた波形以上に、そこからこぼれ落ちた音のほうが、はるかに多いのではないか?測り切れない世界を、測り切れる波形で包み込もうとするのは、いかんせん、ちょっと無理筋という感じがあるのです。
 で、それかあらぬか、エレクトーンはいつごろからか、その音源を電子音の加工でなく、自然音の集積加工に切り替えて、逆の発想から新しい楽器の提案を行ってきたようですね(想像ですよ)。その色合いはSTAGEA シリーズでより鮮明になってきたというか、世界中の一流ミュージシャンの音源を集積加工してパッケージしているみたい。
 しかし、この手法は何もヤマハの専売特許ではなくて、ドイツあたりの電子オルガンでもやってるらしい。自然音の再現性という点では、いかにもドイツらしく、もうほとんど生のオーケストラと変わりがないという感じ。WERSIというメーカーの デモビデオ らしきものを聴いてみてください。





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Last updated  2020.07.15 09:19:36
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TNサリエリ @ Re[1]:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) ナガノさんへ  コメントいただき、ありが…
ナガノ@ Re:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) 2年遅れで、この文章を読んで泣けてしまっ…
TNサリエリ@ ふたたび、コメントありがとうございます。 cocolateさんへ 私自身、彼女の演奏に刺激…
cocolate@ Re:エレクトーンというガラパゴス 1.(06/17) 再びおじゃまします。 826askaさんのYouT…
cocolateさんへ@ コメントありがとうございます。 三年ほど前に826asukaさんのことを知り、…

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