深秘の華苑

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黒左右衛門

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2005.06.24
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上司様から愛の告白を受けてしまった。

此の上司と云うのは現在直属の上司となっている、あたしより4歳年上の人。
仕事に関しては真剣だし其れなりに知識もあるので真面目な話もちゃんとしているが、彼の基本がお祭り人間であるが故に、そして彼のハイテンションに付いて行けるのはあたし位であるが故に、二人で莫迦な事をしている事が多く結構仲良しだった。

で、今日も普段と同じく真剣と馬鹿が共存する空間で一緒だった。
「大部屋」と呼んでいる実験室では常にラボのメンバーがうろついているものだが偶々諸般の事情で大部屋内に人が少なかった昼下がり、あたしと彼は洗い場で並んで溜まっていた洗い物を処理しつつ、しょうもない話を繰り返していた。
ちなみに此の時、「あれ、俺の頭ん中で『はじめ人間ギャートルズ』の歌が流れてる。黒ちゃん鼻歌歌っていたでしょ」「歌ってませんって。そんなんフルコーラスで歌えるの轟さん(仮名)だけだし。あたしギャートルズの記憶ちゅうたらマンモスの肉食ってた事位しかあらへんもん」「え?一緒の世代やん。若い振りしやんといて」「一緒にしないで下さい私20代ですので」「もうじき30やろ?ニヤリーイコールやん」みたいな遣りとりを延々としていた。実際今日あたしの頭の中を流れていたのは チソコ音頭 (お下品でごめんなさい)だったのだけど、流石に チソコ音頭 とは云えなかった。ちゅうか何故今日のテーマが チソコ音頭 なのか?と己に問い質したい気がする。

「ちゅうかさ~。黒ちゃん最近髪型変えたよね」
と振ってきた。彼が其の手の事を云うのは非常に珍しいので驚いた。
「変えましたけど、・・・っていうか驚かさないで下さいよ。急に何云っているんすか」
「・・・・いや、可愛いなと思って。良いよねぇ、俺こう云うの好きなん。めっちゃ気になる」
はぁ? ですよはぁ?。本当に普段色気のある内容は話していない(寧ろ避けている)のに何故其の話題?みたいな。
「にゃはは愛の告白っすか!?大胆な!止めて下さいよぅ昼間っから」
取り敢えず何時もの調子で返した。通常なら其処で
「オーイェ!ラブですわっ!!人類愛サイコー!」
的に返され、更にあたしが混ぜ返すのだが、此の時はいやに真面目な表情を浮かべ、暫くの沈黙の後小声で返された。
「本気なんだけど。愛の告白」
「え?」(『は?』 だったかもしれない)

「結構真剣に云ってみちゃうと俺随分前から黒ちゃん好きなんだけど。付き合うとか、駄目?」
「・・・轟さん厭やわ。一寸突っ込めやん。もう少しツッコみ易いお題にしてくれやんと」
笑いに逃げる方向で答えてみた。
「いやだからマジだし」
思わず試験管を落としそうになったっちゅうの。

間違っても勤務中に告白なんてナシだろと思う。
其の上、御自身は随分若い時に結婚している訳で奥さんと仲良い話は良く聞く訳で。
抑も今迄貴方はそう云う対象じゃなかったし。
抑もあたし達の間に色気があった事は無かったし。
今迄結構仲良くやっているとあたしは思っていたけど、貴方にはシタゴコロが在ったのかしらとかつい思っちゃうょ。
「・・・ちゅうか其れじゃあW不倫になりますわな」
取り敢えず其の程度しか返せなかった。
「そうやねぇ。やっぱり駄目なん?俺は駄目?」
・・・。ワタシ貴方と同じ管理職の方と現在進行形で不倫してますが。
某さんと穴兄弟になりたいですか?
とは云えないがそんな気持ちになった。
器具を洗う手は止まり、水だけが流れていた。

今の不倫相手との始まりは本当に成り行きだった。
其の場の勢いで身体の関係が成立しちゃって、そして今、あたしには彼への感情も伴っている。彼も、彼の言葉を信用したらあたしへの感情はあるそうだ。
あたしと不倫相手とは結局性欲先行の関係だったのに比べたら、先ず感情を示してくれた轟さんは不倫相手よりはマシかもしれない。
でも、結局二人とも既婚者であたしも既婚者な訳で。
どいつもこいつも軒並みまともでは無いのは同じだ。
あたしの周りには此の手の人間しか居ないのだろうか。
其れはきっと、あたし自身がすっかりまともではないが故で、あたしがこんなんだから同類項を呼び寄せてしまうのだろう。
と、其処迄思うと可成りがっかりした。
が、コンマ何秒かで抱いたそんな思いは轟さんに云える筈も無く。
「駄目っちゅうか倫理上アウトでしょ。
 あたしだって轟さんの事嫌いじゃないけど、あくまで上司としてですから」
既に自分が「倫理上アウト」な事を実行中なのをしっかり棚上げして(否云えないし)云ってみた。
「うん。確かに倫理上アウトやなぁ」
「でしょ?」
「あかんかなぁ。俺旦那に勝てへん?」
「あかんでしょ」(旦那に勝つ/勝てない辺りには触れない方向で)
「う~ん。そやね」
そう云って、暫く上司は沈黙した。視線を実験器具から彼に移すと、困った表情を浮かべた轟さんが居た。ややしてから小さく笑った。
「今云った事、忘れてや。
 今迄どおり、阿呆な上司と不出来な部下と云う事で」
そう云うと、轟さんは再び器具を洗い始めた。
「・・・済みません」
何故其処で謝ったのか良く分からないが、此の時つい謝ってしまった。

以後、轟さんは何事も無かった様に普段と変わらぬ態度であたしと接してくれた。其の点は迚も有難いけど、でもなぁ。


今後非常にやりにくい。


・・・・増々転職への躊躇が無くなってきた。








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Last updated  2005.06.25 11:45:43
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