ライフキャリア総研★主筆の部屋

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2003年11月21日
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 患者(patient)の語源は「耐える人」「辛抱強い人」という意味だそうですが、欧米ではいまや「苦しまない医療」「痛くない医療」が当たり前で、治療中の患者のQOL(生活の質)向上について最大限の配慮がなされています。それに比べるとわがニッポンでは……。

「以前は夜中に辛さのあまり“ころしてくれー”という叫び声が病棟のあちこちで聞こえたものだけれども、最近はないからだいぶマシになったんじゃない?」と、がん治療のドクターは言っているそうですが、マシどころか、疼痛治療では先進国中最低レベルにあるのだそうです。

 がん治療には熱心に取り組むけれども、痛みの緩和については、「おまけのサービス」ぐらいにしか考えていない医師が多いのが現状で、知識もなければ、やる気もないと。これじゃ、患者はたまりません。

 痛いのはだれだって嫌ですよね。いまは健康でピンピンしているからといって、他人事じゃありません。

 身内にがん患者がいない人はご存知ないかもしれませんが、がんの末期には激しい痛みが伴います。「痛みに苦しむがん患者の69%が自殺を考えたことがある」というほどの痛みで、「痛みを訴えるがん患者のうち20%の患者の痛みは1カ所で、80%の患者では2カ所かそれ以上。そのうち30%の患者では痛みは4カ所またはそれ以上」であるというから凄絶です。

 痛みによって、動けない、食欲がない、不安やイライラに苦しめられる、眠れないといった影響が出てきて、人間らしい日常生活が破壊されてしまう。そこで、モルヒネなどの麻薬を利用した痛みの緩和が必要になってきます。

 身体的な痛みばかりではありません。精神的苦痛、ひとり暮らしであるとか経済的事情があるといった問題からくる社会的苦痛、どうして私はこんな痛い思いまでして生きねばならないのかと、私の人生に何の意味があるのかと疑い出すような霊的苦痛(spiritual pain)もあいまって、がんの痛みは全人的苦痛であると言われます。

 1986年に WHO方式がん疼痛治療法 という世界標準が発表され、これを採り入れた先進諸国では疼痛コントロールで80%以上の成績を上げています。イギリスは100%という報告です。しかし、日本の現状ではがんセンターですら約60%、大学病院では50%未満という数字で、先進国の中では最低となっています。

 なぜ、こういう「救われない」数字になっているのか。

 がん患者が痛みを訴えるとき、がん疼痛治療の知識のない医師(=非常に多い)は、だいたい2とおりの対処法をとろうとするそうです。

1)患者の意識がハッキリしていると痛むので、麻薬以外の薬剤を使ってもうろう状態にして痛みを感じないようにさせてしまう。

2)「最後は麻薬を使うしかありませんが、そうすると、麻薬中毒になり、多くの量を使ってもだんだん効かなくなり、そのうちに意識がなくなり、結果として命を縮めてしまいます。それでも、痛みが取れるならいいですか?」と前置きして、緩和ケアに詳しい麻酔医に引き継ぐ。

 後者のカッコの中に書かれていることは、全て誤解であるといいます。患者や家族はもちろん、医師などの医療従事者までもがこの誤解を持っていることが、「先進国中最低」という結果をもたらした最大の原因と言えるようです。WHO方式がん疼痛治療を正しく行えば、麻薬中毒になることもなければ、一定の使用量で痛みを抑えることができ、意識を喪うこともないと。しかし、そのことを熟知している医師があまりにも少ないのだそうです。

 薬剤のプロである薬剤師や、患者のベッドサイドで常に痛みの訴えに耳を傾けている看護師のほうが、むしろがん疼痛治療についての知識や向学心がまさっているため、痛みの治療チームには薬剤師の参加が不可欠であり、彼らの薬剤に対する専門的でニュートラルな意見がぜひとも必要とのこと。医師は自分の好みや先輩からの受け売りで、薬に対する恣意的なイメージをもって対処しているという恐ろしい話も出ました。薬は薬のプロに聞けと。

 しかし、「麻薬」というレッテルを貼られて行政から厳しく使用を制限されているモルヒネなどの薬剤は、管理および取り扱いが非常に煩雑であり、「金庫番」の薬剤部からも、実際に点滴や注射を行う看護師からも、抵抗を受けることが少なくないそうです。

 実際に麻薬で緩和ケアを行う際は、朝と夜に何十㎎ずつというように、規則的に一定量を投与して長時間ゆっくりと痛みの緩和効果が持続することをねらいつつ、それでも起きてくる激痛を抑えるのに「レスキュー」といって、「頓服」的に使用することもあります。

 夜間、痛みをこらえかねた患者さんがナースコールをして、「レスキューをください」と訴えた場合、レスキューは病棟内の鍵つきの引き出し金庫に厳重に保存され、その鍵はリーダーナースだけが所持しているため、院内放送でリーダーナースを呼び出して鍵を開けてもらわなければなりません。もしも病棟内の金庫に「レスキュー」がなかった場合は、印鑑と医師の処方箋をもって薬剤部に行き、薬剤部の金庫を開けてもらうことになります。

 そうやってようやく手に入れた「レスキュー」を使うときは、看護師2人1組のペアで行うルールで、指示書と照らし合わせながら、「はい、5㎎確認しました」などと言いながら量を測って使用します。

 しかし、夜勤のナースは多忙をきわめ、1人あたり30人ぐらいの患者さんを担当していますから、こういった煩雑な作業を冷静に落ち着いて行う余裕はほとんどありません。あわてて麻薬のアンプルを割ってしまうということもよくあるそうです。

 万一、アンプルを破損したりは事故報告書・始末書を書かねばなりませんし、薬剤をこぼしてしまったら看護師長にすぐ報告しなければなりません。また、麻薬を準備し終えた段階で、患者さんが「もう痛みが引いたから要らない」と言ったら、使用変更届をつくって麻薬を元に戻しておかねばならないのです。

 このような厳重な管理は、麻薬が病院から流出し、中毒患者や犯罪者の手に渡ることを当局が恐れているからだそうです。しかし、覚せい剤がらみの犯罪件数は増えているのに比べ、それ以外の麻薬がらみの犯罪件数は、がん疼痛治療のために麻薬の輸入量・使用量が増えているにもかかわらず、ほとんど増えていないという現実があります。それは、「管理がうまくいっているから」と当局は考えるのでしょうが、そう言い切ってしまうとき、疼痛を一刻も早く解決してほしいと願うがん患者は置き去りにされています。

「当局」という書き方をしましたが、管轄省庁が一元的に行っているわけではなく、各都道府県や市町村がバラバラに対処しているのが実態で、「もっと手続きを厳重にして、麻薬を使いにくくしろ」という指導を行うところすらあるそうです。

 もうひとつ、新薬の認可制度も悪影響をもたらしています。保険が適用される麻薬の種類は限られており、他の先進国に比べて少なくなっています。たとえば、「フェンタニル」という先進国では幅広く使われている薬剤はモルヒネに比べて副作用が少なく、とくに腎臓の機能障害を起こしている人は、モルヒネを多く使うと意識が落ちてしまうケースが多いのでモルヒネの代わりにフェンタニルで疼痛を和らげることが必要であるのに、日本においてはフェンタニルはゆっくり効くタイプの貼り薬しか認可されていません。レスキューとして使うにはフェンタニルの注射薬が適切なのですが、認可されていないため、もしも使った場合は「自由診療」扱いになります。

 自由診療になるということはどういうことかというと、使用したフェンタニル注射薬の薬剤の代金だけが保険の適用外になるばかりでなく、入院時まで遡ってすべての医療費が保険の適用外となるため、それまでの3.3倍のお金……数百万円という膨大な金額になってしまうこともあるのです。

 自由診療の「自由」には国による保険制度という管理システムに対する「オキテ破り」の懲罰として膨大な請求書が届く……という図式が見えてきてしまいますね。

 ……というような実態を、病院外の人に幅広く知ってもらいたいということが今回のセミナーの趣旨で、私は忠実にそのメッセンジャーの役割を果たしているのかな?ちなみにレクチャーしてくれたのは、某大学病院で緩和ケアを実践している麻酔医と看護師でした。

 ま、単なるメッセンジャーでは能がないので、そのうち、また別の病院関係者などに直接インタビューしたりして、多方面からの情報も集めつつ、某看護医療系の専門誌にレポート記事を書くつもりです。

 がんで亡くなる人は3人に1人。生還した人も含めれば、日本人の2人に1人はがんにかかっているわけですから、がん疼痛治療の問題は、まさに他人事じゃないのです。

 ちなみに、過去には こんな記事 も書きました。読んでみてね。





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最終更新日  2003年11月21日 16時23分24秒


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